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2006.10.17

村上豊の挿絵

508名前や存在を全く知らなかった作家が突然目の前に現れることがある。それが、今回、目白にある講談社野間記念館で起こった。

過去2回みた企画展でとてもいい日本画が展示してあったので、現在開催中の“近代日本の花鳥画展”(10/22まで)も期待がもてると確信して出かけた。この美術館は一つ注意することがある。休館日はなぜか月曜と火曜の2日。前回、火曜に行って、ガックリした。

仕切りなおしで、速水御舟や土田麦僊らビッグネームの名品を存分に楽しんだ。そして、一通り観終わったあと、“画家の名前は聞いたことないが、まあ時間もあるから観てみようか”と、最後の展示室に入って作品をみていたら、だんだん目に気合が入ってきた。目の前にあるモノクロームや色つきの小説挿絵にすごく引き込まれる。画家の名前は村上豊。“こんなに面白い絵を描く画家がいたのか!これは大発見”と心の中でつぶやいた。何に惹きつけられたのかを述べる前に、本来の訪問目的である“花鳥画”について、少しふれておきたい。

今回、お気に入りの画家の、しかも、Aクラスの作品がいくつもある。椿の赤い大きな花と枝にとまる琉璃鳥の青い羽根が鮮やかな速水御舟の“朱華琉璃鳥”と装飾的で上品な趣が酒井抱一の作風を連想させる小茂田青樹の“四季花鳥”は代表作の一つに数えられている名品。そして、“十二ヶ月”と題された花鳥画の色紙が飾ってある部屋が至福の空間。小茂田青樹、徳岡神泉、福田平八郎、堂本印象が描いた“十二ヶ月”は小さな部屋で響き合っている。いずれも高い水準の花鳥画で、余白を充分にとり、各々の好きな対象を配する構成は見事。三の丸尚蔵館で酒井抱一の名品、“花鳥十二ヶ月図”を楽しまれた方は、ここの色紙でもいい気持ちになれるかもしれない。観てのお楽しみ。

さて、主役の花鳥画と同様に大きな感動を与えてくれた村上豊(1936~)の挿絵である。人気小説家の作品の挿絵をこんなに多く手がけていたとは知らなかった。司馬遼太郎の“風の武士”(1960)が最初の小説挿絵だったようだ。ここには司馬の“箱根の坂”の原画がある。ほかには、山田風太郎の“エドの舞踏会”、向田邦子の“女の一指し指”、渡辺淳一の“雲の階段”、五木寛之の“みみずくの散歩”、三好徹の“興亡三国志”、吉村昭の“彰義隊”、右の赤瀬川隼の“新・義経物語”などがある。これらの小説は一部しか読んでないが、書かれた場面や情景を絵が上手く表現しているような気がする。はじめてみる絵だが、これを観ただけで村上豊がすごい才能の持ち主だということがわかる。多くの作家から声がかかるのも納得。

“新・義経物語”のなかからピックアップされた原画を夢中になってみた。女のような顔をした義経が凛々しく馬に乗り、敵陣に向かっていく場面などは美しく、躍動感にあふれている。鎧や衣装の色の組み合わせが素晴らしい。また一人、カラリストを見つけた。描写力については、体や手を横とか上に引き伸ばしたり、アクロバティックにひねったりする人物表現が漫画チックで、見る者をギョッとさせる。右は弁慶が最後の力を振り絞って敵と戦う場面。片足を上げ、鬼の形相で長刀を振るかざす姿は迫力いっぱい。

福王寺法林に続いて、村上豊という自由闊達な筆さばきをする画家と遭遇した。来年、3/17~5/20、ここで行われる村上豊の特別展が楽しみ。

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コメント

村上豊さんの挿画は、味がありますね。私にとっては五木寛之作品の挿画が印象深いです。挿画は、画家と作家が息があったときには、素敵な世界を作ってくれます。この展覧会、いってみようと思います。

投稿: 自由なランナー | 2006.10.17 22:26

to 自由なランナーさん
他の展覧会がつまっていたら、この村上豊の挿絵を
見逃すところでした。“新・義経物語”に大変魅せら
れたので、受付のところにおいてあった“絵本 義経
ものがたり”(講談社、06年8月)を購入しました。

今、この絵本を毎日ひろげて見てます。構図を上手く
とった情景描写、ユーモラスな人物表現、見てて楽しく
なります。

投稿: いづつや | 2006.10.17 22:44

むふふふ。いづつやさんもとうとう村上豊の魅力に取り憑かれましたね。わたしは挿絵文化そのものが大好きなので、野間と弥生美術館は欠かせない場所です。
絵本も楽しいですし、吉村昭と組んだ作品もよかったです。
時代物が一番良いようにも思いますが、現代ものもわるくないですし、タブローも素敵です。
身体のクネリがまた特徴的ですね。
ああした線を描ける人は他には金田伊功くらいしか思いつきません。
墨絵としての魅力もあるように思いますし、色彩感覚の魅力も深い。
村上豊はこの先もどんどん素敵な作品を生み出してくれそうです。

投稿: 遊行七恵 | 2006.10.18 21:53

to 遊行七恵さん
歴史小説の挿絵を中心にみたのですが、200%KO
されました。人物表現も面白いですが、山水の風景画
も上手いですね。“興亡三国志”で歩兵の隊列が前進
する場面を墨で描いた作品などにしびれました。
村上豊のほかの挿絵をもっとみたいです。

投稿: いづつや | 2006.10.19 13:25

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