« ベルギー王立美術館展 | トップページ | ダリ回顧展 その二 ダブル・イメージ »

2006.09.30

ダリ回顧展 その一 やわらかい時計・蟻

485
487
488
今年開催される洋画の展覧会では最も期待していたダリ回顧展(上野の森美術館、07/1/4まで)をみてきた。開館直後の平日だからゆっくりみれるだろうと思って入館すると、もう作品の前にかなりの列ができている。流石、ダリ。凄い人気である。

超シュールな絵だが、細密画みたいに対象をどうしてこんなに小さく描けるのかというくらい精緻に描写しているので、みんな目をこらし、時間をかけてみている。伊藤若冲の“動植綵絵”と同様、これくらいじっくりみないと、ミクロの隅々まで超想像力の広がったダリの絵は楽しめない。だから、列の動きが遅くなるのは致し方ない。この出足だと、週末は大変な混雑になりそう。

ダリの生誕100年を記念するこの大回顧展に展示される作品は油彩60点、素描30点。普通の海外旅行ではとても行けそうにないスペイン・フィゲラスにある“ダリ劇場美術館”(拙ブログ04/11/28)とアメリカ・フロリダ州セントピーターズバーグの“サルバドール・ダリ美術館”が所蔵するものだから、10点くらいを除いて大半が日本初公開。手元にあるTaschen社のダリの画集でチェックすると、掲載された57点のうち8点は今回の出品作だった。ダリの絵としては、名の知れた作品がかなり含まれていることは間違いない。これは目に力が入る。

作品はダリの初期のころから最晩年にいたるまで、年代別に並べられているので、画風の変化や画題のヴァリエーションがよく頭に入る。過去、海外や国内にあるダリの絵を鑑賞した体験にもとづき(04/12/1705/6/2706/2/27)、今回でている作品を作風の違いにより、いくつかに分け、その魅力をまとめてみた。

まずは、ダリの代名詞となった“やわらかい時計・蟻”から。1931年、ダリが27歳のときに描いた歴史的な傑作、下の“記憶の固執”(NY,MoMA)のヴァリエーションのようなのが2点ある。上の“夜のメクラグモ・・・希望”(1940)と真ん中の“記憶の固執の崩壊”(1952ー54)。2つの作品を念入りにみていると、こちらもいろいろと想像力を掻き立てられる。これがダリの絵をみるときの楽しみのひとつ。

“夜のメクラグモ”では溶けた時計は出てこないが、その代わりに、ぐにゃっと曲がったチェロが描かれている。そのチェロを演奏している裸婦のアクロバットのように反り返った顔は“記憶の固執”に横たわる人の顔と同じ。黄色の顔のうえには足をひろげたメクラグモと死の象徴である蟻がいる。上の女性の腹に置かれた二つのインク壷はエロティックを表す。

左のほうに描かれているのは複雑。大砲から飛び出てくる馬はわかるが、その下のウィンナーのような、スプーンのようなフォルムをしたものは何だろうか?硬いカマンベルチーズが部屋のぬくもりで溶けていく感覚からイメージされた曲がる時計のように、柔らかいチェロや顔が斜め平行に配置される画面構成が面白い。これはちょっと盛り沢山のきらいはあるが、特○作品のひとつ。

“記憶の固執の崩壊”は意外にも小さな絵。明るい色調で描かれ、“記憶の固執”とはだいぶ雰囲気が異なる。上半分は背景の海岸風景など同じような構成だが、蟻は登場せず、人間の顔はシュールさが緩み、きれいな魚のようにすっきりしている。下の長方形の塊が連続する幾何学的な模様は“原子力の核”を意味し、この絵は核の時代により、世界が変ったことを表している。絵全体から受ける印象は“夜のメクラグモ”のような、幻想的でぬめっとした不思議な世界ではなく、発想の自由度がせばめられ、逆に硬さが感じられる。好みからすると、“夜のメクラグモ”のほうが断然いい。

|

« ベルギー王立美術館展 | トップページ | ダリ回顧展 その二 ダブル・イメージ »

