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2006.05.22

ティツィアーノの聖愛と俗愛

468ボルゲーゼ美術館でみた絵画のなかで、カラヴァッジョの作品と同じくらい感動した絵がある。それはヴェネツィア派の巨匠、ティツィアーノ(1485~1576)が描いた右の“聖愛と俗愛”。

これは画集に必ず載っている代表作のひとつで、ティツィアーノが29歳の1514年に制作された。頭がくらくらするくらい素晴らしい絵である。ヴェネツィア派の真骨頂である華麗な色彩が心を揺すぶる。

とくに目を奪われるのが裸体の女性がはおっているマントの深紅色と左の女性が着ている豪華な白いドレスの真紅の袖。この赤の感激度は過去、“エウロペの略奪”(米国ボストン、ガードナー美術館)と“聖母被昇天”(ヴェネツィア、サンタ・マリア・デイ・フラーリ教会)で受けた感激と変らない。また、白いドレスの輝きにも見とれてしまう。ダビンチがフィレンツェで描いた“モナ・リザ”(1503~06)の10年くらい後に、ヴェネツィアでティツィアーノはこんな傑作を制作していた。

絵の題名“聖愛と俗愛”は1693年になってこう呼ばれるようになったが、この主題が何を意味してるかについてはいろいろな解釈がある。が、この絵を当時のヴェネツィア共和国、十人委員会の書記であったニッコロ・アウレリオという人物が注文したことはわかっている。

この絵のひとつの読み方はこう。前景に大きく描かれている二人の若い女性は愛について対話している。右が聖愛を象徴する天上のヴィーナスで、左が俗愛を表す地上のヴィーナス。天上の愛は現実を超える美、理想の美を生み出し、地上の愛は現実の物質世界の美をつくりだす。二人の間にいるのは愛神アモーレ(クピド)。二人のヴィーナスはそれぞれ特徴のあるアトリビュート(目印)を持つ。地上のヴィーナスが華麗に装い、薔薇、黄金の容器という地上的な手回り品を携えてるのに対し、天上のヴィーナスは左肩から後ろに翻ったマントと左手に持つ炎をあげる壷だけ。

背景に描かれている風景をみると、地上のヴィーナスの背後には要塞化された尖塔があり、森のある丘には兎がいる。天上のヴィーナスの背景には高い塔の建物、青々とした野原にある平和な村落、牧草地の羊などがみえる。“モナ・リザ”の神秘的な背景とはちがい、ここでは遠くまでかなりすっきりとした色調で細かく描き込まれているので、広々とした絵画空間になっている。

真ん中にいるアモーレが大理石でできたみずぶねの水をかき回しているのは、水を均質化している、つまり、聖愛と俗愛を調和させていることの象徴だという。天上の愛のほうが地上の愛より優るというのではなく、二つは調和のとれた至福の結合にいたるというわけである。ティツィアーノが描く寓意画は意味を理解するのに骨が折れるが、おおよそのことはわかる。テーマに不明なところがあっても、この絵の素晴らしさは200%感じることができる。絵画鑑賞は感じられればそれで充分。

1899年に銀行家ロスチャイルドがこの絵一点に、ボルゲーゼ美術館の美術品と荘館を含めた当時の全評価額より高い評価をしたという。ベルニーニの彫刻、カラヴァッジョの絵画とともにこの美術館の至宝である“聖愛と俗愛”に会えた幸せを噛みしめている。

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