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2006.01.29

バーク・コレクション展の曽我蕭白

287昨年7月からはじまったバーク・コレクション展がやっと東京にきた(東京都美術館、3/5まで)。

事前にみた展示品情報からすると質の高いコレクションというのは窺がえたが、入場してみると予想通りだった。アメリカの資産家で日本の美術品をこれほど幅広く集めてる人はいない。

縄文土器から屏風、やきもの、琳派、曽我蕭白、伊藤若冲まで、しかも質のいい
ものを所有しているのだからバーク夫人の眼力は相当高い。日本美術のコレク
ションとしては、個人ではバーク夫人と伊藤若冲のいい絵を沢山もっているプライ
ス氏が双璧。この展覧会を待ち望んでいたのは、チラシにも使われている曽我
蕭白の“石橋図”(しゃっきょうず)が出品されるから。長年追っかけていたが、やっ
と出会えた。

この絵は蕭白、最晩年の作。狂の画人、曽我蕭白の真骨頂である怪人のような
仙人や手や足の爪が異常に長く、唇がやけに赤い男や女が出てくる毒のある絵では
なく、見てて楽しくなる絵。気が遠くなるくらい高いところにかけられた石橋をめざして、
獅子の群れが重なり合うようにして、垂直に切立った崖を登っている。なぜ、危険をお
かして登るかというと、石橋のむこうに文殊菩薩が住む浄土があるから。

だが、ここに到達するのは大変。もうちょっとのところで、力尽きて深い谷底に転落
する獅子、そこまでいかなくて途中で脱落する獅子。この様子はストップモーションの
映像を見てるよう。“ああー落ちる。でも、ちょっと宇宙遊泳をしているような気分”
なんて能天気なことは口走らないだろうが、悲鳴が聞こえるようでもあり、バンジー
ジャンプの快感が伝わってくるような感じもする。真ん中で岩がせりだしてるところに
親獅子が谷底を見ているのは、獅子の子落としが掛けられているため。個々の獅子の
姿で面白いのは、一番下で岩にかろうじて足をかけ、腹を上にみせてもがいてる獅子。
左右の岩に2頭いる。

この絵だけでも大満足なのに、伊藤若冲の“月下白梅図”や“双鶴図”までみせてく
れる。“月下白梅図”は若冲の超観察力と緻密なスーパーテクニックが生み出した
素晴らしい絵。地や幹の渋い茶色に、白梅の白と赤、そして咲いた花の黄色い点々
が美しく映える。幹は複雑に折れ曲がり、白梅が無数にあるため一見粗々しく、ビジー
に見えるが、絵の前に暫く立っていると、静寂で幻想的な世界に惹きこまれそうな気
がしてくる。チラシではこの感じはつかめない。本物に最接近して観るのがいい。主催
者はこのことがわかっているのか、拡大図版を図録の表裏紙に使っている。

蕭白、若冲のほかにも、雪村の“山水図”、狩野探幽の“笛吹地蔵図”、英一蝶の
“雨宿り風俗図屏風”、池大雅の“蘭亭曲水・秋社図屏風”などに感動した。満足度
200%の展覧会であった。

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コメント

私も広島県立美術館でこの美術展を見ましたが、最初の展示が縄文土器と弥生土器で、いきなり度肝を抜かれました。特に朱色の弥生土器には強烈に惹き付けられました。仏像もひとつひとつ丁寧に見て回りました。伊藤若冲の“月下白梅図”の前では思わず息をのみました。曽我蕭白は、楽しい絵でした。本当に質の高いコレクション展で、入れ替えもあったのでできれば2回行きたかったのですが、1度しか行けなくて残念でした。

投稿: リセ | 2006.01.30 23:54

いづつやさん、こんばんは。
TB&コメントありがとうございます。
本当にバーク夫人の見識の高さ、日本美術に対する造詣の深さに脱帽です。
「石橋図」の石橋の先に浄土があるのですね。それで獅子たちが我先にあの断崖絶壁をかけ上がっていく…納得です。
なにやらコミックの擬音が似合うような絵ですが、とても味のある絵でした。
若冲の白梅の細やかさと鶴のデフォルメとは対照的ですが、この画家の画風の多様さと「見る目」の確かさを確認できたような気がしました。
また長沢蘆雪「月夜瀑布図」の夢幻もまた素晴らしかったです。

投稿: アイレ | 2006.01.31 03:01

バーク・コレクション展は
なかなかよさそうですね。。。みたいです。

投稿: seedsbook | 2006.01.31 15:41

to リセさん
お久しぶりです。やっとバークコレクションにお目にかかれました。江戸絵画
がとくにいいですね、琳派、探幽、応挙、芦雪、蕭白、若冲、蕪村、大雅、
一蝶とくればもういうことはありません。圧巻でした。

ユーモラスな絵、“石橋図”は蕭白の毒々しい作風からすると異色です。
こういう劇画のような絵もかけるのですから、作域が広いです。若冲の“
月下白梅図”も魅力一杯ですね。おびただしい数の白梅の花に目をみはりました。

