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2006.03.31

鏑木清方の花見

283桜が満開になり、この週末、上野公園や千鳥ヶ淵は花見客で大変な賑わいになりそう。

日本画では桜や梅がよく画題になるので、目の前にある実際の桜と多くの画家が描いた桜の名画とで桜の美しさを2倍楽しんでいるかもしれない。

1ヶ月半くらい前、東近美は平常展で鏑木清方が描いたいい桜の絵、“明治風俗十二ヶ月・花見”を展示していたが
拙ブログ06/2/16)、桜が満開になったので、再度特別展示していただくことにした。

印象深いのはなんといっても二人が身に着けている着物の赤。何度みてもこの鮮やかな赤にはびっくりする。そして、右の女性は着物だけでなく髪飾りとぞうりの鼻緒まで赤く、頭のてっぺんから足の先まで赤尽くし。その赤が桜の白と女性の白い顔をいっそうひきたてている。

この縦113cm、横30cmの掛軸は江戸の浮世絵師、勝川春章(葛飾北斎の師匠)が描いた肉筆画の最高傑作といわれる“婦女風俗十二ヶ月図”(重文、MOA蔵)に倣って制作したもので、“花見・4月”など明治30年ごろの四季折々の庶民風俗が描かれている。東近美では年3回展示される(1回に4幅)。

“鏑木清方随筆集”(岩波文庫、05年11月)に清方が昭和11年3月、花見につい
て書いたものが載っている。ちょうど“明治風俗十二ヶ月”が制作された昭和10年と
あまり変らない時期で、味わい深く、面白い文章なので紹介したい。

“お花見が嫌いで、めったに行ったことのない私ではあるが、この都会の年中行事から
お花見をなくすことは、とにかく心淋しい。

酔っぱらいも、客観的には愛嬌のあるものだ。瓢箪を担って、落花の中を泳ぐようにし
て、知らない人だろうが何だろうが猪口を差す、行きずりの人同士が、たちまち肝胆
相照して百年の知己のようになり、さしつ、おさえつ、それも酒尽き、興尽くれば、
右と左とに別れて元の路傍の人となる。また、擦れ違っても、朦朦たる酔眼にそれと
認めれば、やあと声をかけただけで、人波に揉まれ、それっきりの付合い。酒中の趣
は解せぬ身にも、こういう情景は興あることに眺められる。尤もそういうことをいうの
は今のこころもちであって、若い時分の私は酔っ払いは大嫌いだったから、面白いとは
感じながら苦々しいと思う方が余計だったのだ。

だが空下戸の私でも、朧夜に散る花を盃に浮ぶるの風流は解する。その場合、淡い
甘味に一服の薄茶でもこれは下戸に許された風流ではあるが、この頃の酒飲みは、
酒後の甘いものは、格別の味だなどという、こうなると飲まぬものの方が割が悪い”

■■■■■今年前半展覧会情報(拙ブログ1/1)の更新■■■■■
・下記の展覧会を追加。
 ★西洋美術
 4/1~6/15   ルーシーリー展       とちぎ蔵の街美術館
 4/18~30    絹谷幸二展         日本橋三越
 5/11~22    ニキ・ド・サンファル展    大丸東京店

 ★日本美術
 4/1~5/28   播磨ゆかりの江戸絵画展 大倉集古館
 4/1~5/28   蒔絵の美展         畠山記念館
 4/8~6/4    伊東深水展         目黒区美術館
 4/12~5/28  大正・昭和前期の美術展 東京芸大美術館
 4/22~5/28  菊池契月展         長野県信濃美術館
 4/28~6/4   伊東深水展         五浦美術館
 4/29~6/18  所蔵名品展Ⅰ        出光美術館
 4/29~5/28  若冲・動植綵絵展示2期  三の丸尚蔵館
 6/1~7/17   広重・東海道五十三次展 太田記念美術館 
 6/3~7/2    若冲・動植綵絵展示3期  三の丸尚蔵館
 6/17~7/23  書の国宝展         五島美術館

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2006.03.30

東博地獄劇場 四幕

346京博で“最澄と天台の国宝展”をみたときは、お目当ての“六道絵”(ろくどうえ)の細かい描写がよく見えなかったので、今回は単眼鏡を使ってじっくりみた。六道絵の展示は前期(3/28~4/16)のみ。

目がいい人でもガラスケースの向こうにある全15幅に描かれた一つ々の場面をはっきり瞼の中におさめるのは難しい。そこで、単眼鏡がとらえたディテールも含めて東博地獄劇場 四幕の主要な場面をすこし詳しく紹介したい。が、この手の話は気持ちが悪い(大半の人はそうかもしれない)という方は遠慮なくパスしていただきたい。前回書いた六道絵の記事は拙ブログ05/11/2

★閻魔王庁図:一番下のところでは、首にはめ板をされた女の罪人が獄卒の鬼に追い立てられている。母親のあとを裸の赤ん坊と体を縄で縛られた男がついていく。その左には同様の格好をさせられたのが二人いる。真ん中では男が大きな鏡に生前の悪行(殺人)を見せられて、顔をひきつらせている。鏡の横の台にのせられた生首(殺された人間の)が目をかっと開いて罪人をにらみつけてるところは迫力がある。

★等活地獄(とうかつ):ここは生き物を殺した者が落ちる地獄。怖いのは上半分。左の方では二人の鬼が罪人を刀で切りさき、その隣の鬼は骸骨の骨をさらに打ち砕いている。下の門外では、ちょっと暗くてよく見えないが、岩山の隙間に罪人を入れ、鬼たちは両側から力いっぱい押し、圧殺している。こりゃーたまらない!

★黒縄地獄(右、こくじょう):生き物を殺し、盗みを働いた者が落ちる。苦しみ度は等活地獄の十倍。地獄絵のなかで最も凄惨な場面。炎の下では、板の台にのせられた男の腹のあたりに鋸の歯をあて、二人の鬼が“イチニー、イチニー”と楽しそうに轢いている。血がどくどくと流れ落ちる。その上の方で、罪人の頭から足のほうにかけてなにか黒い糸のようなものを張っている。何をしているのかというと、男の体を切り刻むため、熱い鉄の墨縄で体に墨うちをしてるところ。この場面は右の画像を拡大するとよりはっきり見える。

★阿鼻地獄(あび):父母、徳者を殺したり、真理を否定し、因果の道理を認めず、殺生、盗み、邪淫などをした者が落ちる地獄。ここでの責め苦は想像を絶する。左のほうには獄卒に口を大きく開けられ、熱鉄の玉を呑まされる罪人がおり、右では竹に縛り付けられた男は舌を引き抜かれて、目ん玉が飛び出しそうになっている。最も罪深い者が落ちる極悪の地獄のためか、刑を執行するここの獄卒はほかとはちがう鬼の怪物。頭の上にまた顔が3つあったり、お腹にも顔をある。そして、画面のなかで赤い炎が描かれる割合が一番多い。

★衆合地獄(しゅうごう):生き物を殺し、盗みをし、淫欲にふけって善業に励まなかった者が落ちる地獄。城門の外の悪見処では、生前、他人の子供をいじめたため、自分の子供が鬼に陰部を鉄の錐(きり)で突き刺されるのを見せられて苦悩する男や、逆さずりにされ肛門に銅の湯を注ぎ込まれて苦しむ罪人などが描かれている。

獄卒がでてくるのはこの5点だけ。残りは正視できる?“人道不浄相”を除けば、心拍数が上がることはない。だが、“譬喩経所説念仏功徳”(ひゆきょう)では左上の屋敷のなかに生首がいくつか転がっているのでびっくりしないように。

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2006.03.29

最澄と天台の国宝展

345現在、東博で開催中の“最澄と天台の国宝展”(5/7まで)は昨年、京博で一度鑑賞した。で、今回はパスしてもいいのだが、このときはお目当ての“六道絵”に時間を多くさき、他の仏教美術品は目慣らし程度でまわったので、復習を兼ねて再度見ることにした。

見所はいくつもある。天台宗関連の仏像、仏画、経典、経箱や密教法具などの仏教工芸品には国宝、重文が多く含まれているので仏教美術の展覧会として
は最高レベルといえる。特に関心の高い仏像や仏画は優品のオンパレードで、大き
な満足が得られた。

何しろ天台宗開宗1200年記念で、全国の天台寺院から集めてきたのだから、仏像
一つとってもヴァラエティに富む。集客のキャッチコピーに使われているのが、50年に
一度しか公開されない秘仏で寺からはじめて出る滋賀・善水寺の“薬師如来座像”。
金箔は比較的良く残っており、なかなかいい仏像である。上野・寛永寺にある
“薬師如来像”も初公開。ほかに美しいと感じられたのは岐阜・横蔵寺の“大日如来
座像”、右の“聖観音菩薩立像”(滋賀・延暦寺)、“千手観音菩薩”(滋賀・明王院)、
“普賢延命菩薩座像”(大分・大山寺)、運慶・湛慶作、“梵天立像、帝釈天立像”
(愛知・瀧山寺)。これらはいずれも重文。

造形的にみて刺激的だったのが、12頭の白象に乗っている“普賢延命菩薩座像”。
白象は上の段に4頭、下の段に8頭配置されている。これほど見ごたえのある普賢菩
薩ははじめて見た。感激度が高いのは衣装の文様と色彩が鮮やかな“梵天、帝釈天
立像”とふっくらとした優しい顔と全体的に柔らかい造形感覚が見られる“聖観音菩
薩立像”。京博のときもそうだったが、今回も“聖観音菩薩”の前でしばし立ちつくして
いた。なんとも穏やかな顔の観音様である。こういう仏像をみているときが一番心が
安らぐ。

仏画のハイライトは根津美術館所蔵の“金剛界八十一尊曼荼羅図”(重文)。びっくり
するくらい素晴らしい曼荼羅図。見てのお楽しみ。もうひとつの目玉、国宝“不動明王像
(黄不動)”(京都・曼殊院)は後期(4/18~5/7)に展示される。

