キルヒナーの山岳風景画
アルプスの山岳風景を絵にしたのはスイス人画家だけではなかった。
Bunkamuraの“スイス・スピリッツ展”にはイタリア、ミラノからアルプスにやってきたセガンティーニの名画とともにドイツ表現主義を代表する画家、キルヒナー(1880~1938)のいい絵が数点でている。
今年はキルヒナーと縁がある。現在、森美術館で開かれてる“東京ーベルリン展”(5/7まで)にキルヒナーがベルリンにいた頃描いた絵が4,5点あった(拙ブログ06/2/2)。だが、今回展示されてる絵ではベルリン時代の暗さや陰鬱さは影をひそめ、大胆な筆触と青、紫、、緑、ピンクなどのどぎつい色彩でアルプスの山々を表現している。
右はとくに気に入った“ヴィーゼン近くの橋”。この絵と“ゼルティッヒ渓谷”、“深山
荘前のエルナと私”は同じ調子の絵で、いずれも明るい純色を使った色面構成に
魅了される。“ヴィーゼン近くの橋”では山の頂上に向かう太い紫色の線が何本
も描かれている。紫の色がでてくる絵はあまりみない。紫は好きな色なので、とても
気分がいい。山肌に林立する樹木のぎざぎざはベルリンの町にたつ建物の鋭角的
な形態表現と似ているが、重々しい感じではなく、紫や画面一杯の明るい緑から
は自然の息吹といったものが感じられる。
1914年に勃発した第一次世界大戦に砲兵として従軍するも、繊細な神経の
持ち主のキルヒナーは軍務に適応出来ず、すぐに除隊となった。これでキルヒナー
は精神的に相当参ってしまう。で、1917年、療養のため、スイスのダヴォスに
移り住んだ。キルヒナーがスイスで制作した山岳風景画はスイス人画家にも影響
を与え、師弟関係にあったシェーラーの“風景の中の3人”などスイス表現主義の
作品が同じコーナーに飾ってある。どれも赤、青、黄、緑などの原色で山や野原
の風景が平面的に荒々しく表現されてるので、誰の絵か区別がつかないが、その
躍動感あふれる画風には強く惹きつけられる。
ドイツからやってきてアルプスの風景画に大きな足跡を残したキルヒナーはナチス
に退廃芸術の烙印を押されたことが致命的な打撃となり、その1年後の1938年、
ピストルで自らの命を絶つ。
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