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2006.04.17

メジャーリーガー城島健司

364イチローのいるシアトル・マリナーズに入団した城島健司が連日頑張っている。12試合終わったところで、打率0.350、ホームラン2本、打点10は立派というほかない。

捕手というポジションは投手をうまくリードし、最少失点に抑えるのが大きな役目だが、投手とのコミュニケーションはTVでみててもスムーズにいってるようで、物怖じすることなくフランクに英語をしゃべってる姿をみると本当に感心する。

城島が捕手のレギュラーをとるにはマリナーズがうってつけだった。昨年まで、マリ
ナーズにはウイルソンという長身のいいベテラン捕手がいたが、打力の衰えで引退し
てしまった。その後釜におさまった同じく長身の城島はマリナーズにとっても大きな
戦力にちがいない。

大リーグには背の高い捕手は結構いる。有名なのは今年メッツからサンジアゴ・パド
レスに移籍したピアザ。最近のピアザは足のひざの故障などで、守備力は落ち、
打力も野茂とドジャーズでバッテリーを組んでいたころの凄さはなくなったが、人気は
まだまだある。体形がいかにも頑丈そうな捕手という感じがするのが守備力があり、
打力もいいイワン・ロドリゲス(デトロイト・タイガース)。2,3年前までは大リーグNO.1
捕手といわれた。座ったままセカンドや一塁に投げるのだからすごい肩をしている。

あまり先走ってもいけないが、打力がよく、肩もいい、そして投手とのコミュニケーシ
ョン力もある城島は将来、大リーグを代表する捕手の一人になるかもしれない。まだ、
12試合だけしか経験してない城島だが、その堂々としたプレーと成績をみると、イチ
ロー、松井、井口らと同様、どんどんスター街道を歩んでいき、多くのファンに愛される
選手になるのではないかと思う。もちろん、難しい捕手のポジションに加え、いろん
ないい投手と対戦するので甘い予想は禁物だが、期待に応えてくれそうな気がする。

TVや新聞では城島の活躍を分析しているが、その中でなるほどなというレポートが
あった。城島が生まれ育ったところは長崎県の佐世保市。一度九州をクルマで旅行
したとき、この町を通ったことがある。ここは米国海軍の基地があるところ。で、町には
米国のようにハンバーグ屋さんが沢山あるという。なるほど!城島は小さい頃から、
日本のほかの都市と比べるとアメリカ人をより身近に感じ、ハンバーグやコーラという
典型的な米国文化に接することが多かったのだろう(城島がハンバーグが好きかど
うかは確認してないが)。こうした生まれ故郷の環境も味方の同僚選手とフランクに
しゃべり、つきあってることと関係があるかもしれない。

では城島の打力、守備力は大リーグのなかでどのくらいなのか?アテネオリンピック
のアジア予選のとき、城島を4番に据えた長島監督が“城島のインコースの打ち方は
日本一”と評した。左ひじをたたみながら、体の回転でボールを叩く独自のスタイル
に城島は数年前、開眼した。これは大リーガーのなかでもトップクラスの技術である。
さらに、右にも打てる。開幕戦でエンゼルスのエース、コロン投手からいきなりライト
スタンドにホームランを打って皆をびっくりさせた。

いい球を逃さず、積極的に打っていく打法は大リーグの野球にあっている。イチロー
のバッティングとはまたちがった魅力をもった選手である。守備力では肩が強く、スロ
ーイングが素早い。これをみると出塁したランナーは容易に2塁に走れないだろう。
投手のリードは経験をつめばもっともっとよくなる。

今年のマリナーズは出足は悪くない。12試合で6勝7敗。今、打率が落ちているイチ
ローも徐々にガンガン打ち出すだろうから、強敵エンゼルス、アスチックスのいる西
地区で優勝し、プレーオフに進出するのも夢ではない。頼もしい城島、天才イチローの
活躍に期待し、精一杯応援しようと思う。

拙ブログは4/18~30までお休みします。

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2006.04.16

イサム・ノグチ展

363昨年9月、イサム・ノグチの展覧会(東京都現代美術館)をみたが、また回顧展がはじまった。今度は横浜美術館(6/25まで)。

この企画展の情報を得たとき二つの関係はどうなってるのか?だったが、MOTとダブルのが11点あった。出品数は72点なのでMOTの44点と較べれば多い。前回は作品が少なく、もっと観たいという気持ちが強かっただけに、イサム・ノグチの彫刻芸術を理解する上では、今回
のプラスαは有難い。半年前にこれくらいの数が見れたら申し分なかったのだが。

MOTのときはイサム・ノグチの彫刻をあまり見たことがなかったため、作品に目
を慣らす感じの鑑賞だったが、今回は4つに分けられたテーマ、“顔”、“神話・民
族”、“コミュニティーのために”、“太陽”の解説文をじっくり読み、会場をまわった。
作品のタイプや制作年代ではなくテーマで作品をくくっているので、ノグチの創作
の狙いや表現したかったことがよくわかる。

最初の“顔”のコーナーには若い頃の収入源である肖像彫刻が2点ある。画商の
夫人と日本の親戚の家にいたお手伝いさんの肖像。これらと“えらいやっちゃほい
(金太郎)”以外の作品はみんな抽象彫刻。薄板を直角に組み合わせてつくった“イ
ンターロッキング・スカルプチャー”の作品、“追憶”では、シュルレアリスト、ダリの
“記憶の固執”にでてくるくにゃっと曲がった時計をイメージさせる形体があった。

“神話・民族”で惹きつけられたのが“かぶと”。陶の作品で、青銅の銅鐸と鉄の兜
をミックスした造形がおもしろい。大理石の滑らかな質感が感じられる縦長の“ブラン
クーシへのオマージュ”も好きなタイプの抽象彫刻。モダンダンサー、マーサ・グラ
ハムのためにノグチが制作した舞台セット“暗い牧場”は日本ではじめて展示される
らしい。“青葉とオベリスク”とか“花咲く枝と歯”をみてると、素材は違うが、カルダー
のモビール作品を連想する。この舞台で踊るマーサの古い映像が流されていた
ので、彫刻家、イサム・ノグチはいろいろな芸術家と交流していたのだなと思いなが
らみていた。

