ベルナール・ビュフェ展
ベルナール・ビュフェという画家の絵をはっきり記憶したのは今年1月、ニューオータニ美術館であった展覧会。ジャコメッティの彫刻を想わせる、やけに細くて縦に長い人物が登場する独特の絵だった。
ビュフェは日本に何回もやって来るうち、日本美術に影響を受けたのか、その中に上手に描かれた鶴の絵があった。キャプションには1999年、南仏の自宅で自殺したとある。自殺した画家の
話はあまり聞かないので、ビュフェにどんな悩みがあったのかと胸が騒いだ。
このビュフェの回顧展が新宿の損保ジャパン東郷青児美術館で開かれるという
ので、早速足を運んだ。静岡県の長泉町に、ビュフェのコレクションでは
世界一というビュフェ美術館というのがあるらしく、そこから油彩画70点が出張
展示されている。17歳の時から60歳代までの人物画、風景画、静物画が
あるので、ビュフェの作品の特徴が大略つかめる。そして、若い時代と壮年
期で筆致や色使いが変わってくること、また大作の風景画が増えてくるなど
興味深い変化をみてとれる。
若い頃の作品には虚無感や孤独感が漂よっている。自画像や女性画は人物を
黒い線描でとらえ、まわりの色調が灰色や白で統一された平面的な絵。30歳の
ときの作、“ニューヨーク”では垂直線と横に交わる線で表現した摩天楼にひんや
りした空気が流れている。40歳の頃から、色彩が豊かになり、絵全体が
明るくなる。自分の娘を描いた“ダニエルとヴィルジニー”では赤や青があらわれ、
子供の顔はふっくらとして、さわやかな感じを与えている。
今回、目を楽しませてくれたのは、風景画の数々。これには参った。いままで
抱いてたビュフェのイメージとはかけ離れ、詩情あふれる名作が次々でてくる。
パリを描いた“サクレ・クーレとパリの屋根”、“コンコルド広場”。また、
フィレンツェのヴェッキオ橋もある。中でも気に入ったのは右の“風車のあるミコノ
スの風景”。ミコノスはギリシャのツアーガイドによく載ってる有名な観光地。
大きな絵で、真ん中にどんと描かれた風車とまわりの家の白と海の深い青、
空の薄青の配色が素晴らしい。
隣の方もご満悦で二人揃ってビュフェのファンになった。いつか、静岡にある
ビュフェ美術館を訪ねてみたい。
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コメント
こんばんは.
奇遇です.先週,ビュフェ美術館に行きました.
ぼくもビュフェに好印象を持ちました.
舟を描いた油絵の連作があり,黒く太い線が美しいと思いました.
最期は病気で絵が描けなくなったことが自殺の原因だったようです.画風どおりの,ストイックな画家だったのだと思います.
投稿: おけはざま | 2005.07.28 23:38
to おけはざまさん
おけはざまさんとは見てるものがよく合いますね。古径の今昔物語
など。ベルナール・ビュフェという画家は準巨匠としてみてたのですが、
今回招待券をもらったので、あまり期待せず出かけてみました。
実際は、イメージ違いのいい風景画がたくさんあり、とても感動しました。
自殺はやはりパーキンソン病が原因でしたか。絵が描けなくなる
と辛いでしょうね。いつか、静岡のビュフェ美術館に車を
走らせようと思います。
投稿: いづつや | 2005.07.28 23:52
もうすぐ終りで、慌てて行かれました。
色彩が増えていくと、とても楽しい絵になるのに、かなり精神的に追い詰められているような絵が多かったです。風景画の中の緑が、浮いているとずっと思っていましたが、今日はじめて、あの景色の緑はあの色に見えたのだ!と納得しました。
投稿: mari | 2005.08.22 03:44
to mariさん
ベルナール・ビュフェの絵をまとまったかたちで観るのははじめて
です。いくつもあった大きな風景画がとても気に入りました。ヴェニスや
パリの街の描いた作品もよかったですね。この画家の別の画風を見
た感じです。これからはビュフェの絵を意識してみようと思います。
投稿: いづつや | 2005.08.22 22:26