須田国太郎展
現在、東京国立近代美術館で開催中の“須田国太郎展”(3/15まで)は久ぶりの回顧展だという。
日本人が描く洋画が全部頭に入ってるわけではなく、むしろ展覧会情報は薄いほうなのだが、これほど大物の洋画家だったら、もう少し頻繁に個展が開かれてると思ったが、実際は逆だった。
過去に観た須田国太郎の作品は10点くらいしかない。印象に残ってるのは、東近美
の平常展でみた“法観寺塔婆”、“書斎”と京近美にあった右の“校倉乙”、“夏の夕”
、“夜桜”。そして、2年前、島根県立美術館で開かれた“昭和前期の洋画展”という
一級の展覧会に展示してあった“海亀”、“村”。これらは全部今回も出ていた。
会場ではじめてこの画家の絵描きとしての歩みを知った。41歳で画壇にデビューする
も評価は惨憺たるものだったらしい。“法観寺塔婆”や“発掘”、“アーヴィラ”などいい
絵があるのに、黒や茶褐色の暗い絵は当時の好みに合わなかったのだろう。モティ
ーフは風景画、人物、鳥、花、動物の絵と持ち駒は多い。
足が止まったのが寺や仏像を描いた作品。奈良の古寺の感じが良く出ている“唐招
提寺礼堂”、そして“校倉乙”がいい。“校倉”をはじめてみたとき、その黒がずしん
ときた。粗い筆致と黒が校倉を表現するのに一番あってるような気がした。力の
ある絵。戦後の作品、“窪八幡”にも魅了される。作品全体のなかでこの絵が一番
輝いており、屋根の黒とその下の白、赤に吸い込まれそうになる。
鳥や動物の絵がなかなか魅力的。中でも“犬”、“鵜”が秀逸。画面手前に大きく黒い
犬や鵜を描くのは、世田谷美術館でみた稗田一穂の“黄色い豹”と似ている。須田も
また、豹を描いている。そして、鷲の絵が何点もある。この画家は鳥や動物が好き
だったのかもしれない。黒を中心にした色数の少ない絵だが、じわじわと心のなかに入
ってくる感じである。忘れられない展覧会になりそう。
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コメント
いづつやさん、こんばんは。
私も観て来ました。須田の黒色の奥深さが印象的でした。いづつやさんも魅了された黒い犬や鵜は、なんだか須田自身の投影のような気がしてしまいます。黒色の持つ多様性からか、さまざまな観方のできる不思議な画家だと思いました。
で、拙感想をTBさせていただきました。
投稿: June | 2006.01.22 23:29
to Juneさん
これまで見た須田国太郎の作品が少ないので、この画家のトータル
のイメージがつかめなかったのですが、この展覧会でその才能の高さに
驚嘆させられました。香月泰男のときと同じくらいの衝撃度です。
背景の陽の光で馬に乗ってる男がシルエットのようになってる“発掘”
をみてると香月の絵を思い出します。
風景画では大作、“工場地帯”に私も赤丸です。地方へいくとこんな
光景によく出くわします。向こうの山々が白っぽく、日差しをうけてる様子
がよくでてますね。また、ときどき“鉱山”のような山腹をえぐりとられ、
白い山肌がでてるところを見ます。
“犬”と“鵜”は黒が基調の絵ですが、光を表す白や緑の使い方が上手
なので、非常にインパクトの強い作品になってますね。白と緑があること
で黒が美しくみえます。香月泰男もそうですが須田国太郎はきっと凄い
カラリストだと思います。でないと、“窪八幡”のような黒や赤が輝いて
いる絵が描けるはずがありません。
黒を美しく表現するのに天分の色彩感覚が役立っているのではないで
しょうか。“窪八幡”の強烈な赤をみましてティツィアーノが描いた“聖母
被昇天”やグレコの“聖衣剥奪”の鮮やかな赤を連想しました。Juneさん
がブログでご指摘のようにプラド美術館でみた画家の影響がいろいろ
出ているのでしょうね。
投稿: いづつや | 2006.01.23 17:21
いづつやさん、こんばんは。
この展覧会は良かったですよね。
器用に色を織り交ぜてキャンバスにのせる方だなあと、
常に感心しながら見ておりました。
また画題の豊富さも凄まじいです。
何から何まで、しっかり自分の画風でまとめあげますよね。
これも見事かと思いました。
校倉はまるでデュビュッフェのような味わいがありました。
投稿: はろるど | 2006.02.04 01:29
to はろるどさん
須田国太郎の作品を見たのは10点たらずで、画歴に関する情報も全く
無かったのですが、脳裏にずっしり焼きついてる“法観寺塔婆”や“校倉”
がありましたから、他の作品にたいする期待値は高かったです。
はたして名画の数々に会えました。豹や鷹などの絵をみますと動物園に
入ったような気がしました。この画家は鳥や動物、魚など生き物が好き
だったのでしょうね。日本画の花鳥画で鳥は見慣れてますが、ペリカン、
ダチョウがでてきたのには驚きました。海亀も存在感がありますね。
風景画にも魅せられます。はろるどさんに言われて気づきましたが、
“校倉”の黒茶色やタッチは確かにデユビュッフェに似てますね。
投稿: いづつや | 2006.02.04 15:38
こんばんは。
いやーー良かったです。
まとめて観ないとその作家の良さって
中々分からないものですね。
鳥好きの作家さんって意外と多いと
私も常日頃感じています。
どうしてでしょう??
投稿: Tak | 2006.02.08 20:45
to Takさん
こんばんは。須田国太郎の絵をまとまった形でみたのははじめてですが、
多くの作品をみてこの画家に対する好みが固まりました。
セザンヌ風の水浴を描いたり、馬に乗る裸の男を描いたり、最初は命ある
のは人間でしたが、だんだん鳥や豹、魚、亀、犬も登場してきますね。
大げさに言うと自然や生命の賛歌がテーマだったかも。それを赤とかで
なく黒(プラス肌色)を基調にして表現したかったのでしょうか。見る者も
画家の内面に引き込まれそうになります。
投稿: いづつや | 2006.02.08 21:14
須田の黒の意味を考えながら、作品をみていました。
記事で書かれているように、鳥、動物の絵が不思議な魅力をもっていました。動物の表現についても、掘り下げてみるとおもしろそうですね。
投稿: 自由なランナー | 2006.02.28 07:58
to 自由なランナーさん
東京にお帰りになるときは美術鑑賞でお忙しそうですね。須田国太郎展
は長く記憶に残るような気がします。ある画家が本当に好きかどうかはそこ
そこの数を見ないとかたまってきませんね。今回、沢山みて、須田国太郎
がMy好きな画家になりました。
馬、鷲、豹、犬、猫、海亀、鵜、魚、と絵の中にいろいろな生き物が登場
します。なかでもお気に入りは目が赤い黒犬、鵜、海亀です。日本画が
好きなのは花鳥画に魅せられてるからなんですけど、須田が描く動物画にも
惹き付けられます。これは大きな収穫でした。ダリの絵にもアリや象、虎が
でてきますが、今、なぜ象なのか調べてます。アリは死のイメージだと
いうことがわかりました。
投稿: いづつや | 2006.02.28 15:11