鏑木清方の花見
桜が満開になり、この週末、上野公園や千鳥ヶ淵は花見客で大変な賑わいになりそう。
日本画では桜や梅がよく画題になるので、目の前にある実際の桜と多くの画家が描いた桜の名画とで桜の美しさを2倍楽しんでいるかもしれない。
1ヶ月半くらい前、東近美は平常展で鏑木清方が描いたいい桜の絵、“明治風俗十二ヶ月・花見”を展示していたが
(拙ブログ06/2/16)、桜が満開になったので、再度特別展示していただくことにした。
印象深いのはなんといっても二人が身に着けている着物の赤。何度みてもこの鮮やかな赤にはびっくりする。そして、右の女性は着物だけでなく髪飾りとぞうりの鼻緒まで赤く、頭のてっぺんから足の先まで赤尽くし。その赤が桜の白と女性の白い顔をいっそうひきたてている。
この縦113cm、横30cmの掛軸は江戸の浮世絵師、勝川春章(葛飾北斎の師匠)が描いた肉筆画の最高傑作といわれる“婦女風俗十二ヶ月図”(重文、MOA蔵)に倣って制作したもので、“花見・4月”など明治30年ごろの四季折々の庶民風俗が描かれている。東近美では年3回展示される(1回に4幅)。
“鏑木清方随筆集”(岩波文庫、05年11月)に清方が昭和11年3月、花見につい
て書いたものが載っている。ちょうど“明治風俗十二ヶ月”が制作された昭和10年と
あまり変らない時期で、味わい深く、面白い文章なので紹介したい。
“お花見が嫌いで、めったに行ったことのない私ではあるが、この都会の年中行事から
お花見をなくすことは、とにかく心淋しい。
酔っぱらいも、客観的には愛嬌のあるものだ。瓢箪を担って、落花の中を泳ぐようにし
て、知らない人だろうが何だろうが猪口を差す、行きずりの人同士が、たちまち肝胆
相照して百年の知己のようになり、さしつ、おさえつ、それも酒尽き、興尽くれば、
右と左とに別れて元の路傍の人となる。また、擦れ違っても、朦朦たる酔眼にそれと
認めれば、やあと声をかけただけで、人波に揉まれ、それっきりの付合い。酒中の趣
は解せぬ身にも、こういう情景は興あることに眺められる。尤もそういうことをいうの
は今のこころもちであって、若い時分の私は酔っ払いは大嫌いだったから、面白いとは
感じながら苦々しいと思う方が余計だったのだ。
だが空下戸の私でも、朧夜に散る花を盃に浮ぶるの風流は解する。その場合、淡い
甘味に一服の薄茶でもこれは下戸に許された風流ではあるが、この頃の酒飲みは、
酒後の甘いものは、格別の味だなどという、こうなると飲まぬものの方が割が悪い”
■■■■■今年前半展覧会情報(拙ブログ1/1)の更新■■■■■
・下記の展覧会を追加。
★西洋美術
4/1~6/15 ルーシーリー展 とちぎ蔵の街美術館
4/18~30 絹谷幸二展 日本橋三越
5/11~22 ニキ・ド・サンファル展 大丸東京店
★日本美術
4/1~5/28 播磨ゆかりの江戸絵画展 大倉集古館
4/1~5/28 蒔絵の美展 畠山記念館
4/8~6/4 伊東深水展 目黒区美術館
4/12~5/28 大正・昭和前期の美術展 東京芸大美術館
4/22~5/28 菊池契月展 長野県信濃美術館
4/28~6/4 伊東深水展 五浦美術館
4/29~6/18 所蔵名品展Ⅰ 出光美術館
4/29~5/28 若冲・動植綵絵展示2期 三の丸尚蔵館
6/1~7/17 広重・東海道五十三次展 太田記念美術館
6/3~7/2 若冲・動植綵絵展示3期 三の丸尚蔵館
6/17~7/23 書の国宝展 五島美術館
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