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2006.08.18

若冲のここが好き! その二 ミニマルアーティスト

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30幅ある“動植綵絵”の大半は花鳥画である。残りは図鑑をみてるような気になる虫や魚、貝などの絵。若冲は絵描きになろうと決心したあと、どの派にも属さず、狩野派の絵や中国画を相当な数、模写し、絵の基本要素である形の表現方法、色使い、画面構成をマスターしていく。

学問でも、芸術でも普通は師匠の指導をうけて知識を増やし、知力をつけたり、技をみがき、そこそこの作品をつくるレベルに到達するのであるが、規格外の感性があったり、天分の才能に恵まれている者はコーチングされなくても、独自の道を切り開いていける。革新的な画法を次々と考えつき、それにより全く新しい画風の絵が描けるのだから、若冲の絵師としての潜在的な能力はかなり高かったのであろう。

伝統的な絵を模写しても、所詮は狩野派、中国画のコピーにすぎない。自分の感性に自信のある若冲はこれまでとは違った絵を描かなければ面白くないと思ったにちがいない。芸術家にとって生命ともいえるオリジナリティがどういう風に若冲の絵に表れていったかは、動植綵絵の30幅を絵のタイプで分けて、比較してみると少し見えてくる。

上の絵は“雪中鴛鴦図”。この絵と拙ブログ3/28で取り上げた“芦雁図”にはほかの絵とは大きく異なるところがある。それは日本画の特徴である余白があること。雁の羽根の一部を画面の外にだしたり、鴛鴦が立っている岩の右をトリミングしたりして画面を広げるとともに、鳥と木々以外は描きこまず、余白を大きくとり、シンプルな画面にしている。雪は夏のかき氷にかかっている練乳のように粘っこく描かれているが、シンプルでゆったりした感じが日本人の琴線に触れる。

“雪中鴛鴦図”はシリーズのなかでは最初のころに描かれた絵。この絵との関連で思いあたる絵がある。昨年、根津美術館であった“明代絵画と雪舟展”に中国人画家、文正が描いた“鳴鶴図”(重文、相国寺)という鶴のポーズと全体の構図がとても印象的な絵がでていた。そのとき、直感的にこの絵を若冲は見たのかな?と思った。若冲が描く鶴の羽根の質感とこの絵にでてくる鶴の描き方が非常に似ていたからである。

今年になり、2月に出版された佐藤康宏著、“もっと知りたい伊藤若冲”(東京美術)をぱらぱらめくっていると、若冲が文正の絵を模写したのがあった。“雪中鴛鴦図”と“芦雁図”は手本にしていた日本画や中国の絵の作風がまだ色濃く残った絵をいえる。雪の描き方は若冲ならではのものだが、構図などは伝統にそっているから、半オリジナリティ作品である。“雪中鴛鴦図”にぞっこん惚れていて、“日本の花鳥画のなかでどれが一番好きか?”と聞かれると即座にこの絵と答える。

下の絵はオリジナリティ全開の作品で、20世紀にもとどくような新しさがある。右が“薔薇小禽図”で左が“牡丹小禽図”。30幅のなかで、色を最も気持ちよく感じられたのがこの2つ。細密に描かれた赤、ピンク、白の花が画面いっぱいにリズミカルに配されている。直近に観た“薔薇小禽図”の花弁の美しさといったらない。小さな鳥がいることはいるが存在感はあまりない。ここでの主役は花。だが、その花に生気は感じられない。

目に心地いいのは画面上下に繰り返されるデザイン化された3種類の花模様。透明感のある白面、黄色の点々でできる小円、中心から放射状に引かれた白の細い線模様などはとても優雅で洗練されている。対象の意味を超えて、色や形に美を求めたミニマルアートの作品をみているようだ。“梅花皓月図”や“梅花小禽図”(拙ブログ6/18)でも同じような感覚にとらわれる。若冲はミニマルアーティストの先駆けではないかと思う。

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