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2006.03.28

伊藤若冲の動植綵絵 その一

344伊藤若冲の最高傑作といわれる“動植綵絵”(どうしょくさいえ)を観るため三の丸尚蔵館に足を運んだ。

1999年12月にあった“皇室の名宝展”(東博)でみたあと、なかなか出てこないなあと思っていたら、修復中だった。その修復が終わったので、全30幅が一ヶ月に6幅ずつ半年にわたって展示される。しかも無料で。若冲ファンにとってはたまらない公開なので、長丁場ではあるが、若冲ワールドを思いっきり楽しみたい。

3/25~4/23に展示されるのは“芍薬群蝶図”、“老松白鶏図”、“南天雄鶏図”、
“雪中錦鶏図”、“牡丹小禽図”、“芦雁図”。30幅をいくつかのグループにしてみる
のもひとつの楽しみ方。画題で分けると。
 ★グループ1:鶏の絵、これは8点ある。今回2点でている。
 ★グループ2:雪が描かれた絵、右の“芦雁図”など3点。
 ★グループ3:魚や貝など図鑑タイプの絵、4点。
 ★グループ4:蝶や昆虫などがでてくる絵、今回の“芍薬群蝶図と
         “池辺群虫図”の2点。
 ★グループ5:孔雀、鶴、白鳳など大きな鳥を描いた花鳥画、5点。
 ★グループ6:小禽の花鳥画、“紅葉小禽図”など7点。
 ★グループ7:鳥がいない花だけの絵、梅花図の1点。

描き方で目立つ色に焦点をあててみるとすぐ思いつくのが白。レース地のような鳥の
羽とか、ふぐの刺身の盛り付けを連想させる花びらとか、雪とか。これを仮に“グル
ープ白“とすると、胡粉の白が圧倒的な存在感で輝いている絵は10点くらいある。

“動植綵絵”をこんな切り口でみたとき、もっとも気に入ってるのが“グループ2”の
雪景色が出てくる絵。鳥では鶏よりは鶴や孔雀のほうが好み。そして、色はなんと
いっても白。高価な胡粉を惜しげもなく使っているのか、花びらや鳥の羽の質感には
驚愕する。若冲の彩色画ではこの白を見るのが最大の楽しみ。3期(6/3~7/2)
に出品される“老松鸚鵡図”などは若冲の高い画技と超想像力が最高に発揮され
た傑作ではないだろうか。

今回のお目当ては構図が素晴らしい“芦雁図”。これをみるといつも広重の“名所江戸
百景 深川洲崎十万坪”に描かれた上空を飛ぶ大きな鷲が頭をよぎる。雁は氷の張っ
た水面にかなりのスピードで降下してる感じ。超細密に表現された茶褐色の羽と枝に
積もった雪にいつものことだが声が出ない。若冲の雪はすごくクリーミーで、夏のかき
氷にかかってる練乳のよう。次回(4/29~5/28)の展示がいまから待ち遠しい。

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2006.03.27

東近美の川合玉堂

343ここのところ立て続けに、川合玉堂のいい絵を観た。

MOAで美しい桜が清々しい気持ちにさせてくれる“春色駘蕩”に酔いしれたあと、野間記念館では玉堂定番の鵜飼や墨一色の縦長山水図を楽しんだ。

そして、竹橋の東近美で現在、開催中の平常展(前期4/9まで。後期4/11~5/21)に足を運ぶと右の代表作、“行く春”(重文)が展示してあった。

川合玉堂の作品を多く所蔵しているのは東近美、山種美術館と奥多摩にある玉堂
美術館。都内では東博でも玉堂の作品が定期的に出てくる。東芸大美には鵜飼
シリーズの最高傑作があり、また宮内庁も大作を数点もっているが、これらはなかなか
お目にかかれない。玉堂の代表作はおおよそ鑑賞したが、まだ東芸大美の鵜飼が
残っている。1994年、日本橋高島屋で生誕120年を記念する回顧展が開かれたとき
もなぜかこの“鵜飼”は出品されなかった。以来、この絵に会えるのを首を長くして
待っている。

東近美には玉堂の代表作中の代表作が2点もある。秋に展示される“彩雨”と春に
でてくる右の大作、“行く春”。このほか、“二日月”、“朝もや”、“祝捷日”といった
名品もある。今、展示されてる“行く春”(5/21まで)をみるのは4年ぶり。六曲一双の
屏風の前に立つと、思わず“うわー!”と声が出そうになる。桜はこれから満開に
なるので花びらが散る絵はまだ早いが、画面いっぱいに点々と描かれた白い花びらが
風にただよってるさまは本当に美しい。

この絵で一番惹きつけられるのは手前の岩のうすい白緑。重なりあう岩は本来こん
な色はしてない。玉堂の山水画や風景画にでてくる岩はほとんど墨色か茶褐色だが、
この絵だけは白緑が使われている。この絵は玉堂が寄居から長瀞(ながとろ)を
歩いたときの印象をもとにして描かれた。壮大な岩畳が続くこの荒川上流の渓谷は
まだ見たことがないので、実感はないが、柔らかい岩の表現や、左上から枝が伸
びる桜から春の温もりがひしひしと伝わってくる。久しぶりに見た“行く春”に大変
感動した。

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2006.03.26

東山魁夷の雑誌表紙絵

342野間記念館では大観、栖鳳、玉堂の絵のほかにとても嬉しい作品が展示してあった。それは講談社が刊行した雑誌の表紙絵(5/21まで)。

かなり昔の雑誌なので知らないほうが多いが、表紙絵を担当した画家のことは大体わかる。多くの読者に読んでもらうためには、表紙が良くなくては話にならない。で、当代一流の画家が選ばれている。なかにはあの画家がこうした表紙絵を手がけていたのか!という意外
な発見があった。と同時に、優れた画才にあらためて惚れ直す機会にもなった。

雑誌と表紙の原画が一緒にみられるのは講談社の記念館ならではの展示である。
雑誌とその表紙を描いた画家を古い順から並べると。“婦人倶楽部”(大正14年、
堂本印象)、“キング”(昭和3~7年、木村武山、山口蓬春、堂本印象、土田麦僊、
荒木十畝、川端龍子、結城素明)、“富士”(昭和6年、山川秀峰)、“講談社倶楽
部”(昭和24年、伊東深水)、“日本”(昭和33~34年、東山魁夷)。

美人画家、山川秀峰の絵では、代表作の“序の舞”(東近美蔵)にでてくる色白で
卵のような顔立ちの女性に限りない愛着を覚える。いつかほかの作品も見てみたい
と願っていたが、こんなところであのぽっちゃっとした愛らしい女性に出会った。
非常に気持ちがいい。また、伊東深水の表紙いっぱいに描かれた12点の美人画
も圧巻。浮世絵の大首絵の美人画をみるよう。

今回、山川、伊東の美人画より新鮮だったのが東山魁夷の作品。大げさでなく衝撃
を受けた。東山魁夷の絵でこれほど色彩が豊かな絵を過去見たことがない。昭和
33年から1年9ヶ月、雑誌“日本”の表紙を飾った21枚がずらっとある。ちょうど50歳
の頃の作品。この時期、東山はこんなカラフルな風景画を制作していたとは知らなか
った。鮮やかな色調と力強い造形で日本各地で感じた心象風景を表現したこれらの
表紙絵に200%魅了された。

画題は北海道の牧場、秋の富士山、高原の空の美しい月、倉敷の白壁など日本人
がすっと画面に入っていけそうな情景。なかでも心を揺すぶられたのが右の“漁村”。
深い青で表現された軒下や道についた家の影と海にズキンときた。光のとらえかたは
やはり並ではない。小品ながらカラリスト、東山魁夷の佳品を見せてもらい、晴れや
かな気持ちで館を後にした。

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2006.03.25

野間コレクションの横山大観

246目白にある講談社野間記念館では現在、“大観、栖鳳、玉堂展”(5/21まで)を開催中。

ここへは2年前、すぐ近くにある永青文庫を訪れた際、館の存在を知り、入館したことがある。そのときみた横山大観や上村松園、伊東深水の作品の質が高かったので、定期的にHPをチェックし、好みの絵がでてくるのを窺がっていた。

今回は近代日本画の最初の頃、画壇をリードした巨匠3人の作品が展示され
ている。横山大観が11点、竹内栖鳳6点、川合玉堂9点。大観と玉堂にいいのが
ある。前回、大観の大きな屏風、“千与四郎”があったが、今回はお休み。風景
画では右の“春雨”、“飛泉”、“月明”、“千代田城”、“霊峰”、花鳥画では“夜梅”、
“白鷺ノ図”が目を惹く。

とくに気に入ったのが“春雨”(部分)。大観の絵で一番好きな“夜桜”(大倉集古
館蔵)にでてくるような赤松の濃い緑青に目を奪われる。松の下を流れる川の白、
山々の墨と緑青のコントラストが味わい深く、霞にけむる峡谷の感じが伝わって
くる。奥行きのある画面中央に一羽の鳥が飛び、左の桜に雨が降り注ぐ。トリミン
グされた桜と松を峡谷の左右に配する画面構成が実に秀逸で、春雨にうたれ
る山奥の情景を見事に表現している。“白鷺ノ図”ははじめてみるタイプの花鳥画。
縦に伸びる竹の笹に隠れるように片足で立つ白鷺は存在感があり、静かにじっ
と前方をみつめるポーズに惹き込まれる。鳥をこれほど大きく、そして焦点をあて
て描いた絵はみたことがない。

川合玉堂で足が止まったのが“鵜飼”。この鵜飼は見慣れてるものより、舟の数が
多い。夕闇に照り輝くかがり火のもとで、古装束に身をまとった鵜匠にあやつられ
た鵜が忙しく魚を獲っている様子が情趣豊かに描かれている。手前の鵜匠のと
ころだけは川の水が波を打ち、頭を水面につっこんでる鵜や口に魚をくわえる鵜が
リアルの表現されてるが、画面上の舟での漁はさほど力が入った描き方でなく、
色調も薄い。俯瞰の視点で鵜飼の場面をとらえ、一番遠くの舟と手前の舟が一部
画面からはみ出してるので、鵜飼が川いっぱいにわたって行われている感じが
する。ふと、昔、岐阜の長良川で観た鵜飼が頭をよぎった。

竹内栖鳳については、MOAでいい絵を観たあとなので期待したが、出品作は残念
ながらしっくりいかないターナー風の絵だった。

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2006.03.24

リンゴを食べるとやせられる?

