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2006.04.04

藤田嗣治展

351期待の“藤田嗣治展”(東近美、5/21まで)を見てようやく世界のフジタの画業の全容を知ることができた。

フジタという名前はエコールドパリの代表的な画家として、知ってはいるが、“代表作をいくつ見た?”と言われると答えに困る。手元に画集がないので、そもそも代表作のイメージがない。海外で記憶してるのはパリ市立近代美術館にあった“横たわる裸婦”(1922)くらいしかない。

国内では意外にも結構いい絵に出会った。広島に長く住んでいたので今回出品されていたひろしま美術館の“十字架降下”(1927)を楽しんだが、ほかの作品と較べてみると、この絵が代表作のうちでも上位に位置する名画であることがわかる。

4年くらい前、大原美術館で猫と裸婦が出てくるいい絵を4,5点見たときは、乳白色の肌の輝きにも魅せられたが、それよりも闘争する猫のイメージのほうが強く残った。それが決定的になったのは東近美蔵の“猫”(1940)。十何匹の猫が虎のように激しく喧嘩する様は迫力がある。裸婦の傍に座っているおとなしい猫がときにはこんなに激しく取っ組み合いをするのだから、その落差に驚く。

裸婦像で惹きつけられるのは、裸婦が横たわるベッドの背景が黒一色の“眠れる女”(1931)。この絵のほかにもフジタの作品を多く所蔵している秋田の資産家、平野政吉のことははじめて知った。流石にいい絵を集めている。この絵と似たような美しくて官能的な女性画が島根芸術文化センター建設室と福岡市美術館にある。今回出品されるのを期待してたが、残念ながら出てこなかった。まあ、“眠れる女”があるので充分。

今回、とくに気になった絵が右の“カフェ”(1949~63)。これまで見慣れた裸婦や猫の絵とは違い、都市の生活の匂いがする絵で、これが新鮮だった。黒いドレスの女性はどこか憂いをたたえており、マネが女性バーテンダーをモデルにして描いた“フォリー=ベルジェールのバー”(コートールドコレクション)と似たような雰囲気が伝わってくる。

フジタの偉大なところはヨーロッパ絵画の土俵に入って、乳白色の肌という独自の世界を創り上げたことである。フジタは春信や歌麿の女性の描き方に触発され、肌の滑らかさや柔らかさを描こうとヨーロッパの画家がなし得なかった乳白色の肌を生み出した。毛筆と墨を使って伸びやかな黒い線を描くのも、流れるような日本画の伝統的な線の魅力を油絵に生かすためである。琳派のような金地、色使いを抑え、絵の具を塗り重ねない描き方、肌の魅力を一層ひきたてる流れるような黒の輪郭線などを目にすると、日本画をみているのではと錯覚する。

西洋画の単なる模倣でなく、西洋画の中に日本画の良さを融合させて、新たな美の世界を生み出したフジタの作品の数々に200%満足した。

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コメント

こんにちわ♪
私も藤田嗣治はパリ市立近代美術館の「横たわる裸婦」と、猫を素材にしたシリーズぐらいしか、あんまり見ていなくて、ほとんどが画集で拝見といったていたらくです(笑)
この東京展が間もなく、京都へ来るんで京都散策の折に鑑賞しようかなあなどと思っております。
満足度高そうですものね♪

投稿: シルフ | 2006.04.05 12:25

この回顧展、予想に違わずすばらしいものでした。おっしゃるとおり、藤田の代表作をみたことがあるか?と問われると、自信がありません。
昨年、目黒区立美術館のコレクション展で、藤田のシャーマンコレクションが出展されていて、その多彩な作風に、驚いた覚えがあります。今回、目黒区美からは1点のみしか出されていませんが、藤田の多彩な作品に魅了され、とても満足のゆくものでした。

