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2006.08.16

伊藤若冲の動植綵絵 その五

457三の丸尚蔵館で公開中の若冲作、“動植綵絵”も最後の6幅となった(5期:9/10まで)。

今回は展示スペースの関係で全30幅を五回にわけてみせたので、見終わるのに半年弱という長い時間を要したが、振り返ってみるとこの展示方法も悪くないなという気がした。

それはこの絵は1幅々の密度が濃いため、一度の鑑賞で目と体が受け入れられるキャパシティは6幅ぐらいが限度かなと感じられたから。画面に描きこまれている対象やその表現技法から発せられる色や形、絵肌の情報があまりに多く、これを楽しむのに時間を食うのである。こんな絵はほかにない。“ここに鳥が一羽いた!”、“葉っぱの上にカブト虫がいる“、”鶏の首のまわりの羽根の描き方は足のつけねのところとは違う”。。。単眼鏡の助けを借りると細部が拡大されるから、ファンタジックな若冲ワールドに迷い込んだのではないかと錯覚する。

だから、掛け軸から一歩下がって“若冲はこの絵で何を描こうとしたのか?”と腕を組んで見るようなことはとてもできない。それより、ガラスに顔をできるだけ近づけて、細密に表現された花弁や鳥の羽根の豊かな色彩や多様なフォルムを隅から隅まで体の中に吸収し、目に焼きつけたい。“動植綵絵”に限って言えば、四季を表す花や鳥、昆虫、魚を“若冲はどんな色の組み合わせで、どんな質感を出そうとして描いてるのか?”に鑑賞のエネルギーを注ぎ、装飾的で幻想的な絵画空間を目一杯感じたほうがずっと楽しい。こういう風に6幅をみていくと1時間くらいすぐ経ってしまう。

5期にでているのは右の“老松孔雀図”、“芙蓉双鶏図”、“薔薇小禽図”、“群魚図・蛸”、“群魚図・鯛”、“紅葉小禽図”。“老松孔雀図”ではほかのどの絵にも使われていない色がでてくる。それは孔雀の尾羽の先に円く彩色された金色。群青と緑を囲む金泥は孔雀の定番色。一本々綿密に描かれたレース地のような白い毛が金色をひきたて、華やかな雰囲気を醸し出している。金色は目のまわりにもみえる。

背景の松と岩は“老松白鶏図”や“老松鸚鵡図”でもそうだったように、孔雀の白がいっそう美しくみえるように暗い色調の茶、緑、青にしている。“白鶏”と“鸚鵡”の場合、色数が少なく、白と赤(鶏のとさかと太陽)、白と青(インコ)しかなかったが、この“孔雀”では画面の下と右中央に大きな赤、ピンク、白の牡丹を配し、画面をひきしめている。とくに鮮烈な赤が印象深い。孔雀と牡丹を一緒に描くのは中国画の定石。

若冲の白もこれが見納めかと羽根の描き方をしっかり見ると、尾羽のあたりから首にかけて、7タイプの羽根模様があった。どうやってこの模様をイメージしたのだろう?不思議でならない。現代絵画のミニマルアートを見るようだ。この“老松孔雀図”の隣りに、円山応挙の孔雀図では一番いいと言われる“牡丹孔雀図”がある。こちらの孔雀は若冲とは対照的に、今にも動き出しそう。羽根の表現は装飾的だが、孔雀の生気が感じられる写実の極みのような作品である。

ほかの“動植綵絵”では、巧みに構成された枝に紅葉が咲き乱れる“紅葉小禽図”と小さな3種類の薔薇が柔らかいタッチで美しく表現された“薔薇小禽図”に魅了された。白で花びらのふちをとったり、中心から放射状に細い白の線が実に丁寧に描かれている“薔薇”を単眼鏡で見ていると、時間のたつのを忘れてしまう。

若冲の最高傑作、“動植綵絵”を6ヶ月にわたり、たっぷり時間をかけてみてきた。気分が高揚し、絵画の楽しさを存分に味わった。これほど幸せなことはない。“若冲、有難う!”と大きな声でいいたい。なお、4期の拙ブログは7/87/28

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コメント

こちらにもおじゃましています。
本当に「動植綵絵」6幅だけでも1時間は十分かかりますね。
一回全体を見、また引き返して今度は細部を見、そして前2回の印象を踏まえてまた見…(私の鑑賞法です)そんなこんなで1時間くらいはかかってしまいました。
白孔雀の羽は7パターンもありましたか!?
それはうっかりしていました。次回また行けたら確認したいと思います。
来年は京都での全幅展示ですが、こちらにもトライしてみたいです。

投稿: アイレ | 2006.08.17 17:54

こんばんは。

同じく「ありがとう!」と
心から叫びたいです。
夢のような半年でした。
(まだ終わっていませんが。。。)

お気に入りの一枚はどれですか?
「人気投票」作ってみました。
宜しければ是非。

またお会いした時にじっくり語りましょう。

投稿: Tak | 2006.08.17 18:23

to アイレさん
若冲の彩色画は細部を色々イメージをふくらましながら、追っかけていく
見方がいいですね。絵はすこし離れてみるほうがいいのですが、若冲は
例外ですね。

時間はかかりますが、不思議な体験をさせてくれますから、もう一回みよう、
また、、となります。京都の相国寺で全幅出てくるときは、興奮するでしょ
うね。今から楽しみです。

投稿: いづつや | 2006.08.18 17:49

to Takさん
久しぶりの動植綵絵をしつこくしつこく観ました。こんな見方をする絵は
他にはありません。情報量が多いですから、今を生きる人にはもってこ
いの絵かもしれませんね。30幅をレヴューしてみますと、最初はこれが
一番いいかなと思ってたのが、途中でこちらもいいかなと。。迷いますね。
とにかくすごい絵です。

投稿: いづつや | 2006.08.18 18:02

いづつやさん、こんばんは。
先日はどうもありがとうございました。
またお話を聞けて愉しかったです!

仰る通りこのように分けた形で見るのも良いですよね。
6点ずつ、無理な拝見することが出来ました。

動植綵絵の中でいづつやさんの一推しはどれでしょうか?
どれも甲乙付け難いのですが、
私も頑張ってTakさんの人気投票に参加させていただきました!

投稿: はろるど | 2006.09.03 22:00

to はろるどさん
返事が遅れてすいません。現在、別のプロバイザーに変更中で、9/16
ごろ再開の予定です。暑気払いの会では大変楽しいお話をさせていただき
ました。

動植さい絵の投票は“菊水”にしました。花鳥画としてみるなら、“雪中
鴛鴦図”にぞっこんなのですが、若冲の底知れぬ画才に注目すると、現代
アートにも通じる“菊水”に一番惹かれます。

投稿: いづつや | 2006.09.04 16:42

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