340リンゴを食べると肥満や高血圧症の予防に役立つ!という刺激的な記事が3/22の新聞にでていた。これを発見したのがアサヒビール。

記事によると人への臨床試験で、リンゴの抽出成分“リンゴポリフェノール”が血液中の中性脂肪の増加を抑える効果が確認されたという。ウーロン茶ポリフェノールと同じくらいの効果とみられ、同社はサプリメントなどへの商品化を考えてるとのこと。

特定の食物が健康や病気にたいしていい効果をもたらすということはよく聞くから、
話自体はそう驚くことでもないが、果物のなかではリンゴを食べる回数がほかに
較べ圧倒的に多いので、いつもより関心度が高い。夏から秋にかけてスイカ、梨、
桃、葡萄がでるころはリンゴを食べるペースは落ちるが、それ以外は食後のデザ
ートとしてリンゴを1日1個、毎日食べる。我が家では冬に蜜柑を食べることがな
いので、夏を除き、果物はリンゴが定番になっている。

品種はとくにこだわりがあるわけではなく、お店に並ぶ普通のリンゴを美味しくい
ただく。いつごろからこういう習慣になったか覚えてないが、もう随分前からリンゴが
毎日食べるお米のようになった。飽きずに食べられるのは、リンゴが比較的軽い
果物だからかもしれない。梨や桃ほど甘くないし、歯ごたえは柿のような感じだが、
柿のように硬くない。口のなかに入れる大きさがちょうどよく、スイカやメロンの
ように口のまわりが汚れない。数でいえば、だいたい1/4個か半分。これくらい
で充分。葡萄やイチゴだと、一個や二個では終わらない。葡萄の場合、一房とか
二房を皆で食べるから結構口の中に入る。

リンゴの皮を剥いて食べるのは好きだが、リンゴジュースはあまり飲まない。ジュース
だとやはりオレンジジュースが一番いい。飛行機のなかでだされる飲み物の種類
をいちいち尋ねたことはないが、チョイスするのはいつもオレンジジュース。周りをみ
てもオレンジジュースを飲むひとが多い。

右は02年、Bunkamuraであったシュルレアリスト、マグリットの回顧展にでてた
“リスニング・ルーム”。最初にこれを見たとき、タイトルと部屋を占領した大きな青
リンゴの関係がわからなかった。まあ、シュルレアリスムの絵だから、不思議な
絵を見ても頭がへんになることはなく、いつものように“マグリットは面白いことを
考えるな!”と素直にこの絵を楽しんだ。コメディのなかに人間でも動物でも、ある
いは建物でもガリバーのように巨大にして観る者を驚かす手法があるが、この絵は
てっきりこの手を使ったのかなと思っていた。

が、図録のキャプションには違うことが書いてあった。部屋の中に置かれた小さ
な蓄音機からでる音がどんどん部屋いっぱいに広がる感じを、リンゴのイメージが
部屋いっぱいに広がることに置き換えて絵画化したという。これをマグリットは“時間
の遠近法”と呼んでいる。空間的な意味での“遠近法”でなく、対象物が時間の経過
とともに大きくなっていくことを表している。ちょっと前にあった小さなリンゴはもう
なく、部屋のなかにはそれよりだいぶ時間がたったので大きなリンゴがあるという
わけである。シュルレアリスト、マグリットの頭はかくも柔らかい。

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2006.03.23

鳥居清倍の役者絵

268浮世絵鑑賞については、東博の平常展のウェートがましている。

それは平常展が無料のパスポート券があるためと、専門館の太田記念美術館が昨年から開催していた記念展が2月で終了したから。

2階の浮世絵コーナーは大体一ヶ月くらいで展示作品が替わるので、年間を通してみると相当数の浮世絵がみれる。しかも、北斎や広重、歌麿といったビッ
グネームの絵師たちの代表作が頻繁に登場するので、ここにいるときの満足度はかなり高い。

今回の展示(3/26まで)にも、いい絵が結構あった。お目当てのひとつが右の
役者絵、“市川団十郎の竹抜き五郎”。描いたのは江戸前期に活躍した浮世絵師、
鳥居清倍(きよます)。浮世絵は最初、墨一色の木版画の“墨摺絵”(すみずりえ)
であったが、次に墨摺絵に筆で丹(たん、赤)を着色する丹絵(たんえ)が流行する。
この役者絵は丹絵の代表作で、重文に指定されている。

見所はなんといっても、曽我五郎に扮する市川団十郎の全身に塗られている強烈
な赤。なぜ、体が赤いのか?土に根を張ってる竹はいくら力持ちの曽我五郎でも
そう易々とは引っこ抜けない。だから渾身の力で竹を抜こうとして、全身が真っ赤に
なっているのである。よくBS1でやっている世界力持ち選手権で大男が鬼の形相で
重い物を持ち上げたり、引っ張ったりしてるのと同じ。

力が入ってるところを表すため、手足はひょうたん足、みみず描きといわれる筋肉
表現が用いられている。ひとつ異様に見えるのが足の親指のへんてこな曲がり方。
役者絵でこれほど力感にあふれるのは見たことがない。運慶、快慶の彫刻、“阿形、
吽形”を思い出すほど迫力ある曽我五郎の姿に見入ってしまった。

役者絵は人気歌舞伎役者のブロマイド。市川団十郎がはじめたとされる荒事(荒っ
ぽい立ち回りの演技)は江戸で爆発的な人気を獲得したという。この力持ちの曽我
五郎を演じる大スター、市川団十郎のブロマイドはとぶように売れたに違いない。

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2006.03.22

フリーア美術館の北斎

338朝日新聞の3/20(月)夕刊に葛飾北斎に関する興味深い記事が載っていた。

現在、米国ワシントンでは昨年多くの観客を集めた“北斎展”の姉妹展が開かれてるらしい(5/14まで)。北斎展の図録にどうしてフリーア美術館が所蔵する北斎の肉筆画が10点ばかり図版で紹介されてるのかわからなかったが、朝日の記事でその理由がわかった。

ワシントンの展覧会にフリーア美蔵の北斎作、肉筆画が40数点でているという。
ここには北斎のいい肉筆画があることは以前から知っていたが、なかなか見る機会
がなかった。見れないのはこれらを収集したフリーアの遺言で門外不出となって
いるからだった。へえー、そういうこと。全く知らなかった!東博などのブランド美術
館がフリーア美展を企画してくれないかなと随分前から願っていたが、そういう事情
なら日本で見れるはずがない。今、北斎の作品が展示されてるサックラー美術館
はフリーア美と同じ敷地内にあるためOKなのだそうだ。

その展覧会に右の“富士と笛吹童子”が出品されてるようだ。この肉筆画は昨年の
北斎展が開催されるという情報を得たとき、ひそかに期待していた作品(実際は
無理だったが)。かなり昔、NHKのフリーア美術館を紹介する番組のなかでこの絵
に出会った。一目みて200%痺れた。真ん中の柳の木に子供が腰を掛け、子供の
前方には雄大な富士山があり、その裾野が上に伸びる柳とX字型に交差している。
こんな斬新な構図を思いつくのだから北斎の想像力は超一級。この絵をみてると、
今にでもワシントンに駆けつけたくなる。

フリーア美の日本美術品コレクションはボストン、メトロポリタン、ギメなどとともに質
が高いことで知られており、浮世絵だけでなく、琳派の凄い作品がある。代表的
なものは俵屋宗達の“松島図屏風”、“雲龍図屏風”と尾形光琳の“群鶴図屏風”。
なかでも日本にあれば間違いなく国宝といわれる“松島図”はなんとしても見たい絵。
04年の琳派展(東近美)に光琳の模写(ボストン美蔵)がでていた。

フリーア美の作品はシカゴ美術館にあるスーラの“グランド・ジャット島の日曜日の
午後”と同様、遺言により門外不出となってることがわかった以上、またワシントンに
出かけるしかない。具体的な旅行計画を検討してみたくなった。

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2006.03.21

祝WBC,日本世界一

337WBCで日本がキューバを破り世界の頂点に立った。日米のプロ野球がまだ開幕してないこの時期に、野球で祝の記事が書けるとは思ってもみなかった。王監督、選手に拍手々。

準決勝の韓国戦につづいて感動2連発、春から縁起がいい。日本全国がこの歴史的な偉業に酔いしれてるのではないだろうか。

日本がアマチュア球界の王者、キューバと戦う試合をはじめてみたので、野球ファン
としてはキューバの投手、打者がどんなに凄いのか大変興味があった。日本が
1回にいきなり4点をとったので、これは勝てるかなと30%くらいは思った。韓国戦で
の代打福留の見事なホームランをきっかけに打線は俄然集中力がでてきた。セン
ター返しの2点タイムリーを放った今江のバッティングは昨年の日本シリーズのVTR
をみてるよう。韓国戦でエラーをした今江はヒットを打ってほっとしただろう。いい
仕事をした。

先発の松坂は1回先頭打者にホームランを打たれたものの、そのあとは強力打線を
よく抑えた。時々高めにすっぽ抜ける球があったが、ストレートはメキシコ戦同様威力
があった。5回に2点を追加し、その裏、下手投げの渡辺が期待通りキューバの
打線を簡単にうちとったので、これで勝利の方程式になったと浮き浮きしていた。
が、プレーしている選手にはじわじわ目に見えないプレッシャーがのしかかっていた。
センターに抜けるかと思った打球をファインプレーして大喜びさせた名手、ショートの
川崎が6回、1アウトのあとのなんでもないゴロをエラー。これで流れがキューバに
傾き、あっというまに2点とられた。

