福田平八郎の雨
美術館に行けば必ず望みの名画を見れる西洋画と違って、近代日本画の鑑賞には時間がかかる。例えば、小林古径の代表作がどこの美術館にあるかはわかっていても、そこにいつも展示されてる訳ではない。何年に一回の展示が普通である。
こんな訳で日本画を楽しむには辛抱強い精神が必要。で、定期的に館の展示スケジュールをチェックし、好きな画家の代表作を見逃さないようにしている。
どこの美術館を見てるかというと、東京国立近代美術館と博物館と山種美術館。
そしてちょっと遠いが京都国立近代美術館。東博には図録がないので、
近代日本画がどのくらいあるのか見当がつかないが、ここの平常展にはびっくり
するような絵が出てくる。横山大観、小林古径、安田靫彦、前田青邨などの名
画がいくつもあるので、毎回行くのが楽しみ。
明治以降の日本画の殿堂である東近美は展示スペースが広く、大観から加山又造
まで日本画の名手の作品を鑑賞することができる。ここは同じ絵がわりと頻繁に
でてくる。人気のある名画は出し惜しみしないで、見せてる感じがする。
いいことである。
6/7~7/18の展示にはいつものことだが、名画が揃っている。最近よくでる
下村観山作“大原御幸”、速水御舟の“茶碗と果実”、徳岡神泉の“蓮”、
上村松篁“星五位”、小倉遊亀“O夫人座像”、加山又造“月と犀”、福田平八郎“雨”、
森田曠平“鐘巻”など。このうち、星五位、O夫人坐像、雨は、日本画をみるとき
の参考にしている“昭和の日本画100選”(朝日新聞社、1989年)に選ばれている。
なかでも福田平八郎が描いた右の“雨”が気に入っている。この絵は4回くらい
見ている。最初にみたのは04年の2月、広島県の下蒲苅町にある蘭島閣美術館
で開催された福田平八郎展。画集をみていたときは、なぜこれが近代日本画の
白眉と呼ばれるのかピンとこなかった。が、この絵の前に立ってじっとみているうち
に絵に力があることに気がついた。雨滴がぽつぽつと瓦の上におちる感じをよく
写している。同じ形の瓦に落ちる雨滴の染みの模様は不規則でばらばら。
単色で単純化された瓦のフォルムで構成されてるが、瓦の表面や起伏の質感
が実に写実的に捉えられている。福田はこの頃、日本画にまつわる精神主義
を排して、自分の感性で自然の実相に迫りたかったようである。
この画家には似たような“漣”(さざなみ)という傑作があるが、なかなか会えない。
辛抱強く待つしかない。
| 固定リンク
コメント
こんばんは。
こちらの記事を拝見して、先日古径展の折に見てきました。
>なぜこれが近代日本画の白眉と呼ばれるのかピンとこなかった
写真とは全くと言って良い程質感が異なりますよね。
雨の「痕跡」が無造作に捉えられている様も見事ですが、
均整な瓦の厚みの質感がまた良かったです。
細かいひび割れでしょうか、
日に焼けた様も表現されていたと思います。
構図としても単純なようで大胆ですし、
いづつやさんがご賞賛されるのも納得でした。
>漣”(さざなみ)という傑作
こちらはどの美術館が持っているのでしょうか。
私も見てみたいです。
投稿: はろるど | 2005.07.11 23:55
to はろるどさん
福田平八郎の“雨”は抽象的なフォルムですが、雨がしみた瓦の
質感に驚かされます。福田は雨が落ちては消え、また落ちては消える
様をみて心うたれ、これを作品にしようと思ったらしいです。自然を
捉える目の鋭さが普通の人とは違います。
漣は現在、大阪市立近代美術館準備室が所有してます。この絵は雨と
ともに近代日本画の傑作として高く評価されています。長らく待ってる
のですが、鑑賞の機会にめぐまれません。大阪にこの美術館がで
きれば、夢がかなうのですが、いつごろ完成するのでしょうか。
この計画は予定通りに進んでないような気がします。
投稿: いづつや | 2005.07.12 15:01
初めまして・・
絵やクラシックが好きで以前から見せていただいていました
私もこの絵が大好きです
今朝のTVで金沢の屋根の映像を観て、この屋根の絵を思い出しそのことを書きました
トラックバックさせていただきました
投稿: えみ丸 | 2005.07.31 14:46
to えみ丸さん
はじめまして。書き込み、TB有難うございます。福田平八郎の“雨”
は絵画鑑賞というものは画集ではなく、本物を見るものだということ
を再確認させてくれます。瓦に落ちる雨滴の様子を今、そこで見
ているような気がします。抽象的な構成ですが、日本の詩情
を感じます。
今、同じ作風の“漣”が見れる機会をじっと待っています。これからも宜しく
お願いします。
投稿: いづつや | 2005.07.31 16:51
こんにちわ。昨日、京都国立近代美術館の「福田平八郎展」を見てきましたよ。
「漣」も「雨」も実物を拝見することができました。「漣」は写生帖や、下絵も一緒に展示してあり、画家の苦心惨たんぶりをうかがうことができました。
鶴を描いても、胴体や羽ではなく脚のの細密描写に集中し、鮎よりも水面の描写に懸命になってしまう、対象物を堂々と中央に置かずに余白の美にこだわる、凡人とは異なるこだわりぶりが、何だか微笑ましくさえ思えてしまいました。
「平八郎展」は6月3日まで開催だそうですので、京都に来られる機会があればいいですね。
投稿: まりんすのー | 2007.05.05 13:41
to まりんすのーさん
はじめまして。書き込み有難うございます。お楽し
みの“福田平八郎展”は5/13に見ることにして
ます。13日は“漣”が展示される最後の日で
すし、相国寺で若冲展もはじまりますから、1ヶ月
前に新幹線を予約しました。13,14日、この二つを
はじめ色々まわることにしてます。
大規模な回顧展ですからとても楽しみにしていますが、
展覧会の情報をいただいて、ぐっとテンションが上が
ってきました。ブログに書いたとき、また是非お越し下
さい。これからもよろしくお願いします。
投稿: いづつや | 2007.05.05 15:18