“コニュニティーのために”では心がザワザワするのが2点ある。人種差別や戦争
への抗議を表現したと思われる“死(リンチされた人体)”と“英雄たちの記念碑”。とく
に首にロープがかかり、手や足がひどく折れ曲がった人体を4本の鉄の棒が囲む
“死”(ブロンズ)には強烈なインパクトがある。ノグチがこんな作品を制作していたこと
にちょっと衝撃を受けた。

ノグチの作品で一番惹きつけられるのが最後の“太陽”にある大型彫刻。右の“真夜
中の太陽”は横浜美術館を訪問するたびにながめているので、“エナジー・ヴォイド”
拙ブログ05/9/25)を見るまでは、この海ヘビを思わせる円環がノグチの作品の
イメージをつくっていた。同じ円環シリーズで環が切れて上下に交差している“下方へ
引く力”も存在感がある。

一通り見終わったあと、会場の一角で上映されていたノグチが作品を制作する過程
をカメラがとらえたドキュメンタリーフィルムを熱心に見た。ノグチ本人が語る、師匠ブラ
ンクーシの工房でやっていた仕事のこと、フラーとの対談、パリのユネスコ本部の庭
を造っている様子などが大変興味深かった。この映像も展示作品とともにこの展覧会
の大きな収穫。

なお、横浜展が終わると次の2箇所を巡回する。
・滋賀県立近代美術館:7/8~9/18
・高松市美術館:9/29~11/12

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2006.04.15

東京は今、琳派が面白い!

293東京にあるいくつかの美術館では、今、琳派の作品がコラボレーションの真っ最中。

琳派の名がついた展覧会は静嘉堂文庫の“関屋・澪標図屏風と琳派の美展”(5/14まで)だけだが、ほかの美術館でも琳派の名品がいくつも見られる。展覧会のタイトルだけでみないで、琳派の作品という視点で横断的にみると、結構質の高い“琳派展”になっている。ご参考までに紹介したい。

中心となるのはやはり、静嘉堂文庫。俵屋宗達の“関屋・澪標図”のほかに尾形
光琳の作品が9点、尾形乾山の陶器が4点、酒井抱一が3点、鈴木其一が2点ある。
お気に入りは光琳のユーモラスな絵“鵜舟図”、鶏のひよこがまことに愛らしく描か
れている“布引滝・双鶏図”。抱一の銀地に墨で波濤が描かれた大きな屏風、“波図”
もいい。抱一には“紅白梅図屏風”(出光美)や代表作、“夏秋草図屏風”(重文、
東博)など銀地に草花を描く作品が多い。また、四角の色紙帖に龍や南瓜などをさら
さらと描いた“絵手鑑”がなかなかいい。南瓜図は伊藤若冲の版画集、“玄圃瑤華”
(げんぽようか)を手本にし、少し図柄を修正して着色したもの。其一は風俗美人画の
名手。“雪月花三美人図”では女性が着ている衣装の紋様を精緻に描写している。

ブリジストン美の“雪舟からポロックまで展”(6/4まで)にも琳派の優品がでている。
宗達派が制作した“保元平治物語”、4/10にとりあげた其一の大作、“富士筑波
山図”、池田孤邨の色鮮やかで琳派らしい絵、“青楓紅楓図”、そして上方琳派の
絵師、中村芳中の“四季草花図扇面貼交”。まるっこいフォルムとたらし込みに特徴
のある芳中の絵に心が和む。

大倉集古館の“播磨ゆかりの江戸絵画展”(5/28まで)に出品されているのは抱一
の“伊勢物語図”、“蓬莱図”と其一の“山水図・宮女奏楽図”。“宮女奏楽図”の復古
やまと絵風の色美しい雅さに魅せられる。

東博平常展(屏風と襖絵コーナー)の琳派は豪華2本立て(5/21まで)。右の光琳
の“風神雷神図屏風”(重文)と宗達の“色紙貼付桜山吹図屏風”。この2点は04年
にあった“琳派展”(東近美)にも出品されたので、2年ぶりの対面。“風神雷神図”は
これまで5回くらい見たが、今回ハットしたのは風神・雷神の衣装の赤。金泥で縁取
られた赤が目に焼きつく。もうひとつ新鮮だったのは風神の衣装の裾と胴回りにみ
える薄ピンク。こんな色ほかの作品に使ってあった?隣の部屋には墨のたらし込みが
印象深い光琳の“富士山図”もでている。

これから展示される琳派の絵をいくつか。いずれも期待の作品。
畠山記念館の“蒔絵の美展”(5/28まで)には光琳の“躑躅図”(つつじず、重文)が
 5/2~5/28に展示される。これはなかなか会えなかった作品。やっと見れそう。
・三の丸尚蔵館で開催中の“花鳥ー愛でる心、彩る技展”の4期(7/8~8/6)に抱一
 の“花鳥十二ヶ月図”が出品される。同じ画題の絵が出光美にもあるが、こちらのほう
 がいい。

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2006.04.14

関屋・澪標図屏風と琳派展

361現在、静嘉堂文庫で行われている“関屋・澪標図屏風と琳派の美展”(5/14まで)は見ごたえがある。

宗達の傑作、国宝“関屋・澪標図屏風”が前回出品されたのは3年前。昨年9月、この絵の描かれた制作年代が明らかになった(拙ブログ05/9/14)後の展示だけに、今回の公開を楽しみにしている日本美術ファンは多いのではなかろうか。

ここは企画展の図録をあまり作らないのに、今回は特別なのか、屏風の立派な
解説本を販売していた。展示室は広くないので、作品数は少ないが、はじめてみる
光琳や抱一、其一の作品などがあり、さらに公開を待っていた“平治物語絵巻 信西
巻”(重文)をみることができたので気分はかなり良い。

入ってすぐのところに展示してある“平治物語絵巻”で驚いたことがある。牛が力
いっぱい右方向に引っ張っている牛車の車輪の内側に、時計のぜんまいのような
円い線が幾重にも墨で描かれている。最初これが何を表しているのかピントこな
かったが、次第にすごい表現方法であることに気づいた。牛車が勢いよく進む
様子を車輪がぐるぐる回ることで表現するため、ぜんまい線を描いているのである。
これはイタリア未来派のバッラやボッチョーニが犬の動きやスポーツ選手の運動
を連続的に描いたのと同じ発想。鎌倉時代の13世紀に制作された絵巻にこんな
描法があったとは!!