7回も点にはならなかったが、川崎のグラブさばきがスムーズでなかったり、一塁手
小笠原のトスを渡辺がキャッチできなかったりで、選手の動きにリズムが消えた。あきら
かにプレッシャーに押しつぶされてる感じだった。観てるほうもだんだん不安になって
くる。8回、左腕の藤田がキューバの5番バッターに2ランホームランを打たれ、1点差
になったときは、赤い稲妻、キューバの怖さが現実味をおびてきた。

これを救ったのがリリーフの大塚。打者2人をピシャット抑えてくれた。これが日本に
また、流れをひきよせた。9回の日本の攻撃は感動もの。西岡が相手の守備の動きを
よくみてプッシュバントを鮮やかに成功させ、1、2塁のチャンスをつくると、これにつづく
天才イチローが見事に1,2塁間を破るタイムリーヒットを放ち、2塁から川崎をむかい
入れた。ライトからの返球がよく、キャッチャーがブロックしてたので、微妙なプレーだっ
たが、川崎はうまく手でホームベースにタッチ。決勝戦に相応しいすばらしいプレー
だった。期待に応えてヒットを打つイチローは本当にすごい。そのあと、またしても代打
の福留がレフトに綺麗な2点タイムリー。感動も頂点に達した。この回4点をとり、勝利
を決定的にした。終わってみれば10-6で日本はあのキューバに快勝。

韓国、キューバの2戦、日本は全員が一丸となって戦ったという気がする。投手陣が
よく抑え、バッターはヒットを連ね大きく得点した。このチームワークに胸を打たれる。
王監督の采配も冴え、打順の組み換え、選手の起用がことごとく当たった。野球は
監督、選手皆でやるものだなとつくづく思う。野球の楽しさをこんな大舞台で見せてくれ
た日本代表に感謝。

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2006.03.20

竹内栖鳳の花鳥画

336上村松園や小野竹喬が師事した画家が竹内栖鳳(せいほう)。近代日本画の革新者の一人で、東の大観、西の栖鳳と言われるくらい京都画壇では大きな存在だった。

その作品を結構見ているのだが、なぜか心底惚れるようないい絵に出会わなかった。で、これほどの大物画家なのに惹かれるものが無いというのは、画風が自分の好みと合わないのだなと思っていた。

が、これを覆す絵が目の前に現れた。それはMOAにある右の“翠竹野雀”(すいちく
やじゃく)。昨年の11月に続き、今回の“近代日本画展”(4/12まで)にも出ている。
栖鳳は雀をよく描き、“栖鳳雀”といわれて有名だったらしい。残念なことにこれまで
その雀に縁がなく、はじめてみたこの絵に大変魅了された。2本の竹を斜めに大き
く描く構図と右下の羽を広げる雀に惹きつけられる。飛び立つ瞬間の雀はこんな感じ
だ。吹き抜ける風に揺れる竹の笹にシンクロするかのように雀は羽を小刻みに動
かしている。背景を薄いグレーにし、墨をそそぐのと同じ描法により竹叢を淡い色調の
緑で軽妙に表現するところが気に入った。

過去、栖鳳の絵では、城跡や水辺を描いた墨画を度々見たが、どうもこのターナー風
の画風がしっくりこなかった。それは画面の中央にくる不定形の墨の面が強すぎる
から。このインパクトのある黒がじゃまな感じがするのである。ところが、これと同じ描き
方が“翠竹野雀”の竹叢にもみられるのに、緑だと気にならない。同じ描き方でも色に
よって印象が変ってくるのが面白い。なぜ、ターナーやロコーの表現を墨により日本の
風景に取り入れた作品が胸を打たなかったのか、この絵をみてわかった。

栖鳳のいい絵をもう1点発見した。大きな鯛を画面いっぱいに描いた“海幸”。鯛の肌
の赤が美しく輝き、新鮮な魚の光沢を青金泥を使い、巧みに表現している。栖鳳の描く
生物画からは匂いが感じられるといわれるが、まさに獲りたての鯛の匂いがする。
竹内栖鳳の作品に対する見方が変ったので、今回見たようないい絵にもっと会える
よう念じておこう。

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2006.03.19

WBC,日本決勝進出

335WBC,ワールド・ベースボール・クラシックで日本は韓国に6-0で快勝し、決勝に進出した。

7回、代打の福留が放った2ランホームランに、トリノオリンピックのフィギュアで荒川静香選手が金メダルを獲得したときと同じくらい感動した。

福留はアテネオリンピックのアジア予選でもいいところで目の覚めるようなホームランを打って、皆を喜ばせたが、今回
もあのとき以上に価値ある見事な一発を打ってくれた。福留の打撃センスとパワー
は前々から現在の左バッターでは松中、金本、岩村、高橋由伸とともにトップクラスと
思っていたが、それを全国の野球ファンにみせつけた。やはりいいバッターだ。

この一打がチームに勢いをつけ、里崎が二塁打を放ち3点目をとり、ベテランの宮本
が綺麗に三遊間ヒット、真打イチローがレフト前にタイムリーと続き、この回一挙に
5点を奪った。8回には前の打席でバントを失敗した多村が左中間の一番深いとこ
ろへソロホームランを打ち、試合を決定づけた。守っては先発の上原が韓国打線を
3安打に抑え込み、薮田、大塚も8、9回を0点に封じた。

一次、二次リーグで韓国に2敗し、選手たちは相当なプレッシャーを感じてたと思うが、
投打ががっちりかみあい韓国に雪辱してくれた。これほど嬉しいことはない。上原の
好投が打線に火をつけた。イチローとともにチームの柱である松中も7回、先頭打者で
二塁打を放ち、チャンスをつくった。韓国と投打の力を冷静に比較してみると、打線は
やはり日本の方が上。一番の青木からラストの川崎まで切れ目がない。イチローが
3番に入ったので、青木、西岡がヒットを打ち塁に出てもらいたかったが、そううまくは
いかない。西岡の鋭いライナーを三塁手に捕られる不運もあった。

守備では韓国のライトがまたまた小笠原のいい当たりを好捕する場面もあり、堅い守り
をみせていたが、日本も多村が元中日にいたイ・ジョンボムの大きなレフトのファール
フライをフェンス間際で捕った。ディフェンス面が互角であれば、勝負は打力で決まる。
日本は対韓国戦に限っていえばやっと本来の力がでたという感じである。

意図的な誤審を堂々とする審判がいたりで、国旗を掲げ、国歌を流すほどの国際大会
かと、?のつくWBCではあるが、韓国はメジャーリーガーを揃え、日本もイチローや
大塚が入るなど両国は現時点での最高の選手を集めて3戦も熱く戦った。いつもの年
より6ヶ月も早く野球の醍醐味を味わえる機会があったのは大変いいことではないだ
ろうか。韓国の人は2回いい気分になり、日本も運があり、おいしいところをいただいて
決勝戦に進んだ。

さて、キューバに勝てるか?松坂にまた頑張ってもらい、打線もイチロー、松中、福留、
多村、小笠原、西岡、里崎らが打ちまくることを期待するばかりだ。21日はまたTV
に釘付けになりそう。

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2006.03.18

MOAの速水御舟

334現在、MOAで開催中の“近代日本画と工芸展”(4/12まで)は収穫の多い展覧会だった。

昨年12月、ここが所蔵する近代日本画の質の高さに驚き、図録に掲載されてる残りの作品にもお目にかかりたいと願っていたら、これが意外と早くでてきた。

出品数18点のうち狩野芳崖、橋本雅邦、横山大観などの絵7点は再度の登場
だが、新規の作品に優品が多く、あらためて岡田コレクションのレベルの高さを思い
知った。まず、のどかな春の山村風景を描いた川合玉堂の“春色駘蕩”(しゅん
しょくたいとう)に唸ってしまった。構図のよさに加え、色使いが素晴らしい。とくに
中景に描かれたピンクの桜が鮮やかで、近景の左下から伸びる大きな松の濃い緑
とともに画面をひきしめている。

平福百穂(ひらふくひゃくすい)という画家の絵はこれまでいくつか観る機会があり、
画風自体に目は慣れているが、心拍数が上がるほど感動したという経験はなか
った。が、今回でていた“巌頭むら千鳥”には大変惹きつけられた。岩にとまった千鳥
がそこから飛び立ち、大空を舞う場面をシンプルに描いた襖絵なのだが、平福の
写生力がすごいのか、千鳥がまるで目の前にいるようで、飛ぶ直前の姿態、だん
だん上昇していく千鳥の体の動きが一羽々異なっている。雁や鶴が飛翔する絵では、
飛ぶ姿は様式化されて表現することが多いのに、ここにいる千鳥にはリアリティー
がある。この画家に対する認識を改めなければいけない。

また、速水御舟の2点にもぐぐっときた。“早春”と右の“八重の花”。“早春”は南画風
の絵。春らしく、柔らかい色調で、太い黒線で格子状に描かれた屋根と黄色の土壁、
そして前の畑にある草の緑がうまくとけあっている。“八重の花”は御舟のピュアな絵心
がそのままあらわれた名品。下はまだ蕾が多いが、上のほうはぽっちゃりした感じの
八重桜が美しく咲き誇っている。花びらの描写は実に緻密。これほど品格のある花
鳥画はそうない。何時間でも見ていたい絵である。この絵に会わせてくれたミューズ
に感謝。

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2006.03.17

東博地獄劇場 三幕

333東博地獄劇場の三幕は現在、本館2階の国宝室に展示してある“地獄草紙”(4/9まで)。

これをはじめてみたのは14年前なので、罪人が真っ赤な炎につつまれて苦しむ様子しか覚えていない。地獄絵というとすぐ、怖い獄卒の鬼が罪人を容赦なく責めたてる場面をイメージするが、この絵巻では鬼の残虐性が強く印象づけられるような画面構成にはなっていない。

