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2006.07.09

村上隆著 「芸術起業論」

4301週間くらい前、新聞の広告に現代アーティスト、村上隆が書いた“芸術起業論”(幻冬舎)がでてたので、早速購入し、読んだ。

村上隆の作品を観たのは“コスモス”(拙ブログ05/2/14)と“とんがり君と四天王”(05/8/18)の2点しかないのに、面白いキャラクターが登場する絵画やオブジェにいっぺんに魅せられてしまった。それまで、村上隆というアーティストの作品については全く知らず、抽象的なイメージをもっていたので、こんなポップ的な作品に出会うとは思ってもみなかった。

いまや村上ブランドは欧米のオークションで高値で取引きされている。本にもでてくるが、今年の5月には1億円の値がついたという。日本人の芸術作品としては史上最高額である。これをみても、村上隆が現代アーティストのトップランナーの一人であることはまちがいない。

この本で村上はアメリカ人に自分の作品がなぜ受け入れられたかを論理的に熱く語っている。感心するのは、日本の歴史、文化を深く分析し、自分の新しい表現方法を欧米の美術の世界で使われているルール、文脈のなかで、ビジネスコンサルタント顔負けのプレゼ能力で説明しているところ。アメリカのアートシーンで多大な影響力を持っているインテリの美術批評家や美術館のキュレーターに論理的に説明しないと、いつまでたっても評価されないと気づき、自分の作品のベースとなっている日本のアニメなどのサブカルチャーを新しい日本文化論で提示する。

これまでの浮世絵や琳派でくくられるジャポニズム論ではもう聞き飽きたということになるので、彼らに馴染みのコンセプト、ポップという入り口を用意した。それが漫画やアニメのキャラクターなどの“かわいいを重視する文化”や“オタク文化”という新しい文脈。日本の漫画の主人公やかわいらしいキャラクターは日本古代の神道における神々の設定、自然現象に魂が宿るというアニミズムに源流があるのだと。

さらに、村上は“これまでイギリスとアメリカが生み出したポップという概念が主流だったが、日本文化の本質であるスーパーフラット(=超二次元的)がポップにかわる新しい概念かもしれない”と未来のことまでふみこんでいく。それで企画されたのが日本の芸術の本質を探る“スーパーフラットプロジェクト”。01年アメリカの各地の美術館で開催された“スーパーフラット展”、02年パリのカルティエ現代美術財団の“ぬりえ展”、そして05年のNYジャパンソサエティギャラリーでの“リトルボーイ展”。

“スーパーフラット論”は絵画技術の本質をついている。一点透視図法を用いた西洋の伝統に対して、日本画は多数の視点をもちこんで描かれているが、これで様々な遠近が生まれている。現在では映画“マトリックス”のようにCGでは一点透視図法よりスーパーフラット的空間のほうが自然にみえるという。

この本で村上作品への理解が深まった。“コスモス”の誕生のことが書いてある。村上は生活のために美大予備校の講師を9年間やったそうで、そこで花のデッサンを生徒に教えたという。毎日、花にふれあっているうちに花に接して心を通わす方法がわかってきて、機会があれば花と人の顔を合体させたキャラクターを作りたいと思ったらしい。

“とんがり君”は宇宙人と修行僧が合体したもの。手が沢山あるのは日本美術に詳しい村上が千手観音のイメージをもってきたものだが、ロンドンでみたアンデス文明展にも千手観音みたいな像があり、手や顔が沢山あるのは人の欲望の象徴で、人間の限界を突破したいときに使う表現ではないかと理解し、この像に世界共通の意味づけができたという。この“とんがり君”は難病に苦しむ子供たちや看病する親のためにつくられたもので、村上は死んでいく子供たちに“君が生まれてきたことは祝福されている。人はみな死ぬけど、大事なことは死ぬまでの時間の中で君が自由になることなんだ”というメッセージを伝えたかったと語っている。

07年ロサンゼルス現代美術館で、村上隆の大規模な回顧展が予定されているという。見に行きたくなった。

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コメント

ちょうどいい話題です。
損保ジャパンの「ポップアート」の展覧会を観てきたのですが、スー・ウィリアムズ「スーパーフラットの試み」2001という作品も展示されていました。「スーパーフラット」が村上の提出した概念だということは展示解説にありました。
日本美術の再発見ですね。

投稿: oki | 2006.07.09 22:13

こんばんは.
昨日,オペラシティで村上隆の作品を数点見ました.

やはり,あまり好きになれません.

作品そのもの以外にプレゼンが必要なのは,作品が投資の対象でしかないからだと思います.

