ゲルハルト・リヒター展
佐倉にある川村記念美術館で行われている“ゲルハルト・リヒター展”をみてきた。
昔、日曜美術館でこの美術館が紹介された時、ステラやロスコーなど現代アートのいい作品が出てきたので、いつか訪れてみたいと思っていた。ちょうどタイミングよく、興味のあったリヒターの回顧展がここで開かれたのを機に、横浜からクルマを走らせた。
リヒターの本格的な展覧会が日本で開かれるのはじめてらしい。これは意外だった。
現在73歳のリヒターの最新作を含め50点が出ている。この作家の作品をちゃん
と記憶しているのは過去2回しかない。最初の出会いは1997年、東現美で
あったポンピドーコレクション展にあった作品。色彩が鮮やかな抽象絵画だった。
2度目は昨年のMoMA展(森美術館)。ここにあったのは毛沢東とイギリスの
エリザベス女王のフォト・ペインティング。ピントの暈けた写真のような絵であった。
2点だけではこの作家の画業をとらえるのは難しく、毛沢東のイメージが
強く残ってるため、もとは写真家だったのかと考えてみたりした。だが、今回の
作品を観て、リヒターが現在、世界最高峰のアーティストと評されてることがよく
わかった。ドイツ人作家の作品のイメージは、思想的で退廃的な絵が多い(例え
ばグロス)、原色で直球勝負してくる(キルヒナー)、剃刀のような鋭利さがある
(キーファー)。リヒターはこれらとはちょっと違う。
かなり柔らかい頭をしている。色彩感覚の素晴らしい、右の“森”(1990)や色見
本を沢山並べたような“カラーチャート”(1974)を観ると、この作家は天性のカラリ
ストではないかと思ってしまう。形態より色彩のほうが好きなため、色彩感覚に
才のある画家の作品を見ると嬉しくなる。大作の“森”は、横方向に引掻くような青
や黄色、ピンク、緑の線が伸び、同じ調子のタッチが上まで描かれている。これ
によってつくられる縦に並ぶ同じ色は森に林立する木々をイメージさせる。この絵は
抽象画であるが、美しい森をみるようで感動した。“カラーチャート”はモンドリアン
の代表作“ブロードウエイ・ブギウギ”やステラの作品の色使いを連想させる。
ガラスの作品が4点ある。02~03年の作で、そのひとつは大きなガラス板を11枚、
木の台に立てているだけ。これを観て、デュシャンの問題作、“大ガラス”を思い出
した。ゲルハルト・リヒターの作品は多面的で、抽象と具象との間を行ったり来たりし
ている感じである。最近では、ガラスにも映像を映している。色彩的にも、写真の
ような白黒、グレイの世界から、ザオ・ウーキーに似た深い青や緑、ピンクを見せた
かと思うと、ステラのような明るい色彩を使うなど多彩を極めている。
凄い才能を持った作家に出会った。長い付き合いになりそう。なお、会期は来年
の1/22まで。
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コメント
いづつやさん、こんばんは。
抽象と具象の間のような表現が美しくてとても惹かれました。
あれほど鮮やかな色彩をたっぷりと見せながらも、
どこか冷たい感触を思わせる点が見事ですよね。
森は私も大好きです。
ガラスも興味深い作品でした。
むしろあの美しさは「大ガラス」を超えているとしたら言い過ぎでしょうか。
投稿: はろるど | 2006.01.20 01:06
to はろるどさん
今回の展覧会をみて、ドイツ人、リヒターのイメージが崩れました。
半分はアメリカ人、フラン人感覚のアーティストですね。ですが、
森や岩壁のように綿密に仕上げるのはアメリカ人画家では出来ない
でしょうね。このあたりは生真面目なドイツ人らしいところです。
モノトーンでは、ぼかしたり、写真のように表現しますが、色彩感覚に
優れる作品もあります。非常に多面的ですね。いい作家に会いました。
投稿: いづつや | 2006.01.20 18:33
こんばんは。
横浜から佐倉まで車ですか。
もう「旅行」ですね、そうなると。
でもそれだけの価値ありますよね。
リヒターの作品をまとめて観られて幸せでした。
投稿: Tak | 2006.01.20 22:41
to Takさん
現代アートの場合はいつも、自分の好みに合わなかったら時間の無駄
だなあという不安があり、今回もそれがすこしはあったのですが、今世紀
最高の芸術家というキャッチコピーにひかれて行きました。
結果は大当たり!大丈夫。これなら充分感じることができるという
印象でした。とくに大作“森(3)”、“岩壁”の美しさに感動しました。また、
ガラス作品も楽しめました。
投稿: いづつや | 2006.01.21 11:32