四つの場面のうち鬼がでてくるのはひとつだけ。が、鬼はそんなに沢山でてこなく
ても、この地獄の様はおぞましく、恐ろしい。とくに最初の二画面はかなりグロテス
ク。“髪火流地獄”(はっかる)は剥落してる部分があり、注意してみないとこの
罪人は誰に何をされてるのかがわからない。裸の男の頭に食いついてるのは鷲で、
頭蓋から脳髄を吸い取っている。地塗りの墨にしたたり落ちる赤い血が痛々しい。
足も犬に食いちぎられ、地面に血がべっとり。この男が生前に犯した罪業は酒を
与えたこと。

隣の“火末虫地獄”(かまつちゅう)もあまり正視できない。画面中央に横たわる
男女の体は大きな血の斑点だらけ。体からわいた虫に食われ、苦しみ、もだえる
場面である。昔、酒に水をまして売ったのがいけなかった。画面いっぱいに燃え
上がる炎が目をひくのは“雲火霧地獄”(うんかむ)。炎の端に鬼が2人いて、罪人
を火の中に追い立てている。やがて、足から頭まですっかりとけてなくなるが、
火の中から罪人をひきあげると、再び生きかえる。この責め苦が10万年も続く。
どんな悪いことをしたのか?他人に酒をすすめて酔わせたうえ、からかったり、
ふざけたり、おもちゃにして笑いものにしたから。やはり連続したイジメは刑が加算
される。

右は最後にでてくる“雨炎火石地獄”(うえんかせき)。上半分は炎が吹き出す
焼け石が天から降り注ぎ、罪人を打ちのめすところ。これだけをみると浅間山の
大噴火か空から隕石が落ちてきた場面のよう。下の赤い部分は煮えたぎる金属
と血の入り混じった河。罪人はこの熱沸河(ねつふつが)でつねに泳ぎつづけ
なくてはいけない。ここにいる罪人は、酒でもって旅人を酔わせ、宝物を奪い、時
には命をもとったため、地獄に落とされた。

人々をすばらしい楽園である浄土に行かせるため(欣求浄土)には、汚くて恐ろ
しい穢土(えど)には行かないぞ(厭離穢土)ということを決心させるのが先。で、
地獄の恐怖、獄卒の非情さ、罪人の悲惨さを見せつける怖い地獄絵が描かれた。
一幕は(拙ブログ05/12/12)、二幕は(06/2/21)。

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2006.03.16

亜欧堂田善展の狩野一信

332府中市美術館は東京都現代美術館とともに現代アートのメッカと思っていたが、それだけでないことがわかった。

現在開催中の企画展は江戸時代の洋風画家、亜欧堂田善(あおうどうでんでん)の回顧展(4/16まで)。

司馬江漢なら名前を知っているし、洋風の銅版画を何点か観たことがある。だが、亜欧堂田善の作品はこれまで見た記憶がない。江漢より1歳下という。

知らない絵師の展覧会を見に行くのはかなりリスクがあるので、いつもなら足を運
ばないが、今回はちょっと事情が異なった。開幕する前に館のHPで出品作を眺め
ていて、とても気になる作品を発見した。もちろん亜欧堂の作品90点がメインの
売りではあるが、このほかに風景画や風俗画のなかに程度の差はあるが、洋風表現
を取り入れた絵師たちの絵が50点ばかりある。主催者には申し訳ないが、このサブ
の絵に是非見たいのがあり、ちょっと遠い府中まで出かけることになった。

その絵とは渡辺崋山作、“千山万水図”(重文)と今、東博でホットな絵、狩野一信
の“五百羅漢図”、そしてこれはオマケだが広重と国芳の浮世絵。“千山万水図”は
縦長の大きな着色山水画。S字を何回も書くように、山々、河、海が上に連なっていく。
俯瞰の視点なので雄大な空間表現は見ごたえあるが、画面下に大きな瀑布があり、
真ん中当たりに舟が行き交うのをみると、こんな光景は実際存在するのかな?と
頭の中が混乱する。何かの本に渡辺崋山の代表作としてこの絵がたしか載っていた。
思いもかけぬところで出会った。これは大収穫。

亜欧堂田善を横におき続けて悪いのだが、右の“五百羅漢図”をなんとしても目に
焼くつけたかった。これは増上寺が所蔵する大きな“五百羅漢図”の1幅で、“45幅
十二頭陀節食之分”(部分)。3/28~4/16にもう1幅、“50幅十二頭陀露地常座”が
展示される。なぜこれが、この展覧会にあるかというのは羅漢や童子の姿の描き方を
みればわかる。西洋画法の陰影が用いられている。手前で向かいあってる童子の
足元の影と童子の掲げる炎に照らされた赤い衣装のコントラストがすごい。東博のほう
に見られる陰影はこれほど強くはないので、異様な感じはそれほど伝わってこなかっ
たが、炎の影のなかにすっぽり入った大人のよう顔をした童子の視線がなんとも
不気味。

レンブラントやカラヴァッジョを彷彿させる光や影の描写が“五百羅漢図”で見られる
なんて夢にも思わなかった。狩野一信、恐るべし。

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2006.03.15

山種美術館の桜さくらサクラ展

331山種美術館の恒例企画展、“桜さくらサクラ展”(5/7まで)をみてきた。昨年はパスしたので2年ぶり。

今年は気が利いていてミニ図録があり、広くない会場にでていた45点の大半が載っている。最近では一番力が入った桜展である。

桜の絵では人気の高い、横山大観作、“夜桜”(大倉集古館蔵)は今はでてなく、4/28~5/7に展示されるようだ。
この絵はもう何回も見たので、4/27までみられる上村松篁が描いた花の扇面屏風、“日本の花”のほうが有難い。

今回は山種が所蔵する“桜”の名品がほとんどでている。千鳥ヶ淵に桜が咲き乱
れる頃、これをみたら感激は倍増するだろう。はじめてみる作品がいくつかあった。
そのなかで魅せられたのが稗田一穂の2点“惜春”と“朧春”。図録には“宵闇
に浮かぶ桜”として速水御舟の“春の宵”と一緒に掲載されている。共に幻想的な
桜だが、不思議な感じがするのが“朧春”。右上から斜めに下がるさくらの枝の先に
月がある。桜のむこうに描かれた山より下に月を配置する構図はみたことがない。

見慣れた絵でお気に入りは、東山魁夷の“春静”、加山又造の“夜桜”、小林古径
の“弥勒”と“清姫・入相桜”、そして奥村土牛の“吉野”と右の“醍醐”。加山の
“夜桜”の別ヴァージョンが現在、神戸大丸店で開催中の回顧展にでている。山種
が茅場町にあったころ、この絵に出会ったときの感動を今でもよく覚えている。
幻想的に映る夜の枝垂桜は琳派風の装飾的な表現にはうってつけの画題。金泥と
墨を混ぜ、噴霧器で処理した金地に桜の三角形のフォルムが浮かび上がってみ
える。神戸のときのようにだんだん興奮してきた。

この桜展を2年ぶりに観ようと思ったのは奥村土牛の“醍醐”をまた観たくなったから。
12月、東山魁夷の“年暮る”をみて、心が和むように、春になると、明るくて優雅
さに充ちているこの絵と会い、日本の春の美しさに浸りたくなる。うすピンクの桜の
花が大きく開き、地面に散った花びらは白の胡粉で点々と紋様のように描かれて
いる。写実を離れ、装飾的、象徴的に表現する日本画の本領がこれほど発揮された
絵はない。近代日本画を代表する傑作である。

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2006.03.14

大山崎山荘美術館のモネ

330開館10周年を記念し、所蔵名品展を開催している大山崎山荘美術館を再訪した。

特別展なので館自慢の名品が目一杯でている。出品作約150点のなかのお目当てはモネの睡蓮と民芸派作家の陶器。

河井寛次郎、濱田庄司、バーナード・リーチの陶芸品では濱田は前回ここで沢山みたので、河井とリーチに注目してみた。
噂に違わぬ優品がいくつもある。河井の赤、緑、黒の三色の取り合わせが美しい
“三色打薬手壷”にまたまた心揺さぶられる。そして、リーチの大皿6点が圧巻。
とりわけ、躍動感溢れるペリカンとグリフィンを見込みいっぱいに描いたガレナ釉の
スリップ筒描きの大皿2点に感動した。リーチの作品は大原美術館、日本民藝館、
京近美、東近美、そしてここのを見たので、代表作はほぼ目に中に入った。

本館をぐるっとみて、新館・地中の宝石箱へ急いだ。前回飾ってなかった睡蓮を
含めてここが所蔵するモネ8点全部がでているのだ。入り口のところにあるのは
1907年に描かれた第2期(1903~1908)の“睡蓮”。階段を下りるとこれより
大画面の睡蓮が4点ある。いずれも1914~1917年に制作されたもので、睡蓮
シリーズ第3期(1914~1926)の作品。

睡蓮を過去かなり沢山みてきたが、この4点はどれもすばらしい。はじめてみた
右の黄色の睡蓮は隣にある紫と薄ピンクの睡蓮(拙ブログ05/10/26)に負けて
いない。黄色の睡蓮で一番気に入っているマルモッタン美術館所蔵の絵(1917
~1919)を上回ることはないが、光輝く黄色の花が実に美しい。MOAにある
黄色一色の睡蓮(1917、拙ブログ05/3/8)とは優劣つけがたい。これはもう
好みの問題。どちらも名画であることはまちがいない。

第3期でも1914~1919あたりまでの睡蓮が形態の崩れもなく、色が鮮やかな
ため、連作の中では相当グッとくる。この頃描かれた名作はどうやらマルモッタン
美術館、ここ、MOA、国立西洋美術館に集まってる気がする。MOA、国立西洋美は
1点しかないのに、ここは4点。すごいコレクションである。日本には、このほか光の
微妙な変化を柔らかい色調で表現し、多くの人の心をとらえた第2期の睡蓮が大原、
ブリジストン、ポーラ、泉、川村美術館にある。

