堂本尚郎展
昨日から世田谷美術館ではじまった“堂本尚郎展”(06/2/12まで)をみてきた。
用賀駅から美術館行きのバスに乗るのが楽だが、このバスは途中、寄り道が多く、結構時間がかかる。降りるころになって、前回も同じことを感じたのを思い出した。
初日のせいかも知れないが、館内にあまり人はいない。アクセスの悪さを
割り引いても、抽象絵画の展覧会ではこのくらいが普通だろう。堂本尚郎の作品
はほとんど見たことがないので、期待半分、不安半分であった。が、観終わった
後は満足感で一杯。自分好みの抽象絵画だった。
現代絵画も含まれた過去の展覧会や東近美の図録をひっぱりだしてみたが、
堂本尚郎の絵はそれほど載ってない。日本ではあまり評価されてないのかなと
思ったりした。そんなことはないはず。こんな素晴らしい作品がこれほどあるのだか
ら。この展覧会の図録で堂本尚郎のこれまで開催された個展や回顧展の経緯を
レビューしてわかったのだが、京都国立近代美術館のような大きな美術館で回顧展
が開かれた(9/13~10/23)のははじめて。これは意外だった。フランスから文化
関連の勲章をもらってる画家でも、抽象絵画だと日本ではこれが現実なのだろうか。
同じく京近美で開催された須田国太郎展は東近美でも来年あるが、アトリエが世田谷
にある堂本尚郎の作品は縁の深い世田谷美術館での展示となった。日本画から洋画
に転向してからの堂本の出発点は厚塗りのマチエールを使ったアンフォルメル(不定
形抽象)の作品。画家の内面の感情を熱くカンヴァスにぶっつけたように、星雲や波を
イメージする形態が激しいタッチと強烈な色彩で描かれている。どのくらい絵具が盛り
上がってるのかと横から眺めていたら、注意されてしまった。今年はじめ、ブリジス
トン美でみたザオ・ウーキーの絵がこんなスタイルだった。
最も惹きつけられたのが右の“宇宙Ⅰ”(部分、1978)。堂本がNYに居たときの作品。
フォルムの細かさもさることながら、色彩感覚が素晴らしい。叔父の堂本印象同様、
尚郎も天性のカラリスト。パリからNYに移って、不定形のイメージから一転して、鮮や
かな色彩でシンプルなフォルムを丹念に斜めに連続させるすっきりとした画風に変る。
この絵では画面を正方形、円、三角形で3つに分割し、この枠のなかでは、背景で使っ
た胃袋のような形態の流れとは逆方向に色を黄色、赤に変えて連続させている。
以後の作品でも胃袋のような、あるいはひょうたんのような形が繰り返される構成に
変りはないが、リジッドさを緩くしたり、奥行き感をだすためフォルムの交差を複雑
にするなど色々なヴァリエーションを生み出している。03年に制作された“連鎖反応
ークロード・モネに捧げる”という最新ヴァージョンになると、基調の白とピンクの形を
連続して構成された秩序を意図的に乱すように緑の絵具を撥ねらせ、滴り落とし、
強いアクセントをつくっている。この不安定な感情表現は見る者には心地よい刺激。
夕方からはじまるレセプションのため会場に来られていた今年、77歳になる堂本尚郎
画伯と少しだけお話しをした。“京都の堂本印象館にある印象の作品にはザオ・ウー
キーの画風と似たのがありますね”と言うと、“最近のザオ・ウーキーはダメ、彼はよく
知っていて、僕より5歳くらい上ですが。。。画家もあんまり長く生きてるのはよくな
いね。”とおっしゃっていた。笑顔の素晴らしい気さくな画家であった。堂本一族には
縁がある。My好きな画家に即、登録した。
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コメント
こんばんは、今日観てきました。
カタログが横長で見にくくていけませんね。
最近のこの人は結局日本的なものに還っていったと解説にありましたがどうなんでしょう。
いづつやさんも引かれている「クロードモネにささげる」を見ますと、やはりフランス的なのかなと。
いづつやさんは画家とお話されたということで、なんかそのあたりのことおっしゃってませんでしたか?
今は無き西武美術館で展覧会があったんですね、又素敵な日本人と一人出会えたという印象です。
投稿: oki | 2005.12.20 23:44
to okiさん
こんばんは。画家も年をとってくると、細かい表現を続けていくのは
シンドイでしょうね。“宇宙Ⅰ”などは完成までに相当な緊張感を強い
られますよね。こんな繊細な抽象画は日本人しか描けないのではないか
と思いました。工芸の伝統が抽象作品にも生かされてるような気がします。
画伯との会話の最後に“最近の作品には蓮池がでてきますが、これから
先はどういう方向へいくのでしょうか?”と言うと、ニヤッとされてました。
“モネに捧げる”はリジッドな動きと不定形を美しく両立させようとしてる
のでしょうか。あまり綺麗々では面白くなくなってきたのでしょうね。
描くのも辛いし。okiさんのおっしゃるフランス的な激しくないアンフォルメル
の作品でしょうね。
最後のコーナーにあった“蓮池”は墨のような暈しが使われてますから、
日本的といえば日本的です。でも日本画に回帰するといっても、堂本尚郎の
土俵は抽象画ですから、日本的な抽象画を極めるのではないかと思ってます。
これは叔父の堂本印象が襖絵などでやってることですが。。
投稿: いづつや | 2005.12.21 00:35