佐竹本三十六歌仙絵
出光美術館では現在、注目の“歌仙の饗宴展”が行われている(2/12まで)。なぜ関心が高いかというと、知る人ぞ知る王朝絵巻の傑作、佐竹本三十六歌仙絵が出品されてるから。
三十六歌仙の内、9点が集まることだけでも凄いこと。2点(個人蔵)ははじめての展覧会出品で、最も人気の高い“斎宮女御”は十余年ぶりの公開という。
この歌仙絵はもとは2巻の絵巻であったが、大正8年((1919)に切断され、断簡
の形になった。その多くは個人が所蔵し、茶席の掛物として、茶人たちの目を楽しま
せている。この36点の歌仙絵には高額ゆえ(億以上)、所有者が何回も変わると
いう流転のドラマがある。一つ々の絵にまつわる秘話だけでも一冊の本になる。
今回でている歌仙は柿本人麿、斎宮女御(さいぐうのにょうご)、小大君(こだいのき
み)、藤原興風(おきかぜ)、紀友則、僧正遍昭、大中臣頼基(おおなかとみのより
もと)、藤原元真(もとざね)、壬生忠見(みぶのただみ)。和歌は日本の伝統文化な
ので、専門家でない我々でも、藤原公任が選んだ三十六歌仙は有名な歌人なら名前
を言われれば、思い出す。ここには出てないが、小野小町、伊勢、在原業平、紀貫
之、山部赤人らの絵もあるハズ。
絵巻を分断する前につくった模本があるので、どんな肖像画になってるかはこれを載
せた画集をみればわかると思うが、残念ながら目にしたことはない。個人蔵が多く、
現在の所有者が誰であるのか掴めてないこともあり、三十六点が一堂に会することは
まずない。だから、ほとんど人の目にふれられることのない幻の名画であり続けるこ
とだろう。9点を見られる機会にめぐり会っただけでも幸せ者と思わなければならない。
もし興味があればであるが。
佐竹本三十六歌仙絵が制作されたのは、鎌倉時代、13世紀中頃。国宝の源氏物語
絵巻が描かれて150年くらい後である。現存する歌仙絵では最も古い。女性像が5点
で、残りが男性像。三十六歌仙を切断したとき、皆が欲しがったのがお姫さま。一番
高かったのが斎宮女御で、今のお金にして4~5億、その次が小野小町だったという。
男ものは大体その半分の値段。不人気は2点ある僧正遍昭と素性法師。総額は40億
円を超える空前の価格だったと伝えられている。
前期に出品されてる歌仙でもやはり、十二単の色が鮮やかに残ってる右の“小大君”
に目がいく。単眼鏡も使ってじっくりみた。うつむき加減の顔で、目には表情がある。
引目鉤鼻(ひきめかぎはな)の技法で描かれた源氏物語絵巻に登場する女性から、
鎌倉のリアリズムを反映し、すこし個性的な顔立ちになっている。これは男の歌人にも
いえ、リアルな目や鼻、口、髭の描き方により、男前ぶりや内面の性格が読み取れる。
なかなか観れない佐竹本三十六歌仙絵を鑑賞できた喜びに浸っている。後期にでて
くる一番人気の斎宮女御の展示に胸が高まる。
展示期間が前期(1/7~29)、後期1/31~2/12)だけというのがあるので、もし
訪問を計画されてる方があれば、これを頭に入れられたほうがいい。
通期の展示は、柿本人麿、僧正遍昭、大中臣頼基、壬生忠見、藤原元真(但し、前期
は1/7~22)。前期だけー小大君、藤原興風。後期だけー斎宮女御、紀友則。
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コメント
いづつや様
こんにちは。拙ブログへのコメント&TBありがとうございました。
佐竹本三十六歌仙絵ですが、鑑賞した後にその複雑な過去を知り、とても複雑な心境です。ですが一部ではあっても9点もの作品がこの機会に見れるのは嬉しいことですね。調べたところ美術館に収められている絵は12点。出光のこの展覧会に出ていない絵もあるので、今後機会を見つけて見ていきたいと思います。
斎宮女御はこの歌仙絵では背景等がしっかり描かれているものですね。後期の展示が楽しみです。
またリンクの件、ありがとうございます。拙ブログからも張らせてください。
では、これからもよろしくお願いします。
投稿: アイレ | 2006.01.20 12:53
to アイルさん
佐竹本三十六歌仙絵で、大正8年のときから所有者が変ってないのは
住友家が購入した“源信明”だけらしいですね。歌仙絵が売りに出され
るという噂がでると、その争奪戦は凄かったでしょうね。
この絵を手に入れるのが茶人たちの夢だったといいますから、大きな金
(億単位)が動いたことは間違いありません。表には出てきませんが。
皆が欲しがった“斎宮女御”を早くみたいです。
素敵なブログなのでお気に入りに登録させてもらいました。こちらこそ
よろしくお願いします。
投稿: いづつや | 2006.01.20 20:14
こんばんは。
佐竹本って凄い価格だったんですね・・・
知らずに観てきてしまいました。。。
投稿: Tak | 2006.02.13 22:56
to Takさん
益田鈍翁をはじめ当時の数寄者(すきしゃ)は茶人ですから、茶碗や掛け物
など茶道具類の名品を手に入れようとやっきになってます。今とは財界人の
動かせる金のスケールが違います。掛け軸一本に4,5億円ですからすご
いです。後に所有者が移ったとき、松永安左ヱ門(九州電力の創設者)は
“伊勢”を8~9億円で買ったといわれてます。
投稿: いづつや | 2006.02.14 10:55