最近、モネ展がないが、ここの睡蓮をみて、モネの絵が無性にみたくなった。どこか
また開いてくれないかなあ。

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2006.03.13

尾形光琳の太公望図屏風

329京博は東博とともに日本美術の殿堂。で、絵画の平常展を定点チェックしている。

琳派狂いの思いが通じたのか、長年追っかけていた尾形光琳の“太公望図屏風”(重文)が今、平常展にでている(3/26まで)。今回、神戸・京都に出かけたのは加山又造の絵とこの太公望図を見るため。

中国、周代の賢人、太公望(呂尚・りょしょうともいう)が渭水(いすい)に釣り糸を垂
れて瞑想している姿はしばしば画題に取り上げられる。太公望の眠ってるようにも笑っ
てるようにもみえる表情がとてもユーモラス。映像では見えにくいが、着物のえりと
頭のてっぺんの髪は濃い群青。苔がはえてる土坡(どは、小高く盛り上がった地面)の
緑と水流が暗い色調なのに対し、後ろの崖はきらびやかな金。金が決してけばけば
しく見えないところに光琳の卓越したデザインセンスがみてとれる。また、太公望の
へそのあたりに土坡や崖、水際の線を集め、中央に向かう動きをつくる構成も巧み。

“太公望図”を観たので、国内にある琳派の代表作はほとんど済みになった。長いこと
かかったがこれで一休みできる。あとは、残りの1点、光琳作、“紅白躑躅図”(つつじ、
重文、畠山記念館)を気長に待っておればいい。琳派は人気が高いので、いずれ
出品されるであろう。琳派関連の展覧会をいくつか。
★“国宝 関屋澪標図屏風と琳派展”(4/8~5/14、静嘉堂文庫
★“若冲と琳派展”(7/4~8/27、東博)
★“国宝 風神雷神図屏風展”(9/9~10/1、出光美術館)

俵屋宗達作、“源氏物語関屋澪標図屏風”は03年10月以来の公開。これまでみた
屏風の中で感激度NO1は風俗画の傑作“松浦屏風”(国宝、大和文華館)とこの
“関屋澪標図屏風”(拙ブログ05/9/14)。とにかく色彩が鮮やか。また会えるので
ワクワクしている。出光の展覧会では宗達、光琳、抱一が描いた“風神雷神図”
が一堂に展示されるらしい。個々には観ているが、いつか3点一緒に見せてくれな
いかなと願っていたが、それが60数年ぶりに出光で実現する。さぞや見ごたえが
あるだろう。

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2006.03.12

小野竹喬展

328神戸のJR元町駅から4番目くらいの住吉駅で降り、近くにある香雪美術館をめざした。ここで今、“小野竹喬展”を開催している(4/23まで)。

この美術館は5,6年前一度訪れたことがある。が、道順はよく覚えてない。館の中に入って、少し思い出した。

風景画家、小野竹喬の絵とは広島にいたころ、岡山県笠岡市にある竹喬美術館で出会い、その鮮やかな色彩に魅せられ、
以後この画家の大ファンになった。笠岡は小野竹喬が生まれたところ。

1999年、ここであった回顧展の感激が大きく、日本画鑑賞ではエポック的な展覧
会として強く記憶に残っているが、そのときでた作品と香雪美術館で再度対面
することになった。本画13点、習作・スケッチ9点のなかにははじめてみる絵が出
てきたような気がするので、記憶が曖昧だが、当時は展示替えで一部の作品は
笠岡にこなかったのかもしれない。

1点々みていくうちに、竹喬のあの心地よい、穏やかな画風に胸が昂まってきた。
セザンヌやゴーギャンらの影響をうけて、その画面構成を自分の絵の中にとりこんだ
初期の作品“春耕”(竹喬美)や“村道”(京近美)に魅せられる。“春耕”が縦165
cm×横160cmの大きな絵であることをすっかり忘れていた。“村道”にはよく会う。
昨年はMOAにもやってきた。空や家の朱色と緑の草花が印象深い。真ん中の石
ころが沢山転がってる道を若い娘がこちらにむかって歩き、その後ろには背中に赤ん
坊を背負った母親が反対の方向へ足を進めている。静かな村の光景がそのまま
伝わってくる。

同じ風景画でも小野竹喬と東山魁夷や奥田元宋の絵では受ける印象がまるっきり
ちがう。東山や奥田の場合、色数は青や赤など数色なのにたいし、小野竹喬は沢山
の色を使う。が、その色は対象物の持ってる色をそのまま写してるわけではない。
自然を見て竹喬が心に感じる色を装飾的に彩色している。カラリスト、小野竹喬の
色使いにはいつも参る。とにかくすっきり、美しい。

今回出ているのでは秋の夕暮れを描いた“夕雲”と右の“一本の木”の色彩感覚に
見蕩れてしまう。“一本の木”では、薄青の空を背景に四方に枝を張りながら、しなや
かに、まっすぐ天に伸びる木を画面いっぱいに描いている。余計なものがなく、簡潔
明瞭な造形表現はとても新鮮。そして、木の鮮やかな黄色と空の青、そして、ピンクが
かった白い雲の組み合わせがなんとも心地よい。小野竹喬の作品はいつ観ても大き
な満足が得られる。

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2006.03.11

加山又造展

327加山又造の絵をみるため神戸まで行ってきた。現在、大丸神戸店で加山又造の回顧展が開かれている(3/20まで)。

加山又造が亡くなったのが04年だから、今年は三回忌にあたる。今回は版画を含めて90点くらいが出ている。日本画では好きな画家のひとりだが、どういうわけかこれまで回顧展に縁がなかった。04年に東近美であったミニ回顧展を見た程度だったが、これで加山又造の
画業の全容に接することができた。

手元にある画集に載ってる代表作のいくつかが展示されてたので天にも昇る気持ち。次から次とでてくる琳派風の装飾的な屏風や晩年に取り組んだ水墨画の名品に
感動の連続だった。加山の作域は広い。初期の狼や鴉などを描いたもの、大和絵
や琳派の画題を現在的に表現した華麗な屏風、桜や牡丹、鶴などの花鳥画、
雪山シリーズ、裸婦図、水墨画、版画と多岐にわたっている。大きな屏風を手がける
一方で、職人気質がでたような細かな線描の版画を制作する。若い頃から繊細な
描写はお手のもの。イタリア未来派の画風を彷彿させる“狼”では、狼の歯、背中の
毛が実に繊細に描かれている。

加山の絵で最も魅了されるのが意匠を様式化し、日本の美を象徴的に表現した
花鳥風月の屏風絵。その極めつきが3点ある。代表作、“千羽鶴”の小型版、扇面
散らしの屏風、“華扇屏風”、そして右の“雪月花”。“華扇屏風”の優美さといったら
ない。まさに装飾料紙の最高傑作である“本願寺本三十六人家集”の現代版で
ある。

金剛寺にある“日月山水図屏風”(重文)に霊感を受けて、現代に蘇らせたのが
“雪月花”。すばらしい傑作で、惚れ惚れする。トポロジー的な波文は実に滑らかで
立体感がある。左には深い緑の丸い山が3つあり、手前の2つに桜が咲き乱れる。
右の雪山もそうだが、手前が小さく、遠くにある山が大きく描かれている。これは視点
を意識せず、自由に空間を捉える日本画のよさを存分に発揮した描き方。東近美に
もこれと似たような名品、“春秋波濤”がある。現在の琳派といわれる加山又造が
創り出す華麗なる美の世界を200%堪能した。

なお、この展覧会はこの後、次の会場を巡回する。
★名古屋松坂屋:3/25~4/11 
★水野美術館:4/15~5/14 
★富山県立水墨美術館:5/19~6/25

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2006.03.10

川端龍子の美人画

326川端龍子の大きな絵を見るのが近代日本画鑑賞のひとつの楽しみになっている。

五浦美術館で名作と会って間がないが、大田区にある龍子記念館に出かけ、風景画の数々を見てきた(会期は4/21まで)。

例によって出品数は21点と多くない。今回のテーマは風景画。川端龍子は全国を方々旅している。絵を描くための写生
旅行である。四国遍路、西国三十三ヶ所、富士山の登頂、東北の奥の細道、京都、
奈良など。。お気に入りの作品をあげると。

構図がとてもいい、墨の濃淡で描かれた“長谷寺”。寺全体を暗めの青と黒で仕上げ
た“清水寺”。濃い緑、赤、黄だけで松島の情景を描いた“朝陽松島”は濃密な印象
を与える表現主義的な絵で、この画家が洋画から出発したことを思い起こさせる。
下の川に小舟が行き交い、その上を一羽の白いカモメを飛ぶ“千住大橋”も味わい
深い。橋の真ん中で立ち止まっている人物のように、川の流れをずっと見ていたい
気持ちになる。

龍子が得意とする大作は“寝釈迦”、“涼露品”(りょうろぼん)、“茸狩図”の3点。
伊豆の修繕寺には遠くに富士山が見え、釈迦が寝ているように見える場所があり、
その風景を描いたのが“寝釈迦”。富士山や手前の山には一部金泥が使われて
おり、男性的な力強さと横の広がりが充分に感じられる絵である。

右の“茸狩図”は龍子の本来の画風からはちょっとはずれた美人画。裸婦図は2,3点
あるが、女性の着物姿を描いた絵はほかにない。茸狩というのもおもしろい場面設定。
これは現代の風俗画である。左の腰をかがめて茸を探してる女性がしめてる帯の赤
と籠を右手にもちこちらを向いて立ってる女性の着物の青がなんとも鮮やか。普段見慣
れてる絵とはちがう、美しい絵に出会い、清々しい気持ちになった。

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2006.03.08

黄金の分銅

325日本橋三越の裏側にある日本銀行金融研究所 貨幣博物館では、3/12まで黄金の金塊、“分銅金”を公開している(入場無料)。

昨年末にこの展示を知り、いつか時間をつくって足を運ぼうと思っていたが、会期の終了間際までひっぱってしまった。金塊を見る機会なんて滅多にない。昨年、観光で佐渡金山へ行ったとき、資料館に大きな金の延べ棒があった。

