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2006.07.26

渓斎英泉の裏見之滝

445東博が所蔵する浮世絵は一ヶ月弱で作品が変る。だから、うっかりしてると見逃しそうになることがある。

色々手をひろげている美術鑑賞のなかで、ここの浮世絵コーナーにいるときの満足度はいつも上。一度にでてくる数は多くはないが、一点々の質が高いので面積としての満足の総量が大きいのである。

一人でみているときは声をだすと、周りの鑑賞者に“この人ちょっと危ない!”と思われるといけないから黙っているが、隣の方がそばにいると、やたらに“ちょっと、ちょっと、ここ見て!”を連発する。

今回でている作品の展示期間は7/19~8/14。それにしても、東博が所蔵する浮世絵の数は底知れない。もう2年も見ているが、同じ作品にまた会ったというのがない。北斎や広重の場合、“富岳三十六景”、“東海道五十三次”など画集でお馴染みの作品がでてくることが多いが、鈴木春信、鳥居清長、喜多川歌麿などは次から次と見たことのないのが登場する。

で、おのずとこの3人の作品への期待が高くなる。今回は春信と清長にいいのがあった。春信は“玩具の山車をひく母子”と“舟中蓮とる二美人”。とくに“二美人”がいい。舟に乗っている少女のような顔をした二人の女性のうち、屈んでいるほうの手の先には大きな蓮が浮かび、背後の景色はなく、描かれているのは様式化された水流文だけ。日常生活とは違う文学的な情景を描くのは春信の得意とするところ。

三枚続の清長の“品川座敷の遊興”はこちらも浮かれてくるような楽しい絵。真ん中にはひょっとこの面をつけて大げさに踊って笑いをとる幇間とそれを取り囲むように立つ長身で品のいい清長美人の芸者が大勢描かれている。面白いのは右の場面。明かりを暗くして楽しいときをすごしている男女の客が隣の宴会をうるさそうにしている。

風景画のなかにはじめてみるいい絵があった。それは渓斎英泉が描いた滝の絵。日光山名所之内、“華厳之滝”、“裏見之滝”、“霧降之滝”の3点。右の“裏見之滝”はとくに興味を惹く絵。流れ落ちる水の量感を白と青のまだらの色面で表しており、その光景は力強く豪快。そして、登場する人物が絵の面白さをさらに掻き立てる。下に落ちる滝の真ん中あたりに細い道があり、そこを3人の旅人がおっかなびっくりで通ろうとしている。これがスリル満点なのか、滝壺のところにいる別の男たちがその様子を見上げている。旅人たちの会話が聞こえてくるようである。“オイ、そっちへ行けるか?”、“あの3人大丈夫かなあ?”。

昨年、太田記念館で広重が描いた肉筆画、“裏見之滝”(拙ブログ05/5/8)を見た。旅人がでてくる滝の絵でよりリアルなイメージが頭の中に入った。今回はこの絵が一番の収穫。

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