投稿: いづつや | 2006.01.31 18:28

to アイレさん
長澤芦雪の“月夜瀑布図”はベルハルト・リヒターのフォト・ペインティング
みたいです。芦雪の奇抜な構図とこういう時代を先取りする表現には
ただただ感服するばかりです。

若冲も負けていませんね。観察力と想像力にかけては誰も敵わないで
しょう。そして、多才な腕もあります。“月下白梅図”の画題はオーソドック
スですが、画面の構成は現代感覚に合いますよね。凄い絵です。

投稿: いづつや | 2006.01.31 20:04

to seedsbookさん
この展覧会を見る前は目玉は曽我蕭白と伊藤若冲でほかはアベレージ
かなと思ってたのですが、ほかの絵もAクラスでした。バーク夫人の確かな
目のせいでいい美術品が海外に流失したことは間違いないです。

絵の場合、芦雪、蕭白、若冲のように伝統的な画風からハズれたシュール
な感覚とか、毒のあるものが好まれています。こんな絵は日本人コレク
ターの評価が低かったから、バーク夫人やプライス氏にごっそりもっていか
れました。彼らには凄く衝撃的だったのでしょうね。われわれはだいぶ遅れて
これらの魅力に気づいたという感じです。バークコレクションを堪能しました。

投稿: いづつや | 2006.01.31 20:30

僕も観て来ました、ブログには書いてないですがー。
案外すいてましたよね。
どうもこのコレクターは室町時代に関心があるみたいですね。
出光で観た三十六歌仙が狭いスペースに一堂に描かれている琳派の絵に再会できて感激ですー。

投稿: oki | 2006.01.31 23:03

to okiさん
室町時代の水墨画にいいのがありましたね。雪村と狩野元信に足が
止まりました。雪村の3点は02年にあった“雪村展”に出品されてます。
このうち、ユーモラスな踊りの“竹林七賢図”は楽しんだものの、
ほかは展示替えで観れず、残念な思いをしましが、今回リカバリーが
なりました。

当時図録で見て、いい絵だなと感心していた“山水図”に出会えて幸
せな気分です。構図の取り方に冴えをみせるこの絵はMy山水画に前か
ら入れてます。

琳派も名品が揃ってますね。池田孤邨の“三十六歌仙図屏風”は2度目
です。94年、名古屋であった琳派展に光琳や抱一が描いた三十六歌仙
図とともに飾られてました。バーク夫人自慢の一品だと思います。

投稿: いづつや | 2006.02.01 10:23

こんばんは。
蕭白のこの絵、辻先生もガバーク氏より先に
買おうとしていたそうです。150万円だったそうです。
結局買わずにバーク氏の元へ。
惜しいことしましたね。

TBさせていただきました。

投稿: Tak | 2006.02.09 21:42

to Takさん
日本では辻氏がいち早く蕭白や若冲らの奇想の絵師に目をつけ、本を
書いたり、美術関係者に彼らの絵の凄さをたきつけてこられましたから、
“石橋図”がアメリカに渡ったのは本当に残念な話ですね。

この絵は昨年京博であった曽我蕭白展に出てきませんでしたから、
今回お目にかかれて嬉しさもひとしおです。今は、蕭白の代表作を観終
わったという安堵感に浸ってます。

投稿: いづつや | 2006.02.09 22:55

いづつやさん、こんばんは。

蕭白、完全にノーマークでした。この展覧会で完全にノックアウトです。

>危険をおかして登るかというと、石橋のむこうに文殊菩薩が住む浄土

なるほどそう言うことだったのですか!
石橋の上にもう何もないだけに、
この獅子たちは一体どこへいくのだろうと思っていました。
謎が一つ解決です!

投稿: はろるど | 2006.02.13 22:36

to はろるどさん
日本画では狩野派の画風が本流で、曽我蕭白の絵は亜流として誰も見向
きもしなかったころ、フェノロサ、ビゲロー、フリーアらの米国人コレクターは
せっせと蕭白の絵を集めていました。かれらに続く、バーク夫人、プライス氏
も蕭白を所有してます。外国人には手に入れたくなる面白い絵だった
のでしょうね。

今、蕭白や若冲に関心が集まるのはその絵が観てる者の想像力をいろ
いろ膨らませてくれるからでしょう。昨年、京博で蕭白の大回顧展があり
ましたから、まとまった形で作品をみられるのはだいぶ先になりそうです。

投稿: いづつや | 2006.02.14 10:31

こんにちは 

遅ればせながらやっとこさ書き上げました。

面白い展覧会でした。
TBさせてもらいます。
(できないかもしれませんが)
近世風俗画、蕭白、若冲・・・好きなものを色々見れて嬉しかったです。

投稿: 遊行七恵 | 2006.02.27 12:41

to 遊行七恵さん
この展覧会で感激度がとくに高かったのは“平治物語断簡”、雪村・
“山水図”、“色絵南瓜文大皿”、探幽・“笛吹地蔵図”、蕭白・“石橋図”、
若冲・“月下白梅図”、池大雅・“蘭亭曲水”です。

これまで似たような絵にお目にかかったことがない、新鮮さという点では
“笛吹地蔵図”、“石橋図”、“蘭亭曲水”が大収穫でした。

投稿: いづつや | 2006.02.27 14:09

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