右は“源氏物語関屋”の場面。六曲一双の屏風は右隻に“澪標”(みおつくし)、左隻
に“関屋”(せきや)が並べてある。最近はこの配置もありというのが専門家の解釈
らしい。これだと右に海があり、左のほうに山がくるので空間的な広がりがあり、しっく
りくるという。前回もこの配置だったような気がする。色彩では、金地に映える緑青が
目にしみる。そして、白砂や衣装に使われた胡粉の白が心地よい。前回は目に留ま
らなかったが、白砂のところに胡粉が盛り上がった点々を確認した。

今回発見したのは“関屋”の左端に見える牛車(なかに空蝉がいる)の横に立っている
牛飼の背丈。この男はえらく背が高い。もうひとつ印象深かったのが、“澪標”に描か
れた海上の舟(明石君がのっている)と左の反橋に彩色された灰みを帯びた青。日本
画であまり見ない色である。この絵を鑑賞するときの新たな楽しみが見つかったので、
心も浮き浮きしてきた。これだから琳派狂いをやめられない。

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2006.04.13

台湾女流画家、陳進展

360美術館で展示された作品を見たあとは必ず、他館で開催中の企画展のポスターをながめたり、置いてあるチラシを持ち帰るようにしている。この情報が大変役に立つ。

館のHPや美術関連の雑誌(例えば、芸術新潮など)を定点チェックし、展覧会情報を集めているが、美術館は沢山あるので、こぼれ落ちるのもある。これを美術館にあるPR媒体が時々リカバリーしてくれる。

今回は東博の地下1階で偶然目に入ったポスターに使われていたいい絵が渋谷の
松涛美術館で開かれている“陳進展”(5/14まで)に導いてくれた。ブログ仲間の
okiさんからこの展覧会をおしえてもらったが、陳進(ちんしん)という台湾の女流画家
のことはまったく知らなかった。が、ポスターで右の“合奏”という絵をみて、俄然
美術館に足を運びたくなった。

陳進(1907~1998)は若い頃日本に住み、美人画家の鏑木清方や伊東深水から
日本画を学んでいる。27歳で描いた“合奏は”帝展に入選するなどその画才は高
く評価され、注目を集めた。戦後は台湾に戻り、1998年、91歳で亡くなるまで台湾
における女流画家の第一人者として活躍した。画家の生誕100年を記念するこの
回顧展では代表作80点あまりが出品されている。地下の展示コーナーにある絵を
2,3点みて、陳進が大変な画家であることがわかった。その画業は日本でいえば、
上村松園とか小倉遊亀クラスの画家である。現役のころは台湾画壇の重鎮だったの
ではないだろうか。

作品は人物画、花を描いたもの、風景画、現代風俗画、仏画があるがとくに人物画に
優れている。右の“合奏”は唯一日本的な美人画の匂いがする絵。笛を吹き、月琴
を奏でる二人の少女の顔は山川秀峰が描く女性の丸い顔立ちを思い出させ、手の
指先は浮世絵師、歌麿の美人画にでてくる女の手にそっくり。紫の中国服に施された
金の刺繍の描写は日本人画家の絵のように繊細極まりない。画題は中国のもの
だが、絵の印象は松園、清方、深水、秀峰らが描く美人画となんら変らない。素晴ら
しい近代日本画の一枚である。

人物画をみていて、小倉遊亀の画風が頭をよぎった。“爆音”や“花を持つ少女”など
は小倉遊亀の作品にでてくる女性や女の子と雰囲気がよく似ている。70歳以降に
制作した女性画に傑作が多い。黒の線で輪郭をとり、強い色調の赤や緑で彩色した
服装は美しい女性を一層引き立てており、子供と抱く母親の表情は慈愛に満ちて
いる。満足度150%の展覧会であった。陳進をMy好きな女流画家に即時登録。

なお、この展覧会は東京のあとは次の美術館を巡回する。
・兵庫県立美術館:6/3~7/23
・福岡アジア美術館:7/30~9/10

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2006.04.12

鎌倉大谷記念美術館の前田青邨

359鎌倉へは頻繁に出かける。今回訪問した美術館は定期的に足を運ぶ鏑木清方記念館や棟方板画館ではなくて、駅の西口のほうにある鎌倉大谷記念美術館。ここへ行ったのははじめて。

これまでは館の存在を承知するていどだったが、所蔵する近代日本画の名品を展示するというので、期待をこめて入ってみた。

特別展のチラシには“美しき日本の四季ー大観・御舟を中心に”(5/27まで)とある。
1階と2階の展示室に18点が飾られている。小さな美術館なのでこれくらいしか
展示できない。作品は少なく、大作の絵はないが、質はかなり高い。近代日本画を
代表する横山大観、川合玉堂、上村松園、速水御舟、小林古径、前田青邨など大物
画家の絵がずらっとある。松園と伊東深水の美人画2点以外は日本の四季折々の
自然を描いた風景画と花鳥画。

関心の高い速水御舟の作品は手元の画集に載っている“木苺に蜂”、“林丘寺堀外
の道”、“唐もろこし”の3点。御舟が住んでいた京都洛北修学院村の林丘寺のま
わりを描いた作品に惹かれる。道にできた影と光があたってるところのシャープなコン
トラストとその道を両側から挟むように植えられた木々の緑に目を奪われる。同じ
ころ制作された“洛北修学院村”では画面全体を濃い群青で表現していたが、この絵
では緑が多くの部分を占める。しかも、木の葉が写生的でなく、深い緑の点々で
琳派のたらし込み風に描かれているので、幻想的な感じがする。

御舟の絵が期待通りのいい絵だったので喜んでいたら、もう一点、テンションをぐっと
上げてくれるのがあった。前田青邨が描いた右の“紅白梅図”。松・竹とともに、日本
画の画題に使われる紅白梅の絵を青邨は何点か制作している。04年の“琳派展”
(東近美)に出品された“水辺春暖”をみたときの感動は今でも鮮明に覚えている。
この“紅白梅図”は“水辺春暖”より3年前の1970年に描かれ、構図は異なるものの、
画面構成は同じ。

