パウル・クレー展
開幕を待ち望んでいた“パウル・クレー展”(大丸東京駅店、2/28まで)を観た。
国内でクレーの展覧会を見るのは93年以来。その間、上野の森美術館などであったNYのMoMA展やパリのポンピドー・コレクション展にクレーの作品が必ず含まれてたので、クレーの絵はとびとびながらも楽しんできた。
クレーの絵にはまるきっかけをつくってくれたのが93年、愛知県美術館であった
大回顧展。この展覧会は名古屋、山口、東京で開かれた。このころ仕事の関係で
名古屋に住んでいたので、幸運にもクレーの代表作の大半を見ることができた。
クレーの遺作を所蔵しているクレー財団とクレー家から、代表作中の代表作、“パル
ナッソスへ”やクレーが亡くなった年に描かれた名作、“無題(静物)”などをごそっ
と持ってきたという感じだった。感激の連続で観終わった後、すごく疲れたのを
よく覚えている。
今回のクレー展にでている絵は昨年6月、クレーの生まれたスイス・ベルンにオープ
ンした“パウル・クレーセンター”から貸し出されたもの。そのため、93年に出品さ
れたものが多くある。ダブりはある程度予想していたが、はじめての作品もあるの
で満足度が落ちるということはない。クレーの若い頃から晩年までの画業が頭に
はいる展示構成になっており、そのバラエティーに富む作風をあれこれ味わうことが
出来る。
期待してたのは“パルナッソスへ”のような1930年頃からはじまった点描主義の
シリーズだったが、今回でてたのは右の“喪に服して”1点のみ。93年のときもこの絵
はあった。これは点描シリーズのなかではハットさせられる絵。モザイクのような色使
いで色面を構成し、その上にうつむき加減で喪に服する女性を一筆描きのように表し
ている。深い悲しみが伝わってくる。この絵はクレーが皮膚硬化症という難病にか
かった1935年の前年の作。
1935年から亡くなる1940年まで、難病のためクレーには死を見つめる日々が続く。
作風は一変し、繊細な線は消え、一見ミロの絵を彷彿させるような荒々しいものに
なる。その一方で、シンプルな線で描いた絵もある。1938,39年の作、“ボール乗
りに興じる子”、“聖歌隊の女性歌手”、“おませな天使”、“旧約聖書の天使”。自由
な描線が胸を打つ。久しぶりのクレー展を心地よく楽しんだ。
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コメント
クレーの線を見ているとなんだか色んなものが見えてくるような気がいつもしています。
近所の美術館に昔はクレーの作品をたくさんもっているところがあったのですが、どうもどこかに写ったらしいので最近あまり見ていません。
投稿: seedsbook | 2006.02.12 17:59
to seedsbookさん
クレーの絵は一口で言い表わせないですね。美しい絵だなと思うのは
格子の中を豊かな色彩感覚で彩色し、トポロジー的な曲面にみせた
ものとか、ポリフォニーを思わせる点描風の作品、“パルナッソスへ”など
ですが、一筆描きのようなシンプルで線で天使や女性の表情を巧みに表
した作品にも惹かれます。
ほかにも面白い絵がありますね。コラージュのような作品は別として、絵の
中に黒い矢印やBなどのようなアルファベットの大文字が出てくるのは
クレーの絵だけですね。これを最初に見たときはハットしました。デフォルメ
されたフォルムでなく記号で何かを象徴している絵はとても新鮮でした。
クレーの絵をみてるとseedsbookさんがおっしゃるようにイメージが色々ふく
らみます。絵についてる題名は絵を描き終えてから、観る者の目で考
えたそうですね。作品は完成すると画家の手を離れ、観る者と作品の
関係になるという現代美術のあり方を先取りしてる感じです。ネーミングと絵
の感じがよくあってるのにびっくりします。
投稿: いづつや | 2006.02.12 21:45
いづつやさん、こんばんは
ようやくクレー展の感想が書けましたので、TBさせていただきました。
こじんまりとしていましたが、じっくりと鑑賞する事ができました。
私は線と色が絶妙に絡み合った絵画「動物たちのいるところ」や線が見事に構築された「オルフェウスの園」が素敵だと思いました。
晩年の作品になるに従い、暗さや重さを引きずった絵画が多かったのですが、天使シリーズの線の単純さに心洗われる思いがしました。
それから、1993年のクレー回顧展は東京でもやってましたよ!(手元にBunkamuraで買ったカタログがあります!)