投稿: 自由なランナー | 2006.04.05 12:56

いづつやさん、こんにちは。

先日、藤田嗣治のことをNHKで特集してましたね。
私は好き嫌いが激しく、藤田嗣治のこともなんとなく、違和感を持ってましたが、ちょっと変わりました。
パリで極貧の状態から認められ、晴れ晴れしたポジションを得たにもかかわらず、戦闘の絵を描くために帰国した事には驚きでした。敗戦後、日本画壇で理解を得られず、また、モジリアーニ達と暮らしたパリに戻って、ついにはフランス国籍を持ったことを知りました。
その一番最初の作が、「カフェ」。
黒を使ったのは、戦争と、日本の画壇で受け入れられなかった、彼自身へのオマージュかと想像しています。

どんな思いで、戦争の絵を描いていたのでしょう?アッツ島は、アメリカの戦利品として持って行ったものが、無期限に貸すのだそうです。ゆっくり見に行ってみたいと思っています。
長文、お許しを。

投稿: あべまつ | 2006.04.05 18:06

to シルフさん
ご無沙汰です。フジタの回顧展が今頃あるなんて信じられないのですが、やっと
代表作を沢山みれました。ちょび髭とロイド眼鏡をみると、いつも坂本龍一の顔
がダブります。

晩年のフジタが絵のなかにでてくる“礼拝”というのが面白いです。伝統的な
礼拝の絵に鳥やウサギも描かれてます。これをみて、フジタは花鳥画の国、日本に
生をうけた日本人だなと思いました。観てのお楽しみです。

投稿: いづつや | 2006.04.05 18:10

to 自由なランナーさん
今回の展覧会でフジタの絵が国内に結構あることがわかりました。そのひとつ
が平野政吉美術館、沢山集めたのですね。HPをチェックしてみたいと思います。
昨年訪問した笠間日動美術館にも今回でてた“室内、妻と私”のほか4点
くらい展示してありました。

実は先週土曜に行った愛知県美でも、“青衣の女”というすっきりとしたいい
絵に出会いました。これがちょっと変った絵で、猫は顔を見せず、女の
後ろから両手だけ出しているんです。回顧展、もう一回みたくなりました。

投稿: いづつや | 2006.04.05 18:32

広島には夏から秋にかけてくるんです。今から楽しみです。
秋田の平野政吉美術館には2度行ったことがありますが、最初のときの記憶がほとんどなくて、2度目は昨年5月。そのときはとても感動しました。すごいコレクションなのです。しかし著作権の関係で図録はありませんでした。今回の美術展では図録はあったのでしょうか?

ひろしまの「受胎告知」も大好きな絵です。実は背景が黒の横たわる裸婦という構図の絵、愛媛のエリエール美術館にもいい作品があります。隠れた名作かもしれません。ウッドワン美術館にある「EVE」は来ていましたか?「EVE」も素晴らしい絵だと思います。

投稿: リセ | 2006.04.05 22:38

to あべまつさん
画家のモノグラフは代表作を7割見ないと、基本的に読まないことにしてますから、
フジタの画歴は活字で整理されて頭のなかに入ってません。展覧会で購入する図録
も美術史家や学芸員の論考はほとんど読まず、気に入った絵の図版を自分で勝手に
イメージを膨らませてみてるだけです。ですから、日本でどんな批判をされたとか、
どうして戦争画を描くようになったのか、よく知りません。

戦争画は東近美の平常展でみた“アッツ島玉砕”しか記憶がありません。今回
ほかに4点でてました。作品だけのことを考えてみると、これらを観ながらドラクロア
の“キオス島の虐殺”やフランス軍に素手で立ち向かった民衆の処刑を描いたゴヤの
“1808年5月3日”が頭をよぎりました。

