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2006.07.25

奥村土牛の那智

444美術館と美術館の距離が近いとセットで回ることが多い。

渋谷方面だと、日本民藝館と松涛美術館、あるいは陶磁器専門の戸栗美術館。府中美術館へ行ったときは損保ジャパン美術館をペアリング。白金台だと東京都庭園美と松岡美術館を同時に見る。

アクセスのちょっと悪い山種美術館の場合、東近美の本館か工芸館へ行ったあと訪問する。ここはもう何年も通っている。いつもは見終わったあと、絵葉書を購入してファイルしていたが、代表的な所蔵品を相当数みたので前回、分厚い図録を買った。ときどきこれを眺めているが、近代日本画を代表する名画が沢山あるので、観てて楽しい。

手元にある日本画の図録は山種、東近美、京近美、足立美の4冊。ここに載っている作品の全部ではないが、ビッグネーム画家のものをつぶしていこうというのが当面の観賞計画。もう最終コーナーを回って、残り100mという感じである。

今回、山種が“旅と画家”のテーマで展示している作品(8/13まで)はバラエティに富んでいる。近代日本画だけでなく洋画、浮世絵にも会える。ここが洋画も所有していることは知らなかった。しかも質が高い。佐伯祐三が描いたパリにあるレストランの雰囲気がよくでている“レストラン”と“クラマール”。そして、萩須高徳の“シャトー・ランドン”、“ノワルムーチェの捨てられた舟”。もう1点、安井曽太郎のいい水彩画、“上高地風景”。

横山操の“マンハッタン”は日本画となっているが、これは洋画みたいなもの。NYの高層ビル群が太い黒の輪郭線で平面的に表現されたこの作品からは巨大都市に流れるひんやりとした空気が伝わってくる。平山郁夫が描いた“ロンドン霧のタワーブリッジ”にも足がとまる。

大作でその風景に圧倒されるのが3点ある。共通するのが滝。岩崎英遠が描いた“懸泉”の何本もある水流から水が激しく落下する光景は迫力いっぱい。滝壷のうえには虹がみえ、大画面の中央下あたりで一人の男がすざましい滝を眺めている。稗田一穂と奥田土牛は那智の滝を描いている。稗田の“濤声熊野灘”では、画面の上の方に遠景として描かれた那智の滝は霧のかかる黒い山々の割れ目から白い線となって下に落ちている。手前の切り立つ崖、海面からでる岩に波が砕け散る厳しい海の表情、そして遠くの幽玄的な那智の滝が強く心をうつ。

これとは対照的に那智の滝をどどーと表現したのが右の奥村土牛作、“那智”。大きな絵なのでびっくりした。縦が2.7m、横が1.5mある。誰がみても、滝をストレートに実感する絵である。一度みたことのある那智の滝はこんな生き物のような白い水が太いかたまりとなって荒々しく落ちていた。じっとみていると水しぶきが飛んでくるのではないかと錯覚する。この感じは絵の前に立たないとわからない。土牛の感性がとらえた自然そのものが眼前にある。大変感動した。

ここは御舟と土牛のコレクションで名を売った美術館。流石、土牛の作品はこのほかにも“甲州街道”、“雪の山”、“大和路”と名画が揃っている。事前の情報ではあまり期待してなかったが、実際は見ごたえのある作品が沢山でていた。こういうときは本当に嬉しい。

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コメント

いまから府中市美術館行ってきます。
カミーユ・クローデル期待いっぱいです。
東京は交通のアクセスがいいので美術館のはしごはいくらでもできますね。
出光とブリヂストン、世田谷美術館と五島、いくらでも考えられるー。
いづつやさんはお車でしたっけ。

投稿: oki | 2006.07.26 12:22

to okiさん
鎌倉の美術館とMOA,川村美術館へ行くときはクルマですが、
ほかは電車です。自宅から一番遠いのは板橋区立美、千葉市美術
館でしょうか。

府中美も新宿経由ですから結構時間がかかりますね。あそこは、
駅についてから一苦労。歩くかバスを待つかいつも悩みます。私も
今週、カミーユ・クローデル展を見に行きます。

投稿: いづつや | 2006.07.26 17:03

こんばんは
山種が茅場町にある頃は楽でしたね。作品の展示にも興趣が深くて。
浮世絵好きないづつやさんにちょっと遅いのですが情報が。
山種と同じ半蔵門・あるいは麹町の四番町の資料館で幕末歌川派の名品展が月末まで開催中です。
http://yugyofromhere.blog8.fc2.com/blog-entry-547.html
これはわたしの感想ですが、いや実に良いのを見ました。
ただし国貞・国芳辺りなのでお好みではないかもしれませんが。
これを見てから山種に向かったのです。
わたしは『台湾風景』と稗田の熊野シリーズの一枚に惹かれました。

投稿: 遊行七恵 | 2006.07.26 18:41

to 遊行七恵さん
幕末歌川派の名品展の情報有難うございます。チェックしてみます。国芳は
北斎、広重と同じくらい好きです。風景画やユーモラスな絵は魅力がありますね。

稗田一穂の那智の滝シリーズはまだ2点しかみてないのです。昨年の山本丘人
展ではじめてこの那智の滝をみて、感動しました。手元にある図録には6点
載ってますので、残りもいつか見てみたいです。

投稿: いづつや | 2006.07.26 22:25

いづつやさんこんばんは。
ご無沙汰しております。
私もこの那智の滝には感銘致しました。
残念ながら実物を拝見したことはないのですが、
轟々と落ちる滝の音すら聞こえてくるような迫力です。
白い滝の筋もすばらしいのですが、
金色の岩盤もまた美しいですよね。

そろそろ土牛展なるものを期待したいです!

投稿: はろるど | 2006.08.08 21:47

to はろるどさん
お元気でしょうか?暑気払いでお会いできるのを楽しみにしております。
土牛の“那智”は目の前に滝があるようでしたね。絵によって現実の風景
をイメージすることがありますが、これはそのいい例ですね。いながらにして
那智の滝をみているような気になります。和歌山へお出かけください。

土牛の代表作は8割くらいを山種が所蔵してますので、時間はかかりま
すが、ここの作品をまめにみていると実質土牛展を見たことになります。
私は“醍醐”、“鳴門”など名画中の名画はだいたいみているのですが、
数的にはまだ半分残ってます。今、じっと待っているのは“城”という作品
です。これが、なかなか出てこないんです。

投稿: いづつや | 2006.08.09 13:09

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» 「旅と画家」 山種美術館 8/6 [はろるど・わーど]
山種美術館(千代田区三番町2 三番町KSビル1階) 「旅と画家」 7/1-8/13 山種美術館で開催中の「旅と画家」展へ行ってきました。奥村土牛、速水御舟、荻須高徳、佐伯祐三らの風景画から、特に旅情溢れた作品の集う展覧会です。行く先々で筆をとった画家たちの、まさしく旅を追体験するような内容でした。 この美術館の展覧会の感想では、いつも奥村土牛の魅力について触れているかと思いますが、今回もまた素晴らしい作品が�... [続きを読む]

受信: 2006.08.08 21:34

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