左右上下に伸びる紅白梅の太い幹と枝、華麗な色彩で繊細に描写された花。幹に
は墨のたらし込みが使われているので、誰もがこの絵をみて光琳の“紅白梅図屏風”
(MOA)の現代版をイメージする。現代の紅白梅図は華やかさに加え軽快でとても
明るい。梅の花が満々と咲き、水辺には鴛鴦が泳ぎ、番い(つが)の鶯が枝にとまって
いる。青邨の自然にたいする深い愛情と高い画技によって描かれた名画をみれたの
は大きな喜びである。

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2006.04.11

亜欧堂田善の浅間山図屏風

358洋風画家、亜欧堂田善(あおうどうでんぜん)が描いた大きな屏風が今、府中市美術館の“亜欧堂田善の時代展”に出ている(4/16まで)。それは右の“浅間山図屏風”(東博所蔵)。

江戸後期、西洋画の油彩や銅版画の技術を使って風景や人物を描いた絵師のことを洋風画家と呼ぶが、亜欧堂田善もそのひとり。

この屏風は油絵としては最も大きいものらしい。そう言われても、なにしろ、こういう
タイプの絵はこれまでみたことがないので、ピントこない。ほかの油彩画と較べると
たしかに大きい絵である。今回出品されてる油彩画(11点)では風景のなかに
人物が描かれているのに、ここには人が登場しない。雄大な浅間山を右にどんと
描いている。

この絵は遠近感があまり感じられず、色使いをみても、左の炭焼きの煙がのぼって
るまわりの木々の緑とか浅間山の手前の山の茶色は、もっと濃くて油絵の具のねっ
とりした感じをイメージしていたが、そうではなく淡い色調。洋風画家が描く風景画
だから、男性的な浅間山が立体的に圧倒的な存在感のある姿で描かれているのだ
ろうと予想してたのに、実物は拍子抜けするくらい洋画ぽくない絵だった。

前期に出ていた“江戸城辺風景図”では、濃い緑や明るい緑が木の葉や土手の草
に光があたるところとあたらない場所の感じをよく捉えており、油絵の特徴がでて
いた。だが、“浅間山図”はこの絵とは違い大きな屏風なので、田善は制作にあたり、
画面いっぱいに油絵の具のぎっちり塗り重ねて、密度の高い絵画空間をつくるのは
相応しくないと思ったのかもしれない。

屏風絵は元来装飾的に描かれるものだから、注文者の目を楽しませることが絵の価値
をあげる。淡い色調とはいえ、伝統的な墨の濃淡で描く狩野派流の風景画にくらべれ
ば、この絵は色数が多く、空の色は実際に見たとおりに近い青で彩色されているし、
浅間山の山頂近くにみえる雲も見慣れた形をしている。だから、この油絵風景画は見る
ものを心地よくしたのではないだろうか。

はじめは、なにか物足りない印象をもったが、しばらく見ていると、逆にこの風景に陰影
でアクセントをつけ、色も濃くしたら、すぐ飽きられる屏風になるような気がした。これく
らいの洋画っぽさが無難だったかもしれない。洋風画というと、司馬江漢の絵しか思い
浮かばなかったが、亜欧堂田善という絵師の存在を知り、その油絵を見る機会に恵ま
れたのは大変よかった。こういう新しい絵師に出会う展覧会も刺激があっていい。

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2006.04.10

ブリジストン美の円山応挙

3574/8からはじまったブリジストン美術館の“雪舟からポロックまで展”(6/4まで)はおやっと思わせるタイトル。

ブリジストン美は大原美術館とともに民間が運営する美術館としては誰もが知る西洋美術の殿堂なのになぜ、雪舟があるのか?その理由はこう。

石橋財団が所蔵するコレクションは現在、久留米市にある石橋美術館と東京のブリジストン美の2箇所で公開されている
が、今年は財団の設立50周年にあたり、これを記念して開催されるのが今回の展覧会。雪舟の絵など日本・東洋美術品があるのは石橋美術館で、ここの名品がブリジストン美にやってきたというわけである。久留米の石橋美術館には行ったことがないので、ブリジストン美と日本画が結びつかなかったが、これで納得した。

今回は記念展だから、通常は一度には展示されないものを現地に行かず見られる
のは大変有難い。大体見ている洋画や彫刻よりは当然ながら、お目当てはこちらの
日本美術。とくに絵画と陶磁器に感動した。雪舟の“四季山水図”(重文)は過去、
2,3回見たことがある。最近では、昨年あった根津美術館の“明代絵画と雪舟展”
にでていた。いくつかある四季山水図のなかでは保存状態が良く、一番気に入っ
ている作品で、力強く、のびやかな筆さばきで描かれた切立った山々と松からは四季
折々の情趣と空気が伝わってくる。

この絵以上に新鮮だったのが江戸絵画。ここでもまた円山応挙と江戸琳派の鈴木
其一のいい絵に出会った。“18世紀京都画壇展”から展覧会同士が響き合うかの
ように江戸絵画の名画が目の前に現れる。其一のは六曲一双の屏風絵、“富士筑
波山図”。金地に富士山、筑波山が墨で描かれている。印象深いのがところ々に使わ
れる木々の緑と筑波山の群青。筑波山を青で彩色するとはなんと大胆!其一は
ドイツ表現主義の先駆けではないかと錯覚する。

この群青で驚愕させられるのが右の応挙作、“牡丹孔雀図”。03年にあった“円山
応挙展”(大阪市立美術館)にでてた孔雀図で味わった感動が蘇ってきた。じっとみて
ると、本物の孔雀がいまにも動き出すのではないかと思えてくる。羽根一枚々を繊細
克明に描写する応挙の真摯な姿勢にただただ感服するばかり。応挙の緻密な描き
方はていねいすぎて、若冲の遊び心をもった超細密描写にくらべると優等生的かも
しれないが、これはこれで見る者に深い感銘を与える。二本足の上の部分の緑青の
輝きが本当に素晴らしい。首のところの羽根やとさかを単眼鏡でみると金の極細の
線がひいてある。大阪でみた“牡丹孔雀図”(重文、萬野美術館)ではここまでは気づ
かなかった。

こんなすごい孔雀図が石橋美術館にあったとは夢にも思わなかった。この絵だけでも
入場料を払う価値がある。なお、宮内庁三の丸尚蔵館にも応挙の孔雀図があり、これ
が嬉しいことに現在開催中の“花鳥ー愛でる心、彩る技展”の5期(8/12~9/10)に
登場する。前回、展示替えで見逃したこの孔雀図でまた感動が再生産できるのでは
ないかと期待している。