戦さや非常時の備蓄用として定量の分銅の形に鋳造された黄金の金塊を“分銅
金”と呼ぶ。小型の“小分銅”と大型の“大分銅”と2種類ある。“大分銅”の実物は
現存していない。今回出ているのは日銀が所蔵する4種類の“小分銅”。重さは
375g(=缶ジュース1本)。金の品位は95%で、慶長大判(68%)、慶長小判
(84%)などと較べてかなり高く、純金の品位に近い。大きさは縦4.7cm/横
3.6cm/厚さ1.8cm。この小分銅は尾張徳川家に伝来したもので、徳川家康の
遺産の一つとみられている。依頼者や製作者を示す史料や文献はまだ確認され
てないので、正確なことはわからないらしい。

右は“桐”の極印があるもの。4つのなかでは一番模様が華やか。唯一枠のない
極印が表、裏の両面に打たれている。細やかな菊花の地紋が見事。ほかは布目
の地紋が2つあり、極印は“吉”と“亀甲桐”。夫々○と亀甲形で囲まれてる。
“定”に○の極印があるのは石目を残したままで地紋がない。所蔵数は①吉
(154点) ②定(86点) ③桐(40点) ④亀甲桐(20点) 小分銅は手作りなの
で、極印や地紋の打ち方などにひとつ々特徴がある。例えば、菊花の地紋が密に
打たれたものとゆったり打たれたものとか、厚みのあるものと薄型のものとか。

“小分銅”に関する史料は少ないが、“大分銅”(重さ165㎏=オートバイ1台)の
ものは比較的多く残されてるようだ。それによると、
★豊臣秀吉の大分銅ー1591年と1597年の2回、金の大分銅をつくらせる 
★徳川家康の大分銅ー1604年、銀の大分銅 
★江戸幕府の大分銅ー1659年、1793年、1842年の3回、金銀の大分銅 

徳川家康の遺産を整理した史料によると、遺産には1箱100個入の金の“小分銅”
が41箱含まれてたという。全部で4100個!そのほんの一部が目の前にあった。

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2006.03.07

仙厓の老人六歌仙画賛

324出光美術館に行くとよく仙厓(せんがい)の戯画に出会う。今、開催中の“風俗画にみる日本の暮らし展”(4/23まで)にも5点でている。

この展覧会では絵に描かれた人々の暮らしが“日々の営み”、“労働”、“病・老いと死”、“歌舞伎・遊び”の切り口でグルーピングされる。仙厓の絵が展示されてるのは“病・老いと死”のコーナー。

中でも目を惹くのが右の“老人六歌仙画賛”と“頭骨画賛”。仙厓独自のユニーク
な人物表現に100%魅せられてるわけではない。逆に顔の形や横に伸びた髪など
は変な描き方だなと思う方が多い。そんななかで、この2点は頭から消えない。
“頭骨画賛”にはドキッとする。薄い墨でさらさらと描かれた髑髏の目と鼻から草が出
ている。これとは対照的に“老人六歌仙画賛”は肩の力が抜て、安らぎを覚える絵。

真ん中で杖をついてる老人の笑顔がすばらしい。天真爛漫ともいえる超ピュアな笑い。
背中が曲がるくらいの歳になったとき、こんな楽しげな笑いをつくれるかどうか自信
がない。その隣にいる眼鏡をかけた男の表情もほほえましい。この絵を見ていて、
ふと目の前を先般見たクレーの“おませな天使”がよぎった。2つの絵には相通じる
優しさがある。

これは老人の集まりを在原業平など平安時代の六歌仙に見立てた絵で、人物の上
に仙厓のつくった歌がある。これがまさに核心をついている。
 しわがよる ほくろが出来る 
 腰が曲がる 頭がはげる ひげ白くなる 
 手は震え 足はよろつく 
 歯は抜ける 耳は聞こえず 
 目はうとくなる 
 身に添うは 頭巾襟巻 
 杖 眼鏡 たんぽ(湯たんぽ) 
 おんじゃく(カイロ) しゅびん(尿瓶) 孫の手
 聞きたがる 死にともながる 
 淋しがる 心がひがむ 欲深くなる 
 くどくなる 気短かになる 
 愚痴になる  
 出しゃばりたがる 
 世話焼きたがる 
 またしても 同じ話に 子を誉める 
 達者自慢に
 人は嫌がる 

仙厓(1750~1837)は江戸後期に活躍した臨済宗の禅僧。葛飾北斎(1760
~1849)とだいたい同じ時代を生きている。生まれは美濃の国だが、諸国行脚の
末、40歳で博多の古刹、聖福寺の住職になる。出光美術館に仙厓の絵が多く
あるのは出光の創業者、出光佐三が福岡県の出身ということも関係している。
仙厓が書画を描くのは62歳で法席を退いて以降のことで、禅の境地をわかりやす
く説き示したそのユーモアに富んだ戯画は人々に広く愛された。日本画で笑いに
これほど力のある絵はほかにみたことがない。

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2006.03.06

出光美術館の風俗画展

323日本の古い歴史を理解するのに絵画が貴重な情報媒体であることを再認識させてくれるのが4日から出光美術館ではじまった“風俗画展”(4/23まで)。

この美術館では一度、菱川師宣やその弟子が描いた肉筆浮世絵をみたことはあるが、所蔵の風俗画に接するのははじめて。

桃山時代から江戸初期にかけて制作された“洛中洛外図”やこのなかに出てくる
女歌舞伎、踊りなどだけを単独に描いたものを総称して風俗画と呼んでいる。この
あと、菱川師宣の“見返り美人”、浮世絵版画へと続いていく。京都・江戸の都市
景観、商売の様子、そして踊り、遊興を楽しむ人々の当世風俗が活写された風俗画
をみる楽しさを一度味わってしまうと、その魅力から逃れられなくなる。が、これを
観る機会があまりないので、目が慣れるにはすこし時間がかかる。

日本画における人気ジャンル、絵巻は絵画で物語を楽しむものだが、風俗画の
魅力は、描かれている場面の臨場感と艶っぽさ。熱気溢れる寺社の祭礼行事、狂っ
たように男女が舞う風流踊り、阿国や遊女が演じる歌舞伎に見入る観客、遊里と
いう“悪所”の情景など一つ々のワンショットが実に面白い。今回の作品でこれらが
味わえる。

狩野永徳風の“洛中洛外図扇面貼付屏風”、大和絵の“扇面風俗画”、踊りの
場面が出てくる“邸内遊楽図屏風”、出雲阿国が舞台の中心で踊っている“阿国歌
舞伎図屏風”、“遊女歌舞伎図”。風俗画は描く対象が広大な都市空間から邸内
情景、数人の群像表現へとだんだん絞り込まれてくる。菱川師平の“春秋遊楽図屏風”
は肉筆の浮世絵で、右の“桜下弾弦図屏風”は浮世絵の前の風俗群像図。

女性のふっくらとした顔にほんわかとなる。右手前に藤、画面全体に満開の桜を配
する構図がいい。女性が着ている小袖は桜と美しさを競うかのように色鮮やか。三味線
をひいてる女の柄は緑色の銅銭模様。立ってる女性はかぶき者ファッションには欠
かせない長煙管(キセル)を持っている。今年は風俗画を日本画鑑賞のターゲットに
しているが、出足は好調。

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2006.03.05

キルヒナーの山岳風景画

322アルプスの山岳風景を絵にしたのはスイス人画家だけではなかった。      

Bunkamuraの“スイス・スピリッツ展”にはイタリア、ミラノからアルプスにやってきたセガンティーニの名画とともにドイツ表現主義を代表する画家、キルヒナー(1880~1938)のいい絵が数点でている。

今年はキルヒナーと縁がある。現在、森美術館で開かれてる“東京ーベルリン展”(5/7まで)にキルヒナーがベルリンにいた頃描いた絵が4,5点あった(拙ブログ06/2/2)。だが、今回展示されてる絵ではベルリン時代の暗さや陰鬱さは影をひそめ、大胆な筆触と青、紫、、緑、ピンクなどのどぎつい色彩でアルプスの山々を表現している。

右はとくに気に入った“ヴィーゼン近くの橋”。この絵と“ゼルティッヒ渓谷”、“深山
荘前のエルナと私”は同じ調子の絵で、いずれも明るい純色を使った色面構成に
魅了される。“ヴィーゼン近くの橋”では山の頂上に向かう太い紫色の線が何本
も描かれている。紫の色がでてくる絵はあまりみない。紫は好きな色なので、とても
気分がいい。山肌に林立する樹木のぎざぎざはベルリンの町にたつ建物の鋭角的
な形態表現と似ているが、重々しい感じではなく、紫や画面一杯の明るい緑から
は自然の息吹といったものが感じられる。

1914年に勃発した第一次世界大戦に砲兵として従軍するも、繊細な神経の
持ち主のキルヒナーは軍務に適応出来ず、すぐに除隊となった。これでキルヒナー
は精神的に相当参ってしまう。で、1917年、療養のため、スイスのダヴォスに
移り住んだ。キルヒナーがスイスで制作した山岳風景画はスイス人画家にも影響
を与え、師弟関係にあったシェーラーの“風景の中の3人”などスイス表現主義の
作品が同じコーナーに飾ってある。どれも赤、青、黄、緑などの原色で山や野原
の風景が平面的に荒々しく表現されてるので、誰の絵か区別がつかないが、その
躍動感あふれる画風には強く惹きつけられる。

ドイツからやってきてアルプスの風景画に大きな足跡を残したキルヒナーはナチス
に退廃芸術の烙印を押されたことが致命的な打撃となり、その1年後の1938年、
ピストルで自らの命を絶つ。

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2006.03.04

セガンティーニのアルプスの真昼

321Bunkamuraでセガンティーニの名作、“アルプスの真昼”に会ってきた。

今日からはじまった“スイス・スピリッツ展”(4/9まで)の情報を得たときから、この絵を観るのを楽しみにしてきた。過去、セガンティーニ(1858~1899)の作品を見た経験は極めて少ない。指を折っても片手くらい。

