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2006.05.24

レーニのベアトリーチェ・チェンチの肖像

814バルベリーニ宮殿の2階にある国立絵画館に関する情報はイタリアガイドブックのローマの見所に書いてある程度だったので、所蔵絵画に対する期待値はまったくニュートラルであった。

現在、修復中のため展示中の作品は通常より少なく、本にピックアップされてる必見の名画も全部でていない。はじめての美術館というのは展示のレイアウトがよくのみこめないため、出足は鑑賞も落ち着かない。

ラファエロの“フォルナリーナ”でこのコレクションのレベルがわかってきて、ここには結構いい絵があるなとニコニコしながら進んでいたら、“アアー、あの絵はここにあったんだ!”と思わず二人で声をあげた作品に出くわした。右の“ベアトリーチェ・チェンチの肖像”という絵。描いたのはカラヴァッジョと同世代の画家、グイド・レーニ(1575~1642)。

声をあげたのはこの絵が昨年12月18日放送の“美の巨人たち”(TV東京)で取り上げられたからである。番組の最後をフェルメールの名画、“真珠の首飾りの少女”の先行例はこの絵ではないか?という興味深い分析で締めくくっていたのでよく覚えている。その絵の前に立っているのだと思うと、目に力が入る。レーニの絵は2点あり、この絵の隣に“マグダラのマリア”というなかなかいい絵がある。これは岡田温司著“マグダラのマリア”(中公新書、05年1月、拙ブログ05/2/2)の口絵にも使われており、レーニの代表作のひとつ。レーニはマグダラ像を生涯に60点あまり描いている。

ベアトリーチェ・チェンチは1599年、父親殺しの罪で斬首の刑に処せられた実在の女性。22歳で断頭台の露と消えたベアトリーチェの悲劇の物語は今も語り継がれているという。生来女癖の悪いベアトリーチェの父親は自分の娘にまで手を出す始末。こんな極悪非道な男は殺されて当然だが、父親殺しは重罪で、死刑に反対するローマ市民の願いもむなしく、処刑が執行される。この肖像画は首をはねられる直前、牢獄のなかにいたベアトリーチェをチェンチ家とゆかりのあった枢機卿がレーニに命じて描かせたといわれている。

暗闇のなか、こちらを振り返る白い衣装をきたベアトリーチェの顔はマグダラのマリアと同じく小さい。顔が小さいので子供のようにみえる。恨みの気持ちが表情からは微塵もみられず、静かに神のもとに行く時を待ってるようである。あれほど父親に苦しめられたベアトリーチェのこのあどけない顔をみると、余計に人の命の儚さを感じる。

フェルメールの“真珠の首飾りの少女”とこの絵はたしかに頭にターバンを巻いているところ、振り返るポーズが同じである。フェルメールはオランダでこの絵のことを知っていて、構図を借用したのかもしれない。画家が絵を描くとき、先行作を参考にするのはよくあることだ。フェルメールは寓意画も描いているので、当然、絵を描く源泉としてギリシャ神話や聖書物語に通じていた。また、新しい風俗画を制作するにあたって、北方絵画のことはもちろんのこと、イタリア絵画の技法、題材についても相当情報を持っていたのではないだろうか。

“真珠の首飾りの少女”の絵自体が謎につつまれているので、二つの絵が響きあっているかどうかはわからない。ただ、こちらを振り向くという構図は本当によく似ている。

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コメント

おはようございます。
以前久生十蘭がこの話を室町頃に置き換えて書いた作品を読みましたが、それを思い出しました。
小説の中でも少女の静謐さが心に残っています。
絵と小説のイメージが重なったように思いました。
でも雰囲気的にラファエロ前派のフレドリック・レイトン風にも見えますね。

投稿: 遊行七恵 | 2006.05.25 09:35

to 遊行七恵さん
この“ベアトリーチェの肖像”が国立絵画館にあることをまったく忘れて
ましたので、目の前に現れたときは感激しました。小さな顔ですが、目、
鼻、口が整い、天使のような感じがします。フェルメールの“真珠の
首飾りの少女”は大好きな絵ですが、この絵もなかなか魅力的です。

レイトンの作品はあまり見たことありませんが、ヴィクトリアヌード展
(03年5月、東芸大美)にでてた“プシュケの水浴”の女性の顔も小さ
かったですね。

投稿: いづつや | 2006.05.25 14:39

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