模写・模造と日本美術展
東京国立博物館、平成館2階の向かって右側では現在、“模写・模造と日本美術展”が開かれている(9/11まで)。
この展覧会がはじまったのは知っていたが、平常展の方に関心が高く、模写展はパスしてきた。が、模写展が遣唐使展と連動しているので、ここもぐるっと見てきた。
事前情報が全く無かった分、驚きも大きかった。模写や模造する人が古今のビッグ
ネーム。かれらの手になる絵画、仏像、工芸品の忠実な模写・模造は出来栄えが素晴
らしく、原本を見た気分になる。コピー品をつくる目的は作者の技術向上、創造の
心得を原本に学ぶところにあるかもしれない。観る側にとってはなかなかお目にか
かれない原本の雰囲気を模写により味わえるというメリットがある。今回このメリットを
感じた作品がいくつもあった。
例えば、ボストン美術館が所蔵してる“平治物語絵巻”の模写。3点ある平治物語絵巻
のなかでも最高傑作といわれるのがこの絵。燃え上がる炎の迫力をいつか見た
いと願っていたが、模写ではあるが思いもかけず実現した。また、前田青邨らが手が
けた“高松塚古墳壁画”にも感動した。本物の壁画は関係者しかみれないのだから、
模写がみれるのは有難いこと。画技の高い前田青邨の模写なので、本物と変らないと
思ってみた。
そして、追っかけていた仏画、右の“阿弥陀聖衆来迎図”(国宝)に出会った。描き方
が上手いのか模写が気にならない。来迎図は臨終が近い人のもとに阿弥陀が来迎し、
浄土の世界に連れていく姿を描いたもの。中央の阿弥陀如来とその周辺の僧と供物を
持つ菩薩は一つの雲上に乗っている。前に、先導する観音菩薩と勢至菩薩。来迎の
タイプはいくつもあり、知恩院のものは往生する人を画中に描き入れている。
この模写は下村観山らの制作であるが、同志の横山大観は雪舟の山水図を、菱田春
草は仏画の一字金輪像を描いている。こうした過去の名画を再生する技を持っている
ところが凄い。絵画だけでなく、正倉院宝物の螺鈿作品など工芸品にも圧倒される。
模写・模造ということが表記されなければ、間違いなく本物と思ってしまう作品が多か
った。こんなお宝の展覧会を危うく見逃すところだった。
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