サン・モリッツにあるセガンティーニ美術館にいくと、この画家の画業がつかめる
はずだが、そこに飾ってある代表作の一つが日本にやってきた。なんという幸せであ
ろう。図録でイメージしていた通りの名画。大原美術館にこの絵の1年後に描かれた
同名の絵があるが、二つを較べると最初に描かれた右のほう(1891)がずっといい。

それは真ん中にいる羊飼いの女性のせい。光をさけるように帽子のつばを下げる
ポーズですっと立ってる姿がいい。まわりの草の緑はきらきらと輝き、右の手のひら
や衣装、そして地面にできる陰がアルプスの鮮やかな光をよく表している。空の青と
雪が積もった山の白のすばらしいコントラストをみると、分割法というのがいかに
効果的な技法であったかがわかる。題名の通り、明るい真昼時の雰囲気が伝わっ
てくる絵である。

セダンティーニの作品はほかに2点ある。“アルプス風景”と“ふた組の母子”。
“ふた組の母子”はセガンティーニが制作の途中に亡くなったので同僚のジャコメッティ
(彫刻家ジャコメッティの父)が完成させた。この絵から小学校の頃みた磁石にくっつ
いた鉄粉の線を連想した。セガンティーニに関する記事は拙ブログ05/11/2

この展覧会で期待してたもう一人の画家は象徴派のホドラー(1853~1918)。
人物画とともに、ホドラーが得意だったのがアルプス風景画。今回5点でている。“ホイ
ンシュトリッヒから見たニーセン山”はぐっときたがほかはアベレージだった。96年、
この美術館であった“象徴派展”でみた“トゥーン湖”や“ダン・デュ・ミディ山”のような
色使いや構成を期待したが、残念ながら今回の絵はぱっとしなかった。が、“アルプス
の真昼”に満足度200%なので、全然気にならない。

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2006.03.03

ベルナール・ビュフェ石版画展

320現在、ホテルニューオータニにある美術館ではベルナール・ビュフェの石版画(リトグラフ)を展示している(3/19まで)。

ビュフェの絵に惹かれるきっかけとなったのがちょうど1年くらい前ここに飾られてた2枚の絵。縁結びをしてくれたニューオータニ美術館がほかにどんな絵を見せてくれるのだろうかと興味深々で入館した。

過去何回か所蔵するビュフェのリトグラフを展示したそうだが、今回は寄託を受けて
る作品とあわせ5シリーズ89点がでている。ビュフェ(1928~1999)はリトグラフ
を1952年から制作するが、出品作を時代順にみると“ニューヨーク”(1964、
10点)、“モン・シルク(私のサーカス)”(1968、44点)、“女の遊び”(1970、
10点)、“カルメン”(1981、15点)、“ドン・キホーテ”(1989、10点)。

数が一番多い“モン・シルク”と“ドン・キホーテ”が目を楽しませてくれた。“私のサー
カス”では明るい色調で、軽妙に表現された道化師、軽業師がいろいろな姿で登場
する。なかでも黒の力強い輪郭線と明るい黄色や緑で彩色されたピエロの顔が
印象深い。ピエロはビュフェが繰り返し描いたモティーフ。アクロバット的な演技や
化粧を塗りたくった道化師の顔をみてると、小さい頃見たサーカスの舞台を思い出す。
人間だけでなく学者と名づけられた犬もでてくる。また、横長の大きなカバがでてき
たのには驚いた。サーカス小屋にこんな動物いた?

10点ある“ドン・キホーテ”は観てて楽しい作品。右は“風車小屋”。セルバンテスの
小説で最も有名な、ドン・キホーテが風車を巨人と妄想し、愛馬ロシナンテに跨り、
突撃していく場面。後ろ足で垂直に立った馬から今にも落ちそうなドン・キホーテの
姿が中世騎士にあこがれた男の悲哀を伝えている。最初に描いた油彩“カルメン”
(1962)はパリコレクションのモードシルエットに影響を与えたといわれる。黒い線
だけで表現された衣装はカルメンの美しさと激しい性格にぴったり合っている。この
フォルムにファッション界がとびついた。リトグラフの扉絵になっている目の大きなカル
メンに魅せられる。

この展覧会をみて、拙ブログ05/7/28にも書いた静岡県長泉町にあるビュフェ美術
館を訪ねる計画を具体化させようという気になった。

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2006.03.02

五百羅漢図と白澤

319狩野一信が描いた“五百羅漢図”がみたくてまた、東博に出かけた。前回の記事は06/2/21

日本画をみてきた経験からすると、この絵が“国宝平治物語絵巻”のように2年に一回くらいの頻度で展示されることはまずない。次回の展示はだいぶ先になるだろう。だとすると、幸運な時のめぐり合わせを大事にしたい。

前回の鑑賞で五百羅漢図の構成と画題が頭に入ったので、2ラウンド目は細部にこだ
わってみた。奇怪で怖い地獄絵の前では、絵からでてくる強烈なパワーに圧倒され、
顔が画面から離れ気味になるが、心拍数が保てるほかの絵では面白い場面をいくつも
発見した。これも単眼鏡のおかげ。

日本画をみてると花や鳥の名前をよく覚えるようになる。自然の近くにいなくても、目の
前の花鳥画が心を和ましてくれるのは日本画のいいところかもしれない。この絵には
花や鳥よりは想像上のものも含めて生き物が沢山登場する。精緻に生き生きと描かれ
た動物が多く出てくるのは“神通”と“禽獣”。いくつかあげると。
・26幅:神通力で水があふれ、そこに亀、鰻がいる。魚は飛びはねたり、鳥や獣に食わ
     れてる。
・27幅:首吊りした女性がでてくる異様な絵だが、真ん中に甕がわれて、中からへびが
     出ている場面がある。
・30幅:上のほうに描かれた大蛇の口の中に座る羅漢にハットする。
・31幅:鹿は羅漢に耳そうじをしてもらっている。これは伝統的な図様らしい。左の大
     きな亀は存在感がある。
・32幅:下に虎、真ん中に鹿、上空には羅漢が乗った赤い鳥がいる。
・33幅:大きな孔雀と鷲に目を奪われるが、上のほうでこうもりが飛んでる場面を見落
     としがち。
・34幅:羅漢に手で頭をつかまれてる龍がユーモラス。その上にいる羅漢の手に白い
     蛙がぶら下がっている。
・35幅:中国の想像上の神獣、白澤(はくたく)がいる。

昔、日光東照宮で狩野探幽が描いた白澤をみた記憶があるが、こんなだったかは覚え
てない。よくみると面白い姿をしている。不思議なのが胴体にある3つの目と4本の角。
人面で髭を蓄えてるので、ここだけ見ると人間のよう。白澤は人語を解し、徳の高い
為政者の治世に現れるとされ、病魔よけになると信じられた。白澤の絵は厄よけにな
ると信仰され、江戸時代以降、道中のお守りとして身につけたり、病魔よけに枕元に
おいたりしたという。白澤に遭遇するとその家は繁栄すると言われてるらしい。わが家
もそう願いたい。

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2006.03.01

広重の東海道五十三次・四日市

317MOAの最後にある展示室が浮世絵ギャラりーに変っていた。スペースは前の5分の1くらい。展示は3/8まで。

今回だけの臨時的な措置か、恒久的な展示室か確認してないのでわからない。残りを別の展示に使うのかもしれない。ここが所蔵する浮世絵は版画、肉筆画ともに一級品だから、いつ訪問しても北斎や広重などの名品に会えるのなら申し分ない。今回は11点でていた。
318
美人画では鈴木春信、鳥居清長、喜多川歌麿が各1点ある。歌麿の“当時全盛美人揃 越前屋内唐土”は今、東博の平常展にでている同じものより、コンディションはいい。

風景画は北斎の“富嶽三十六景”2点と広重の“東海道五十三次”2点と豪華な組み合わせ。三十六景のトップスリーの1枚、“山下白雨”と大きな桶をつくってる職人の向こうに富士山が小さく描かれた“尾州不二見原”に対し、広重の五十三次は右の“四日市”と“三島”。

鳥居や家並、霧中の人物をシルエットで表現し、朝霧がたちこめる三島の宿の
様子を情趣豊かに描いた広重の絵心は見事というしかない。シルエットの傑作が
“三島”なら、風をとらえた名作が“四日市”。この絵をみると風がびゅーびゅー
吹いてるのがすぐわかる。右にいる旅人が纏ってる合羽は強烈な風で三角形に
なっている。左に描かれた管笠を風に飛ばされた男のあわてぶりが実にリアル。
柳の枝のしなり方からも風の強さが伝わってくる。

北斎の“富嶽三十六景”にも、旅人が風に笠や懐紙を吹き飛ばされた場面を描いた
“駿州江尻”といういい絵があるが、“四日市”の風をみて、条件反射的に連想する
のがこの絵の下にある“琴高・群仙”(部分、京博所蔵)。描いたのは東の雪舟
と呼ばれた雪村。鯉にまたがり空を飛ぶ仙人、琴高の衣装は前から受ける風
のため後ろになびいている。雪村にはほかにも“列子御風”(アルカンシェール美術
財団)や“呂洞賓”(大和文華館)という、風が吹きまくる絵がある。

風を描かせたら広重と雪村の右に出る者はいない。

■■■■■今年前半展覧会情報(拙ブログ1/1)の更新■■■■■
 ・下記の展覧会を追加。
 ★西洋美術
 3/25~5/7   青騎士の画家たち展  ニューオータニ美術館
 
 ★日本美術
 3/4~4/16   亜欧堂田善展      府中市美術館
 3/11~5/7   桜さくらサクラ展     山種美術館
 3/11~4/23  小野竹喬展       香雪美術館
 3/14~5/21  近代工芸の名品展   東近美・工芸館
 3/18~5/21  横山、竹内、川合展   野間記念館
 4/8~5/14   関屋澪標図と琳派展  静嘉堂文庫
 4/11~7/2   京焼の名工展      三井記念美術館

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