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2006.04.09

大倉集古館の長澤芦雪

252_2江戸絵画の鑑賞が続いている。京都、名古屋のあと、ホテルオークラの隣にある大倉集古館でも“播磨ゆかりの江戸絵画展”(5/28まで)を観た。作品の数は57点なので、“18世紀京都画壇展”よりは少し多い。

この企画展を思いついた人は大変豊かな発想の持ち主。播磨の国、現在の兵庫県の旧家に若冲や芦雪などの作品が多く所蔵されてるのに気づき、播磨をキーワードにしてこれらを一度まとめてみようと思い立ったのかもしれない。

江戸時代、絵師たちが播磨とどんな縁があったのか正確なことはわからないと思うが、この頃活躍した絵師の作品を兵庫在住の個人がこれだけ所有しているということは、当時、この地を多くの文人墨客たちが訪ねたためであろう。この展覧会のお陰で画集や図録に載ってない佳品をいくつも見ることができた。

大倉集古館ではわりあい若冲の絵を見る機会がある。過去にも京都の細見美術館
所蔵の若冲を展示していた。今回は“羅漢図”、“鶴図”、“双鶏図”の3点。面白い
のは胴体がまんまるの鶴に顔がないこと。東博でも同じようなユーモラスな鶴の絵
をみたことがある。17歳年下の円山応挙の描く鶴は本物そっくりなのに対して、
若冲の鶴はぐっとくだけた姿態で奇抜なポーズをとっている。若冲は鶴や鶏が好きで、
自分もこれらに変身して、戯れたかったのだろうか。普通の絵師では太った鶴や鶏
を思いつかない。応挙は小ぶりの“雲龍図”と品格のある花鳥画“梅に鶯(うぐいす)
図”の2点。

この展覧会で一番の収穫は芦雪の絵が見れたこと。7点あり、ハットする絵がいくつ
かあった。右の“方広寺大仏殿炎上図”(部分)はそのひとつ。建立後、すぐに地震
に遭い壊れた方広寺を秀頼が復興させるも、今度は落雷で焼失する。背景をなにも
描かず、方広寺が炎上する様を墨の煙と朱色の炎が上空にのぼっていく縦長の画面
構成で表現している。上から落ちてくる大きな炎が滅びる豊臣家を暗示するかのよう
で、印象深い。芦雪の絵の魅力はハットさせられる構図。沢山の鶴が群れをなして飛
んでいる“千羽鶴図”の左右の鶴の配置には“おおー”と思わず声が出そうになる。

この柔らかい発想からくる奇抜な構図や対比の上手さが芦雪の真骨頂。若冲の作品
は残っていた“菜虫譜図巻”を見たので一休み。これからは芦雪に鑑賞のエネルギー
をシフトしようと思う。期待は7月、東博にやってくるプライスコレクション。見たくてたま
らない芦雪の大作、“象と牛図”が含まれていること切に願っている。

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2006.04.08

木村定三コレクションの与謝蕪村

355京博の“18世紀京都画壇展”をみたあと、名古屋に寄り、愛知県立美術館で開かれている“江戸絵画展”(5/21まで)を楽しんだ。

コレクター、木村定三氏(1913~2003)が集めた質の高い江戸絵画をはじめて公開するというチラシのキャッチコピーがだいぶ前から頭の中を占領するようになったので、愛知県美を訪問してみた。

出品数は116点と結構ある。鑑賞を楽しくさせてくれたのはここにも“京都画壇展”
にでてた若冲(3点)、蕭白(1点)、芦雪(2点)、呉春(4点)、蕪村(6点)があった
こと。また、日ごろからもっと数をこなしたいと願っている英一蝶(4点)、白隠(6点)、
仙厓(5点)、浦上玉堂(9点)にいい絵があり、江戸琳派の酒井抱一と鈴木其一
にも出会ったので、見終わったあとは満ち足りた気分になった。

そのなかで新鮮だったのが若冲のはじめてみるタイプの絵、“六歌仙図”。ユーモラ
スな戯画で、六歌仙が田楽を焼き、酒の肴にしている様子が描かれている。見慣れ
た太った鶴の絵が隣にあったが、若冲は人間もコミカルにしている。人が笑ってい
る絵なら仙厓が一番。大きく口を開けて痛快に笑う和尚や子供の絵をみてると、こち
らもわけも分からずに笑ってしまいそうになる。白隠の絵も笑いを誘う。“寿”の入った
袋の口をもって嬉しそうな顔をしている布袋の絵や手の異様に長い猿が掛け軸に
筆書きしている“吉田猿猴図”も面白い。英一蝶の絵に鶴がでてくるいいのがあった。
陽をさえぎるため、鶴がデザインされた日傘を朝顔のなかに立てかけている構図
が洒落ている。

今回一番見たかったのが右の蕪村作、“富嶽列松図”。蕪村が晩年に制作したこの絵
は“夜色楼台図”、“峨嵋露頂図”とともに“横物三部作”(いずれも重文)とよばれて
いる。深山幽谷の中国的な山水を縦長の掛軸にかいた作品とは対照的に、これらは
極めて横長の画面を使った絵。チラシでみて横長の画面と雪を抱いた富士山の輝く白
に強く惹きつけられたが、予想以上の傑作だった。手前に筍のような太い幹をした松
がのびやかな濃い墨線で描かれており、そのむこうに見える端正なフォルムの富士山
が心を揺すぶる。日本人の情感を刺激するこの絵に会ったことは一生の思い出に
なるかもしれない。

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2006.04.07

18世紀京都画壇展の伊藤若冲

354現在、京博で開催中の“18世紀京都画壇の革新者たち展”(4/9まで)には人気絶頂の伊藤若冲、曽我蕭白や与謝蕪村、池大雅、円山応挙、長澤芦雪といった大物絵師の名画が集まっている。

出品数は40点しかないが、1点々の質が高いので満足の面積は相当大きなものがある。これらは米国サンフランシスコにある美術館で行われた同名の展覧会(昨年12/3~今年2/26)に展示してあっ
たもので、いわゆる里帰りの展覧会。

