国宝 伴大納言絵巻展
出光美術館で開催中の“国宝 伴大納言絵巻展”(11/5まで)をこれから見にいこうと計画されている方は10/31~11/5に出かけられたほうがよろしいかと。
というのは、10/17から10/29までは3巻のうち本物が展示されるのは1巻のみで、あとの2巻は複製なので。3巻とも本物は10/7~10/15と会期の最後6日だけ。チラシにこのことは書いてあるが、出光で国宝の絵巻が展示されるという情報だけで入館すると、こんなハズではなかった!と残念なことになるので念のため。
この有名な絵巻は10年くらい前、大阪の出光美術館(現在は閉館)で3巻全部、今回のように混雑のなか、誘導係の人にせかされて鑑賞するのでなく、たっぷり時間をかけてみた。同じ絵巻をみてもその時とは観るポイントや関心が変った。例えば、炎上する応天門の真っ赤な炎を前は“おおー、すごい迫力!”と食い入るようにみたが、最近は地獄草紙や餓鬼草紙などで赤い炎に目が慣れたこともあり、心拍数はあまり上昇しない。
そして全体のストーリー展開は頭に入っているので、今回は鑑賞のエネルギーをもっぱら目に焼きついている面白い場面や巧みな人物表現に注ぎ込んだ。この絵巻にはのべ461人の人物が描かれているらしい。主役の伴大納言、応天門放火の犯人に仕立てられた源信、天皇、太政大臣のほか、貴族、女房、舎人、家司、そして一般庶民の男女、老人、子供。ほかに画面にスピード感を与える重要な役割をになっている馬、牛、さらに犬も2匹登場する。
上巻の出だしは、検非違使が乗っている馬の動きが目を惹く。6頭の馬も応天門からあがる赤い炎と黒煙に興奮気味。先頭の馬を御する男の一生懸命さが伝わってくる。この場面の人物描写では、草履をもった僧侶のスピードスケートの選手のような格好に目が点になる。僧侶は火事となると、俗人以上に血が騒ぐのだろうか?朱雀門をくぐりぬけ、火の粉が飛んでくるほど近くまで行って応天門の炎上を眺めている人々のなかには、体が地面と水平になるほどダイナミックに描かれた者もいる。
中巻は絵巻のなかで一番面白い場面がでてくる。子供の喧嘩に、親が出てきて、あろうことかよそ様の子供を足蹴にする。水玉模様の着物をきた子供は両手を上にあげ、体を反り返らせている。喧嘩相手には髪の毛をむしりとられ、その上父親からも力いっぱい蹴られたのではたまらない。こうなると親も黙ってない。“あんた、あのこと皆に言いふらしちゃおうか!”、“んだ、あの伴大納言の出納の奴、いつも横柄な態度をとりやがって、ムカつくけど、よくも息子を痛めつけてくれたな。もう我慢ならねえ”。
で、右の場面になる。妻は腰をまげ、五本の指をおおきくあけ、ありったけの声で、また男は顔をふくらまし、腹の底から“応天門に火をつけたのは伴大納言だぞー!”と叫んでいる。この舎人の逆襲が引き金になり、やがて真犯人、伴大納言は逮捕される。子供の喧嘩に親がちょっかいをだすという偶然起こった話しを使って、意外なストーリー展開に仕上げるのだから、この絵巻を描いた絵師は一級のシナリオライターである。ここは一番気に入っている痛快な場面。またまた楽しんだ。
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コメント
こんばんは。
この絵巻アメリカに流失しまわなくてほんと良かったですね。
出光さまさまです。
投稿: Tak | 2006.10.16 17:40
三大火焔表現お教えくださり、
ありがとうございます
平治物語絵巻と不動明王像、
ぜひ見たいものです。
投稿: 一村雨 | 2006.10.17 07:04
to Takさん
本当に良かったですね。平治物語絵巻はボストン美にあり、これが
流失していたら、火焔表現の傑作が日本でみれなくなるところでした。
投稿: いづつや | 2006.10.17 08:34
to 一村雨さん
平治物語絵巻が名古屋ボストン美術館に里帰りしたときは
広島にいたので、残念ながらみれませんでした。日本画の場合、
ボストン美に出かけても常時展示してあるわけでもありません
から、気長に待つことにしてます。
幸いにも、昨年7月、東博に模写がでてましたので仮おきで観
たことにしてます。
投稿: いづつや | 2006.10.17 08:48
こんばんは。
初コメント及びTBさせていただきます。
(TBを二回送ってしまったので、御手数ですが一つ削除して下さい。)
中巻の出納の足蹴のシーンは非道ながらコミカルさの感じられるシーンですね。
上巻の応天門炎上、下巻の伴大納言逮捕という深刻なシーンの間で、庶民感覚な描写で印象に残りました。
投稿: mizdesign | 2006.11.04 23:04
to mizdesignさん
こんばんは。コメント、TB有難うございます。伴大納言
は見所の多い絵巻ですね。火炎表現、これを見つめる
人々の表情や動作、泣き崩れる女たち、子供のけんかに
親がでてくるところ、真相を言いふらす夫婦、背中で伴
大納言と濡れ衣を着せられた源信の心理状態を感じ取
らせる場面など々。
絵師は一流の絵描きであり、シナリオライターですね。
長い行列のなか、ご苦労さまでした。
投稿: いづつや | 2006.11.04 23:43