伊東深水の美人画
熱海にあるMOA美術館で開催中の館所蔵の“近代日本美術展”(12/24まで)をみてきた。今年、5度目の訪問。
図録をみると、ここは琳派だけでなく、浮世絵、近代日本画の名品が揃っているので、2年くらいかけて集中的にこれらを鑑賞しようという目論見である。
いまのところ、成果は上々で、訪問するたびに期待値以上の作品に出会い、大きな満足が得られている。入場料が1600
円と少々高め(実際はいつも割引券を使うので200円引きの1400円)だが、充分
元はとれてるという意識のほうが強く、全然気にならない。
今回は近代日本画、漆工芸、板谷波山の陶器などが飾られている。絵画は25点
あまりだが、どれも上質。横山大観、前田青邨らのビッグネームの作品がずらっと
並んでいる。いくら画技の高い画家とはいえ、なかには平均値の作品もあるの
だから、そういうのが交じっていてもおかしく無いが、ここのコレクションには中という
のがない。上ばかりといっても過言ではない。美術館の創設者、岡田茂吉の目
に適う絵しか購入しなかったらしい。
コレクター、岡田茂吉のいいものを観る眼で選ばれた一点々にため息をつきながら
観た。中でも感動したのが美人画の作品。上村松園、鏑木清方、伊東深水の美人
画家ビッグスリーが競演している。松園は2点、“虫の音”と“深秋”。清方は“名月”。
深水は3点あり、“長夜”、“三千歳”、“深雪”。これだけ粒の揃った美人画を一度
に観た経験は過去に無い。8月、ホテルオークラであった“きらめく女性たち展”では
松園らの美人画の傑作があったので満足度は高かったが、なかにはグッとこない
作品も含まれていた。
これと較べるとここに出ている6点はみんな惹きつけられる。お気に入りの一番が
右の伊東深水作、“深雪”。これまで、深水の絵をだいぶ観てきたがやっとMy伊東
深水ができた。松園や清方と較べると、惹きつけるものがひとつ足りないという
のがこれまで観た伊東深水の作品の印象だった。だが、今回は違った。唇や袖口
の赤は好みではないが、上がカットされた傘をもつ少し豊満な体形の女性を描いた
この美人画の素晴らしさに思わず後ずさりしてしまった。
色の使い方がすごくいい。薄紫をした着物に描かれた華麗な模様に目が奪われる
と同時に、青い線が入ったモダンな帯にはっとさせられる。そして、表から透けて
見える傘の裏にぬられた黒い淵が画面を引き締めている。この作品がトータルの
満足度をさらにあげてくれた。またしてもMOAは二重丸。
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