出品のなかに追っかけていた若冲作、右の“菜虫譜図巻”(部分)に目がとまった
瞬間に京都行きを決め、開催を心待ちにしていた。しかも特別展とはいえパスポート
券が使える平常展扱いなので無料。こんな立派な展覧会を料金を払わずみせて
もらい、幸せな気分になった。

絵師は8人で、作品の内訳は渡辺始興(1点)、蕪村(6点)、呉春(4点)、大雅
(5点)、応挙(5点)、芦雪(6点)、蕭白(7点)、若冲(6点)。このうち、応挙、蕭白、
若冲の作品については、これまであった回顧展などで1,2点を除いて大体観て
いるが、蕪村、大雅、芦雪の多くははじめて見る絵。蕪村の俳画風タッチで描かれ
た“奥の細道図巻”(重文、京博)は昨年訪れた逸翁美術館にもあった。山形美術
館でも同じ画題の屏風があったのに、これは西洋画のほうに時間を使いすぎて
見逃してしまった。悔やまれてならない。蕪村の絵は山水などより、こうした人物が
沢山でてくる絵のほうに魅せられる。

バーンズコレクションで大雅のいい絵に出会ったが、また面白い絵を観た。それは
出光美蔵の“秋社図屏風”。出光にはかなり通っているのに、この大作はまだ見てな
かった。中国の田舎のお祭り風景がのびやかな線と色彩で描かれており、神輿の
真ん中から上につきでている柱によじ登った男や賑やかに太鼓叩いたり、笛を吹い
ている楽士に目がいく。大雅が描く人物の顔は士大夫でも農民でも丸く、どことなく
愛嬌があるので、見てて楽しい。

蕭白の絵は皆鑑賞済みなので、さらっと流し、お目当ての若冲の“菜虫譜図巻”(12
メートル、絹本着色)をじっくり見た。この絵は長年行方知らずになっていたが、7年前、
栃木県葛生町(くずう)の吉澤家の蔵から発見された。今回出品されている水墨の
“果蔬涅槃図”(かそねはんず、京博)の着色版。とても惹きつけられる赤や白、薄青
などで彩色された野菜や果物が季節の順に登場し、その後、蝶やカブト虫などの
昆虫、トカゲ、蝦蟇などが続く。色ではまたして松茸やキノコの鮮やかな白に目を奪わ
れた。最後にでてくる蝦蟇のユーモラスなポーズに思わず口もとがゆるむ。期待通りの
面白い絵を見せてもらった。若冲、有難うという感じである。

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2006.04.06

伊東深水展

353先週土曜日、京都へ行ったとき、全くNO情報の“伊東深水展”に遭遇した。場所は伊勢丹(駅ビル内)7階にある美術館(4/23まで)。

京都へは京博の“18世紀京都画壇”をみるため出かけたのに、犬も歩けば棒にあたるとはよく言ったもので、思いもかけず、この展覧会の初日にめぐり合った。

美人画家、伊東深水の絵については師匠の鏑木清方や上村松園の作品に較べる
といまひとつ惹きつけられるものがないなという印象を持ち続けてきたが、昨年、
MOA所蔵の“深雪”(拙ブログ05/11/30)や東近美の平常展にでてた“雪の宵”
をみてから、この考えが変った。ようやく唸るほどの名画が現れてくれたので、
今では本屋で画集を物色している。画集を探しているのは“雪の宵”を手元におい
てみたいからだが、残念ながら鏑木清方、上村松園のように伊東深水のものは
出版されてない。いつか、神田の古本屋で時間をかけてあたってみようと思って
いた矢先に、京都で大回顧展をみることになった。こんな嬉しいことはない。

入館する前、ひょっとすると4/8から目黒区立美術館ではじまる伊東深水展では
ないかと思ったりもしたが、それとは違う正真正銘のビッグな回顧展だった。会場を
進むにつれて、これは凄い展覧会に出くわしたなと興奮してきた。展示会場の関係で
図録に載ってる73点のうち20点は展示されてない。初期の名品で、伊東深水の
出世作といわれる“指”や“湯気”などをはじめ、晩年までの代表作のほとんどが展示
されている。過去、見たのも数点あるが、大半ははじめてみる絵。現代風俗の美人
画だけでなく、“雪もち梅”といった花鳥画、バレリーナや現代的な普通の女性を描
いた肖像画も数点ある。

また、深水は芸能が好きだったのか、日劇ミュージックホールの楽屋風景を描いた
“戸外は春雨”(福富太郎コレクション)や新橋演舞場の楽屋が絵になった“春宵
(東おどり)”もある。“春宵”は日本画を鑑賞するときの参考にしている“昭和の日本
画100選”(1989、朝日新聞社)に選ばれてるので、長らく追っかけていたが、
昨年ホテルオークラであった恒例の展覧会でお目にかかった。

今回、最も感動したのが右の“姿見”。立ち姿がなんとも艶やかな美女であろうか。
とくに目がいい。昭和33年、深水60歳のときの作品で、“深雪”(昭和25年、MOA)
の女性とは随分ちがい、現代的でずっと身近に思える女性である。桜模様の着物
に身をつつみ、後ろ手に茶色の縞柄の帯を整えるしぐさが実に色っぽく、人気女優
が演じる映画の時代劇の一シーンを観てるようである。

この展覧会は京都の後、茨城県の五浦美術館(4/28~6/4)、弘前市立博物館
(6/10~7/16)を巡回する。五浦美術館には73点全部展示されるので、またクルマ
を走らせようと思う。これほどの名作が展示される機会を見逃すわけにはいかない。

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2006.04.05

速水御舟の京の舞妓

277現在、東博の平常展に速水御舟の有名な絵が展示されている。右の“京の舞妓”(4/23まで)。この絵をずっと追っかけていたが、やっとお目にかかれた。

御舟の作品を沢山所蔵している山種美術館に通いつめ、さらにここや東近美の平常展にも頻繁に足を運んだので御舟の“炎舞”、“名樹散椿”などの代表作はほとんど鑑賞済みになっていたが、この“京の舞妓”はなかなか縁がなかった。御舟の絵にかぎらず、画家の代名詞といわれるような絵に接したときの嬉しさは格別である。

東博がもってる御舟の絵の真打がこの絵。ここは昨年の12月から、画集に載ってるほどの代表作を連続して展示している。拙ブログ05/12/5で紹介した“紙すき場”、次がこの前でていた“萌芽”。そして、“京の舞妓”。この絵で一番感激するのは目に染み入るような群青による舞妓の衣装と染めの絞り目や畳の目一つに至るまで追求した超細密描写。

