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2006.08.20

若冲のここが好き! その四 デフォルメの達人

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“動植綵絵”やほかの彩色画を観ていると、若冲は西洋の画家と同じ心で絵を描いているのではないかと率直に思う。“芦雁図”のような数点を除いて、大半は画面いっぱいにモティーフが描き込まれている。鳥の羽根、花弁のミクロ模様を無限に繰り返す画風はまさにミニマルアートと変らないし、これはもう完全に日本の花鳥画の範疇を越えている。

画面を埋め尽くさないと気がすまないというのは、塗り残すことに意味を見出さない西洋人画家の心根と同じということである。並みの絵でこれだけびっちり、しかも濃彩で表現されると観る者はそのビジーさに辟易し、もうイイやと絵の前から離れたくなるのだが、若冲の絵はそういう気持ちにならない。それは裏彩色などの超技巧を駆使して細部にいたるまで手抜きをしないで、精緻に描写されているから。若冲の彩色画はミクロに美が宿っているのである。

“このあたりをすっきり描いたら、もっとぐっとくるのになあ!”と東洋美術のエッセンスである余白の効用を感じる作品がある一方で、この若冲ワールドに嵌り、“これほど綺麗な花弁なら、余白をとるなんてもったいない。もっと沢山描いてくれ!”という思いにも駆られる。若冲のオリジナリティ溢れる彩色画はこのようにこちらの心を微妙に揺さぶるのである。

では、若冲が描く水墨画におけるオリジナリティは何か?色は墨の濃淡ときまっているから、新機軸を出せるのは対象の形。若冲が描く鶏は一風変っている。大胆にデフォルメされた鶏の姿態とあまり見たことのないポーズに驚く。鶏は頻繁に観察していたから、体の動かした方、顔の表情の変化がよくわかったのだろう。そこで、まず、普通の鶏の姿から描きはじめ、だんだんデフォルメの度合いを強くしていく。

上の“捨得および鶏図”(部分、京都・禅居庵)の鶏にはハットする。生き物がこのように真正面をむいているのが珍しい。龍や虎は水墨画によくでてくるが、たいてい横とか斜めの動きで表現される。鶏をこちら向かせ、西洋画の短縮法のように縦に描く場合、普通に描くと長さを縮めている分、インパクトに欠ける。そこで、ユーモラスにみえる大きなまる顔にしたのだろうか。怒ってるからまる顔になっているのか、太った鶏だからそうなっているか判明しないが、この鶏のポーズは実に面白い。“動植綵絵・芙蓉双鶏図”でもアクロバット的な格好をした雄鶏がでてくるが、このまるまる顔の鶏に一番惹かれる。

若冲は鶏でデフォルメのやり方をマスターし、それを鶴や人物に応用していったのではないだろうか。左の“捨得”の河童頭も笑える。デフォルメの達人ぶりが窺がえるのが、プライスコレクション展に出品されている“鶴図屏風”(拙ブログ7/7)や真ん中の“松上白鶴図”(部分、東博)。卵のような体に頭がちょこっとのっかっている。岩の皴法のように激しいタッチで描かれた松の葉と太った鶴の対比に不思議な魅力を感じる。

若冲の人物画は少ないが、下の“六歌仙図”(部分)は戯画の類。この絵は今年、愛知県美であった“江戸絵画展”にでていた木村定三コレクションのひとつである。場面は六歌仙が田楽を焼き、酒の肴にしているところで、若冲の笑いのセンスはなかなかのもの。これが自分の部屋にあればどんなに楽しいことか。

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コメント

いづつやさん、こんばんは。

暑い日々ですが、若冲のここが好き!シリーズの熱い分析に感服しています。

あれだけ描き込んで、多色使いをしてきたのに、水墨画は一転して、引き算もごっそりしていますね。
この幅が魅力のひとつと思っています。

まだまだ若冲の魅力は失せません。
来年、相国寺まで、行かれるといいのですが。

つづき、あるのですか?楽しみです。

わたくしのブログ、「あべまつ遊山」のほうが使いにくくなってきましたので、「あべまつ行脚」のほうにブックマークさせていただきました。
これからもよろしくお願いいたします。

投稿: あべまつ | 2006.08.21 22:16

to あべまつさん
また、ネットの調子が悪くなり、現在、プロバイザーを変更中です。返事が
大幅に遅れて申し訳ありません。9/16ごろから更新を再開します。

“若冲のここが好き!”は5回で終了です。あと一二考えてるテーマ
があるのですが、まだ、材料が不足してますので、イメージが固まれば
なにかの機会に書き足したいと思います。

彩色画でも水墨画でも、ほかの画家の絵とこれほどシンクロあるいはコラボ
する文化記号とは思ってもいませんでした。文章は忘れていただいて、画像
をお楽しみ下さい。

投稿: いづつや | 2006.09.02 14:14

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