投資のための美術品とそのための権威付け.プライス氏のコレクションと対極にあるような印象をうけます.

村上隆の作品を見るためにロサンゼルスまで行く気にはなれませんが,いづつやさんが評価されるのなら,著書くらいは読んでみようかなという気になりました.

投稿: おけはざま | 2006.07.09 22:43

to okiさん
損保ジャパン美術館の“ポップアート展”は予定にはいってますので、ご紹介
の作家の作品をみるのが楽しみです。日本画をみてますと、村上隆のスーパー
フラット論はよくわかります。アメリカ人にもよくわかる概念につくりあげました。

加山又造が興味深いことを言ってます。“西洋絵画のキャンパスを立てた地点
と対象との空間の哲学というか、それに支配されるのには私はちょっと耐え
られない。日本画のもっている対象に対する非常に自由な接し方、無限遠から
ものを自由に見られるという考え方が自分にはすごく合ってる気がした。現代、
造られている絵画形式の中で、日本画ほど私にとって自然で自由な方法はない
と信じている”

村上隆はスーパーフラットという技術をつかって、アニメやオタク文化を世界
標準として日本から発信しようとしているのだと思います。それをまともな
英語で。たいしたアート戦略です。

投稿: いづつや | 2006.07.10 01:31

to おけはざまさん
オペラシティへ行ってみます。村上隆の作品がまだ2点では話しになりま
せんから。気に入ってるのは、作品が見てて楽しいからです。単純です。

目が沢山あったり、手が沢山体からでてたり、日本が得意とする漫画やアニメ
をベースにしてポップ的な作風がアメリカ人のコレクターに受けたのでしょうね。
IT長者がパトロンになると、値段はどんどん上がっていくでしょうね。

この本を読むと、現代アートの世界では客観的に自分の新しい表現方法を説明
できなければ評価されないことがよくわかります。抽象的なことでも具象でも、
新しい概念なのだと分かってもらえなければ、アーティストとして認められませ
んから。一度、英語で書かれたプレゼのペーパーを読んでみたいです。

“かわいい”は日本文化のキーワードというのは風俗画などをみるとよくわかり
ます。そして、日本画のスーパーフラット的な特徴はいつも感じてます。また、
マチスやピカソ、藤田、ウォーホールらの作品についても語ってますので、絵画
の読み物としては面白いですよ。この本を読むと村上隆は日本人仲間から随分
嫉妬されて、大変だなとおもいます。1億の値がつけば、そうなりますか。

投稿: いづつや | 2006.07.10 02:38

賛否両論、これは全てのものにありますよね。
私は村上さんにお会いしたことが無いので彼の考えを
完全に理解しているわけでは有りませんが、
彼のプロジェクトのやり方には大賛成です。

自分が長い間食べるのにも困るほど苦労してきて、
そのまま苦しい生活を続けるのでは無く、考えに考え
リスクを犯して海外に可能性を求めました。
おそらく、そこでもものすごいご苦労が有ったと思います。
日本人は外国人や文化を結構簡単に受け入れますが、欧米
は違いますからね。

自分が言ってみれば犠牲になって体験してきた事を本にし、
次に続く若者達に同じ苦労はして欲しくないというメッセージ
でもあると思います。現実はこういうものだという。

また、彼は確かに”派手に”稼いでいるかもしれません。
それはメディア効果とかいろんなものが絡んでいるわけで、
彼一人でどうこうしたことでは無く、結果です。
否定的に言う人が居るならば、何とでも批判できるでしょう。
でも、私は良いほうに取ります。なぜなら、彼は自分のグループ
を作って若手アーティストを育成しています。
彼の絵に投資する人はそういうところも含めて評価しているのでは
ないでしょうか。

投稿: Chia | 2007.05.22 17:27

to Chiaさん
はじめまして。書き込み有難うございます。
欧米のオークションで高値で取引される村上隆の
作品に同業の画家たちは強い嫉妬心を覚えるので
しょうね。日本人は嫉妬心が強いですから。とく
に個性が売り物のアーティストにはそういう人が
多いでしょうね。

村上隆の作品を見た経験はまだ2,3点ですから、
もっと観たくてしょうがありません。この人は
頭がいいです。アメリカで鍛えられ、“スーパー
フラット”というコンセプトをしっかり理論武装し、
これを上手くNYタイムスの文芸担当の記者、美術
評論家、美術館の学芸員、画廊経営者に伝えてます。
一流コンサルタント顔負けのプレゼ力があります。

日本で大きな回顧展をどこかやってくれないかと
心待ちにしてます。これからもよろしくお願いします。

投稿: いづつや | 2007.05.22 23:02

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