御舟は“紙すき場”(1914)のころは黄土色にはまっていたが、そのあと群青中毒
になる。その深い群青に吸い込まれそうになるのが、御舟が京都に住んでいたとき
に描いた“洛北修学院村”(1918、滋賀県立近代美術館)。近代の日本画家が描い
た風景画でこの絵ほどズキンとくる絵に出会ったことがない。この絵の2年後、御舟
が26歳のときに描いたのが“京の舞妓”。

燕子花の模様をした着物の群青と舞妓の白い顔が印象的で、目の前で本物の舞妓
がポーズをとっているような気がする。そして、焼けたあとまで描いている畳の質感
に目が点になる。こんな描き方をした日本画家はほかにいない。対象をとことんまで
観察した御舟は、その質感をリアルに表現するため、やり過ぎとも思える細密描写を
徹底的に行う。これが当時の院展の大御所で、あからさまな写実を嫌った横山大観の
怒りを買う。が、一方で、洋画家の梅原龍三郎からは“えげつないまでつっこんだ細密
描写の舞妓図などマンテーニャの写実に通ずるものがある。真に一世に稀有の画才”
と絶賛される。

レオナール・フジタの絵が日本画のような西洋画なら、速水御舟の“京の舞妓”は
油絵のような日本画かもしれない。

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2006.04.04

藤田嗣治展

351期待の“藤田嗣治展”(東近美、5/21まで)を見てようやく世界のフジタの画業の全容を知ることができた。

フジタという名前はエコールドパリの代表的な画家として、知ってはいるが、“代表作をいくつ見た?”と言われると答えに困る。手元に画集がないので、そもそも代表作のイメージがない。海外で記憶してるのはパリ市立近代美術館にあった“横たわる裸婦”(1922)くらいしかない。

国内では意外にも結構いい絵に出会った。広島に長く住んでいたので今回出品されていたひろしま美術館の“十字架降下”(1927)を楽しんだが、ほかの作品と較べてみると、この絵が代表作のうちでも上位に位置する名画であることがわかる。

4年くらい前、大原美術館で猫と裸婦が出てくるいい絵を4,5点見たときは、乳白色の肌の輝きにも魅せられたが、それよりも闘争する猫のイメージのほうが強く残った。それが決定的になったのは東近美蔵の“猫”(1940)。十何匹の猫が虎のように激しく喧嘩する様は迫力がある。裸婦の傍に座っているおとなしい猫がときにはこんなに激しく取っ組み合いをするのだから、その落差に驚く。

裸婦像で惹きつけられるのは、裸婦が横たわるベッドの背景が黒一色の“眠れる女”(1931)。この絵のほかにもフジタの作品を多く所蔵している秋田の資産家、平野政吉のことははじめて知った。流石にいい絵を集めている。この絵と似たような美しくて官能的な女性画が島根芸術文化センター建設室と福岡市美術館にある。今回出品されるのを期待してたが、残念ながら出てこなかった。まあ、“眠れる女”があるので充分。

今回、とくに気になった絵が右の“カフェ”(1949~63)。これまで見慣れた裸婦や猫の絵とは違い、都市の生活の匂いがする絵で、これが新鮮だった。黒いドレスの女性はどこか憂いをたたえており、マネが女性バーテンダーをモデルにして描いた“フォリー=ベルジェールのバー”(コートールドコレクション)と似たような雰囲気が伝わってくる。

フジタの偉大なところはヨーロッパ絵画の土俵に入って、乳白色の肌という独自の世界を創り上げたことである。フジタは春信や歌麿の女性の描き方に触発され、肌の滑らかさや柔らかさを描こうとヨーロッパの画家がなし得なかった乳白色の肌を生み出した。毛筆と墨を使って伸びやかな黒い線を描くのも、流れるような日本画の伝統的な線の魅力を油絵に生かすためである。琳派のような金地、色使いを抑え、絵の具を塗り重ねない描き方、肌の魅力を一層ひきたてる流れるような黒の輪郭線などを目にすると、日本画をみているのではと錯覚する。

西洋画の単なる模倣でなく、西洋画の中に日本画の良さを融合させて、新たな美の世界を生み出したフジタの作品の数々に200%満足した。

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2006.04.03

青騎士の画家、マルク

350“日本におけるドイツ年”に因んでドイツの画家の作品を見る機会が多い。現在、ホテルニューオータニ美術館で開かれている“青騎士の画家展”(5/7まで)はカンディンスキー、クレー、マルク、ミュンターの版画(26点)を集めた展覧会。

出品数は少ないが、好きな画家、カンディンスキー、クレーの絵はなるべく見逃さないようにしているのでさらっと観てきた。カンディンスキーの作品が一番多く、木版画、リトグラフなど12ある。このうち“コンポジションⅣのための下絵”、“小さな世界Ⅲ”、“小さな世界Ⅶ”が印象深い。

“コンポジションⅣ”は完全な抽象絵画に到達してない作品で、“戦闘”という副題がついている。馬に乗った騎士が戦う場面ははっきりとみえないが、垂直に伸びる線や丸みを帯びた円錐形などは騎士の持ってる槍や馬のフォルムをイメージさせる。これに較べると“小さな世界”は円、曲線、直線といった幾何学的モティーフを赤や青、黄色の鮮やかな色彩で構成した抽象絵画。カンディンスキーの作品に魅せられてるのがこの抽象美。小さな版画でも気分が高揚する。

1911年、カンディンスキーとともに“青騎士”を結成したマルクの作品(4点)もなかなか魅力的。右は第一次世界大戦で従軍する前に制作した“馬”(木版画)。マルクは動物を愛し、牛、馬、などの家畜や鹿、狼、虎などの野生動物を描いている。昔、グッゲンハイム美術館蔵の“黄色い牝牛”を見たときの印象が強烈だったため、マルクの絵というとすぐ、“牛の絵”を思い浮かべるが、馬もよく登場する。森美術館でやっている“東京ーベルリン展”(5/7まで)にも牡牛のほかに馬と虎の版画があった。この木版画における色の組み合わせに釘付けになった。赤い地とうす緑の地に描かれた躍動感溢れる黒い馬と青い馬が強く心に残る。平面的に表現した馬をぐるりと囲む輪郭線や勢いのある黒の線が画面をひきしめている。