投稿: アイレ | 2006.02.21 00:12
to アイレさん
こんばんは。出展数は多くなかったですが、クレーの幅広い画風をコンパクト
につかめるいい展覧会でしたね。“動物たちのいるところ” では足をとめて、
描かれたフォルムから動物を考えてみました。右は象のなかに馬、
その上が猫ですかね?左はシマウマ?その上にいるのは猿?
最後のコーナーにあったシンプルな線で表現された人物が生き生きして
ますね。とくに“聖歌隊の女性歌手”に参りました。93年の大回顧展、
図録にはちゃんとBunkamuraもありました。見落としてまして、スイマセン。
投稿: いづつや | 2006.02.21 16:19
いづつやさん、こんにちは
度々お邪魔しています。
回顧展の件はちょっとこちらも恐縮しております。(言葉が過ぎたようで失礼しました。)
“聖歌隊の女性歌手”確かに…「のけぞりっ」といった印象を受けました。おそらく声量などの印象からあのような絵になったのでしょうね。
クレーの素直な印象を好ましく思いました。
投稿: アイレ | 2006.02.22 14:17
to アイレさん
間違いを指摘していただいて有難うございました。さっそく訂正しました。
恥ずかしい文章を消せて、感謝しております。“聖歌隊の女性歌手”は
アイレさんがおっしゃるように、のけぞる感じがすごくよくでてますね。足の開き方
がまた、いいです。これは93年のときでてませんでしたので、新鮮でした。
投稿: いづつや | 2006.02.22 16:08
こんばんは。
私も今回
「喪に服して」が一番印象に残りました。
見た瞬間心をつかむものあります。
投稿: Tak | 2006.02.23 22:01
to Takさん
今回は点描画の作品に期待したのですが、“喪に服して”1点でした。
特に惹きつけられたのがこれと“聖歌隊の女性歌手”です。
投稿: いづつや | 2006.02.23 23:15
僕も観てきました。
会場には今回の展示カタログと、1995にやはり大丸で開催されたカタログとニューオータニで開催されたカタログがおいてありましたがいづつやさんはどれをお求めになりましたか?
ほかの方も書かれていますが「喪に服して」が僕も一番印象に残りました。
大丸の次回は「パリを愛した芸術家」ですね、これまたよさそうですね。
投稿: oki | 2006.02.24 12:20
to okiさん
クレーの展覧会、93年以降も何回かあったようですね。鑑賞しなかった
展覧会の図録は基本的に購入しないことにしてますから、大丸やニュー
オータニのカタログはみてません。“喪に服して”の悲しそうな顔にズキン
ときました。クレーの具象表現は対象物の本質や人間の内面をよく
表してますね。うなってしまいます。
次回の“パリを愛した芸術家”もクリーンヒットを期待したいですね。
投稿: いづつや | 2006.02.24 13:58
いづつやさん☆こんにちは、rossaです。クレーは、ほんとに、いろいろな画風というかスタイルを研究なさった方なのですね。<理論と知性>があまりに格調高すぎて、rossaには、むずかしいのですが、オリジナリティ溢れる色彩の平面分割の知的な積み重ねよりもむしろ、とまどいの全くない<線>がとても印象的でした。TB&コメントありがとうございました。うれしいです☆
投稿: rossa | 2006.03.06 14:56
to rossaさん
クレーの絵はヴァラエティに富んでますね。幾何学模様の抽象画があり、
ユーモラスで子供が描いたような具象的な作品もあります。抽象画のほうは
色使いが巧みで、神秘的な美しさを感じます。見てて楽しいのは具象抽象画
のほうですね。今回でてたのでは“眼”とか“役者”が面白いですね。
このタイプのお気に入りはMoMAにある、“魚のまわりで”、“猫と鳥”、
“役者のマスク”です。とくに、“魚のまわりで”はクレーの絵描きとしての
才能がつまった傑作ではないかと思ってます。真ん中に魚を描き、そのまわ
りに円、三角、赤の矢印などを配する構成はかなり知的です。使われてる
黄色、青、赤の組み合わせが素晴らしく、見事な具象+抽象画になってます。
これをみるとクレーは天性のカラリストですね。この頭抜けた色彩感覚と、シン
プルな線で対象物の本質をずばっと表現する描写力にいつも魅了されます。
投稿: いづつや | 2006.03.06 16:52