竹内栖鳳の斑猫
現在、山種美術館で開催中の“竹内栖鳳と弟子たち展”(11/19まで)は豪華なラインナップ。タイトルを“山種所蔵名品展”と変えたほうがいいくらい、名品がでている。
今回展示されているのは所謂京都派と呼ばれる作家の作品で、このグループの中心人物が竹内栖鳳。上村松園や村上華岳などは竹内栖鳳の弟子には違いないが、明治以降の画壇では、作家は皆独立して作品を制作していたから、彼らが師匠である竹内栖鳳の作風に大きな影響をうけたということはそれほど無い。絵を描く上での関わりというよりは、精神的につながっていたとみるべきであろう。
竹内栖鳳と上村松園は縦の関係ではなく、ともに日本画の伝統を受け継ぎ、さらに新しい作風をめざして、自分の画業の質を高めていった画家集団の先導者であった。だから、会場に来てこの画家も、あの画家も一応竹内栖鳳の弟子にあたるなと思い起こし、これだけのビッグネームが名を連ねると、当然のように名画のオンパレードになるはずだと納得した。
お目当ては6年ぶりにみる竹内栖鳳の上の“斑猫”だったのに、ほかにも山種のお宝がいくつもあるので、頭がくらくらした。好きな絵をあげると上村松園の“砧”、村上華岳の“裸婦図”、土田麦僊の“大原女”、小野竹喬の“沖の灯”、福田平八郎の“彩秋”、池田遙邨の“鳥城”。竹喬の“沖の灯”は登場するのを心待ちにしていた作品。海の深い青と横に伸びるピンクの雲は見事なコントラストを見せている。カラリスト、竹喬の素晴らしい色彩感覚にいつものことだが脱帽。
竹内の作品は22点ある。この画家の水墨画や女性画、また、獅子などを描いた大作屏風にはあまり感動しない(拙ブログ06/3/20)。魅了されるのは“鴨雛”、“み々づく”、“風かおる”、“梅園”、“潮来小暑”のような花鳥画や黄色とうす緑を基調色にした風景画。ここにはもう一点、今回は出てないが中国の蘇州の風景を描いた“城外風景”といういい絵がある。
竹内栖鳳の高い画技が窺がえるのはなんといっても“班猫”(1924、重文)。首をまげ、わき腹をなめるのはよくみる猫のしぐさ。猫や犬を家で飼ったことがないので、はっきりわからないが、こんな瑠璃色の目をした猫が実際にいるのだろうか?毛一本々の描き方は精緻で、柔らかい毛の感じがよく表現されている。この猫をみたら、竹内栖鳳がリアルな虎を描かせたら右に出るものはいない円山応挙の流派からでてきた画家だということに納得がいく。たいした絵である。
これまでみた猫の絵で、“班猫”と同様、こまかい毛の描写が印象深く残っているのが2点ある。真ん中の菱田春草が描いた“猫梅”(部分、1906、足立美術館)と下の加山又造の“微風”(1994、吉野石膏)。“猫梅”で描かれた猫の白い毛は若冲の“動植綵絵”に出てくる鶏や孔雀のレース地を思わせる羽根と同じ質感をもっている。加山のゴールドを使った毛の描写も実に繊細。
今回は竹内の猫の絵だけで大満足なのに、ほかの名品も堪能させてもらった。やはり、山種にはすごい日本画がある。
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コメント
いづつやさん
こんばんは
この展覧会はとても贅沢な展覧会でしたね。
> 絵を描く上での関わりというよりは、精神的につながって
> いたとみるべきであろう。
弟子たちがいろんな画風なのが、とても印象に残りました。
『班猫』はとてもよかったのですが、私は菱田春草の作風が
とても好きなので、上の『猫梅』を観たくなってきました。
# 島根にはなかなか足が向かないのですが...(^^;
投稿: lysander | 2006.10.21 21:19
to lysanderさん
菱田春草がお好きですか。死ぬ少し前に描いた
“落葉”や“四季山水”は絶品ですね。“猫”
シリーズは“黒き猫”、“柿に猫”、“猫梅”
はすでに見ましたので、残る1点“梧桐に猫”
(個人蔵)に会えるのをじっと待ってるところ
です。
足立美術館の“猫梅”はいい絵ですね。“班猫”
は猫単独なのに対し、“猫梅”は花鳥画です
から、日本画らしい雰囲気がありますね。どち
らも名画にちがいありません。
投稿: いづつや | 2006.10.21 23:29
お久しぶりです。
猫の絵に思わず反応してしまいました。
上の3点とも実際の猫よりちょっと表情は怖いのですが、
やっぱり猫好きにはたまらない作品です。
竹内栖鳳の“班猫”によく似た猫ちゃん、いますよ。ここに。
http://thecatwho.blog73.fc2.com/blog-entry-44.html
投稿: リセ | 2006.10.22 08:49
to リセさん
リセさんは大の猫好きでしたね。猫の画像を3つも
載せた効果がでました。お元気ですか。瑠璃色の目に
この猫の美しさを感じます。まわりにこんな目をし
た猫は見ないのですが、実際にいるのですね!
リンクをはっていただき有難うございました。
リセさんも御贔屓の前田青邨の絵を昨日、また一点
みました。東博の平常展に“朝鮮之巻”をやっと
飾ってくれました。大回顧展があったので青邨も
済みマークがつきそうです。
投稿: いづつや | 2006.10.22 17:04
いづつやさん、こんばんは
私も「班猫」を見てきました!
仰るとおり、“山種美術館名品展”な展覧会で満足でした。
「班猫」を見るのは初めてでしたが、毛並みの描き方、ポーズの面白さ、存在感…とても際立っており、絵が輝いて見えました。
パネルの説明で栖鳳の教育者として非常に優れた面を知りましたが、弟子の個性を尊重するやり方は全く見当違いかもしれませんがモローを思い出しました。
投稿: アイレ | 2006.11.18 02:18
to アイレさん
竹内栖鳳の水墨画は好みではないのですが、中国の風景
を黄色や青で彩色した作品と動物画は気に入ってます。
栖鳳の動物画は匂いがすると言われてるのですが、
MOAで鯛の絵をみたとき、魚の匂いがしました。とに
かく上手いです。班猫の目の色と柔らかい毛に惹きつ
けられます。
アイレさんのおっしゃるようにモローの教室でマティス、
マルケ、ルオーらが学んでますね。モローと画風がつ
ながってない点が似てます。
栖鳳は東の大観のような強烈な個性の持ち主ではない
ので、弟子たちは接しやすかったのでしょうね。若い頃の
栖鳳は円山派、狩野派、四条派の画風を折衷して描い
たので鵺(ぬえ)派と揶揄されました。才能があるから
器用にいいとこどりして描けたのでしょうね。
投稿: いづつや | 2006.11.18 16:24