クレーの絵は5点あり、“恋する男”というのが面白い。顔と頭を表す円のなかに下半分は男の目と鼻が描かれ、上半分にはブラジャーをつけただけの女が横たわっている。なんとも面白い発想!クレーという画家は超一級の漫画家でもある。この絵に出会ったのは大きな収穫。

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2006.04.02

プラド美術館展のムリーリョ

349東京都美術館で開催中の“プラド美術館展”(6/30まで)には予想以上のいい絵が展示されている。

世界トップクラスの美術館が収蔵する作品を展示する場合、その絵の質によっては主催者が宣伝するほど見る人は評価しないケースだってある。今ではマドリッドにあるプラド美術館を訪問し、ベラスケスやゴヤ、グレコなどの名画を鑑賞したひとは数多くいるので、名画の残像が消えないときに日本に来た作品に接するとどうしても“えー、こんな絵しかきてないの、現地にはこれよりずっといい絵があったよ”ということになる。

プラドのような大美術館の展覧会ではあまり期待を膨らませないほうがいい。館自慢の名画が1、2点あればもう立派な展覧会である。そういう意味では、今回は目玉にティツィアーノの“ヴィーナスとオルガン奏者”(拙ブログ2/26)があるので申し分ない。これはベラスケスなどスペインの巨匠以外ではティツィアーノとルーベンスの傑作が揃っているプラドの所蔵品のなかでも評価の高い絵。

やはり群を抜いていい。とくにヴィーナスがつけてる髪飾り、イヤリング、ネックレス、腕輪の光り輝く質感に驚かされる。ベッドの敷物、後ろのカーテンのえんじ色と室内の外の風景に見える木々の緑が実にうまく溶け合い、落ち着いた絵画空間となっている。描かれた3人は顔の表情に微妙なちがいがある。左のクピドが一番緊張した顔をしている。幼子なのにどうしてそんなに顔をこわばらせているの?という感じ。端正な顔をしたヴィーナスはクピドの真剣なまなざしにたじらうこともなく、ゆったりと体をベッドに横たえている。右の二人に視線が向かうのに対し、左側のオルガン奏者は目がぼやっとしており、存在感はあまりない。今回でているティツィアーノのほかの3点にも魅了された。

また、右のムリーリョ作、“無原罪のお宿り”にも深い感動を覚えた。02年のプラド美展(国立西洋美)にも別ヴァージョンがでていた。前回のマリアは顔をすこし傾け、上のほうを見ているポーズだったが、この絵ではマリアは胸の前で両手を合わせ、まっすぐ前を向いている。目、口、鼻、のバランスがよく、とてもチャーミング。セビリアの町を歩けば出くわすような女性である。白い三日月に乗る聖母マリアのまわりには可愛い天使がいる。天使の数は今回のほうが多い。上のほうにいる頭だけ描かれた天使は左右からマリアをみつめ、マリアの足元にいる天使は手に花を持っている。ムリーリョの描く天使をみて心が和む感覚は円山応挙や長澤芦雪の仔犬図を前にしたときのそれと似ている。ムリーリョの優しい感性が充分伝わってくる“無原罪のお宿り”や羊がでてくる“貝殻の子供たち”を見れたのは大きな喜び。

このほかにも好きなグレコが4点あったし、ゴヤの色が鮮やかな“果実を採る子供たち”も見れた。階段を登るのはしんどいが、これを吹っ飛ばしてくれるほどの満足が得られる展覧会であった。

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2006.04.01

マグリンゴ会の立ち上げ

295拙ブログ3/24で“リンゴを食べるとやせられる?”を書いたところ、ドイツにお住まいで、“散歩絵、記憶箱の中身”というブログをもっておられるseedsbookさんからコメントをいただき、二人ともリンゴが好きでまたシュルレアリスト、マグリッドの絵にも興味をもっていることがわかりました。

で、リンゴにまつわる話をブログで綴る(不定期)会をつくろうということになりました。会の名前はマグリッドとリンゴを合わせて“マグリンゴ会”です。ここに会員を広く募集しますので、よろしかったらご参加下さい。

リンゴが好きな人に限りません。リンゴが好きな人も嫌いな人もリンゴネタをお持ち
であれば、それをご披露していただきたいと思います。リンゴについてどんなことが分
かると面白いかという点からは、例えば次のようなブログ記事やコメントがあれば楽し
いです。

★美味しいリンゴの品種は?ー日本では、ドイツでは、フランスでは、、、、高級品、
 普通に食べるリンゴの品種は、、その値段は
★リンゴを食べると健康にいい?!
★リンゴはどこで作られてるの?ー青森、山形、福島、、、のどのあたり、欧州では
 自国産or輸入?
★リンゴを使った料理やデザートはどんなのがあるの?ーリンゴを使ったケーキでは
 どこの店のが美味しい
★リンゴは美術の中でどう表現されてきたかー絵画、彫刻、オブジェ、写真、、、、
★リンゴが属性的、象徴的にでてくる文学作品はー小説、詩、神話、、、
★リンゴの歌や音楽でどれが好きか?
★リンゴを食べるシーンが印象的な映画の思い出、、、、
まだまだいろいろリンゴ話がでてきそうな気がします。

会員の確認ですが、自分のブログをお持ちの方は記事をTBしていただいたら自動的
に会員となります。まだブログされてない方は会員のブログにコメントしていただい
たらOKです。もちろん、どちらの場合でも、“会員になります”と一言申し添えていた
だくことが大事ですが。コメントだけの方は長くなっても一向に構いません。記事のUP
は不定期ですが、ネタが切れたら、この会は自然解散いたします。“マグリンゴ会”に
集まる方とリンゴ話で多彩なコレボレーションができれば嬉しいのですが、よろしく
お願いします。

前回はマグリッドの青リンゴを載せましたので、“マグリンゴ会”での最初のリンゴ
ネタは日本画にしました。右の絵は本日訪問した愛知県立美術館で開催中の“江戸
絵画展”(5/21まで)にでていた江戸琳派、鈴木其一作の“林檎図”です。其一は
こんな絵を描いてたんですね!花と実をつけた林檎の木を描いた絵にタイミングよく
出会い、いいスタートがきれました。

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