投稿: いづつや | 2006.04.05 23:10

to リセさん
秋田の平野政吉美術館に行かれたのですか。いつか旅行を兼ねて訪問しようと
思います。今回の回顧展では図録がちゃんとありますよ。これで代表作の全貌がわか
ります。ウッドワンの“EVE”は出ていません。ウッドワンでこの絵は見た
ことありません。“ディナー・パーティ”と“大地”といういい絵をみたのですが、
図録に載ってなかったです。

国内の美術館でもフジタの作品を楽しめるんですね。これがわかったのも大きな
収穫でした。秋の広島展には大勢の人が押し寄せるでしょうね。

投稿: いづつや | 2006.04.05 23:41

いづつやさん
こんばんは

> 裸婦像で惹きつけられるのは、裸婦が横たわるベッドの
> 背景が黒一色の“眠れる女”。
あの黒はもの凄くインパクトのある、深みのある黒でしたね。
真っ黒という感じ...

私は灰色も気になりました...

投稿: lysander | 2006.04.06 00:07

to lysanderさん
裸婦の絵でググットくるのは“眠れる女”ですね。おっしゃる通り背景の黒が
乳白色の肌を一層輝かせています。とても気に入りました。

作品の所有者をみると、1950年代以降は大半が個人とパリ市立近代美術館
になってますね。そのなかの子供の群像画2点がポーラ美術館にあるとは知り
ませんでした。どういう縁で購入したのでしょうか?

投稿: いづつや | 2006.04.06 11:12

こんばんは。

きちんと時代をおって
作品を見たことがなかったので
藤田の良さを半分も理解できていなかったと
この展覧会で実感しました。

投稿: Tak | 2006.04.19 22:57

to Takさん
イタリア旅行で返事が遅くなりました。すいません。フジタの回顧展が日本で
やっと開かれたので、画業全体がよくわかりました。晩年になるにつれ、色が
多色になるのが興味深かったです。

投稿: いづつや | 2006.05.01 16:39

いづつやさま。rossaです。京都でさえ、この美術館は、もう、最初から、平日にも関わらず、大混雑でスタートです。
いづつやさまがおっしゃるように
>フジタの偉大なところはヨーロッパ絵画の土俵に入って、乳白色の肌という独自の世界を創り上げたことである
・・・rossaもそれをとても強く感じました。フランスを尊敬しても同化はできないことを悟り、異邦人である自分の日本人のアイデンティティを昇華した彼の偉大さが伝わりました。rossaも、やはり、乳白色とあの繊細なラインや絵肌の美しさに日本画をイメージしました。


投稿: rossa | 2006.06.01 17:00

to rossaさん
平日でも大混雑ですか。藤田嗣治の人気は高いですね。京都のあとの広島
では中国、四国、九州地方の人が押し寄せますから、まさに日本列島を席巻する
勢いですね。

今回、この展覧会にあわせて、新日曜美術館や美の巨人たちでいろいろ藤田
の画業を分析してくれたので、一つ面白いことがわかりました。

前々から東近美にある沢山の猫が激しく喧嘩している“猫”(1940)が気になって
いたのです。いつもは女性のそばにおとなしく座っている猫なのに、どうして藤田は
虎のように獰猛になった猫を描いたのか?と。その理由がわかりました。

今回、フランスから“ライオンのいる構図”が出品されてますが、TV番組のビデオに
この絵と対になる絵がでてきました。そこに描かれているのは一転して激しい闘争の
場面でした。この2点は藤田がミケランジェロの“最後の審判”に触発されて、描いた
ものだそうです(このことは図録にも記されてますが)。出品されてるのが“天国”の
イメージで、フランスで現在修復中なのが“地獄”を想定して描かれたと解説してま
した。

で、今流行の“アハ体験”が起こりました。“猫”も“最後の審判”の地獄に想を得て
制作したもので、この猫の闘争は人間界の争いごとの悲惨さ、醜さや地獄の苦しさ、
怖さを表現しているのだと。藤田嗣治という画家のスケールの大きさを感じました。

投稿: いづつや | 2006.06.01 23:12

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