コメント

おお、早速行ってこられたのですね。
僕はどこかからの招待券を期待しています/笑。
朝日とフジサンケイグループですから相当インパクトがありますよね、僕はいつ行こうかしらー。
今日は古代オリエント博物館、明日は八王子夢美術館とすいているところばかり狙っている僕です。

投稿: oki | 2006.09.30 22:17

to okiさん
今回展示されてる作品は代表作がかなりきてます。Taschenの画集にでて
るのも8点ありますし、岩波の世界の美術シリーズ、“ダリ”(02年)のなか
にも上の“夜のメクラグモ”を含めて18点が載ってます。

上野の森美術館はペア券をつくるなどのサービスはしてくれませんが、近代
絵画の展覧会では、何年か前のMoMA展のように、時々大ヒットをとば
してくれます。今回は大拍手です。

投稿: いづつや | 2006.10.01 11:26

いづつやさん、ゴージャスな記事にして下さいましたね。
感謝です。今回は、ダリの素描とか、超リアリズムの「パン籠」が見ることができて、感激しました。
「パン籠」は、高橋由一のとうふを思い出しました。
1月までの会期なので、落ち着いたら、また行ってみようと思っています。

投稿: あべまつ | 2006.10.01 15:18

to あべまつさん
今回はダリの画集にのってる作品がかなりありますね。もうたまらない気分
です。画題的には怪しい作品もたくさんありますが、それでも稀代のシュル
レアリトの絵が発する幻覚的なイメージには惹きこまれますね。“パン籠”
は明日、取り上げようと思います。まだ、会期は充分ありますから、また
行くつもりです。

投稿: いづつや | 2006.10.01 22:57

いづつやさん、こんばんは
ようやくダリ展について記事にしましたのでTBさせていただきました。
シュルレアリスムは私にとっては少々難しかったですが、今回は見たまま感じたままを感想にしてみました。
今はいづつやさんの詳しい感想をうかがい、事後確認といったかたちで作品を頭の中で理解している最中です。

ダリ展に限りませんが、いづつやさんが上で仰るとおり上野の森(フジ・サンケイ)は現代美術のいい作品をもってきてくれますね。(ただ宣伝の仕方は気に入りませんが・苦笑)

投稿: アイレ | 2006.10.20 02:47

to アイレさん
海外の美術館から作品をもってくる場合、作家の画集
に載っている作品が何点か入ってないと、感激しま
せんよね。今回のダリ展には岩波の美術シリーズや
全世界で販売されているTaschen社の画集にのってる
作品がかなりありますので、大満足です。

超リアリズムに描かれたパンに驚愕し、ダブルイメージ
にちょっと苦労し、最後は古典へ回帰した作品で心拍
数を元に戻すといった感じでした。

シュルレアリスム作品ですから、幻覚的で、夢のなかで
みる不思議な世界がでてこないと面白くありませんが、ダリ
はスーパー描写力でこれを精緻に絵画化してくれますから、
絵の中に引き込まれそうになります。まだまだ、ダリを追っ
かけます。

投稿: いづつや | 2006.10.20 14:16

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: ダリ回顧展 その一 やわらかい時計・蟻:

» ダリ回顧展!! [あべまつ行脚]
ついに行ってきた、ダリ展へ。噂によるととんでもない行列だったとか。 友人と待ち合わせして、げっそりな状況だったら、東京国立博物館へ移動しようかとも思っていたが・・・ [続きを読む]

受信: 2006.10.01 15:21

» ダリ回顧展 [青色通信]
ダリ回顧展9月28日 上野の森美術館(〜2007年1月4日)   ダリ(1904〜1989)生誕100年を記念した展覧会に行ってきました。 始まった当初から“混んでいる”と聞いていた展覧会でしたが、平日に行ったにもかかわらず、本当に混んでいました。....... [続きを読む]

受信: 2006.10.20 02:31

« ベルギー王立美術館展 | トップページ | ダリ回顧展 その二 ダブル・イメージ »