デルヴォー
ベルギー王立美術館ではデルヴォーの名画を堪能した。縦、横のサイズが大きいので見ごたえがある。
ここには“民衆の声”、“ピグマリオン”、“戦火”、“夜汽車”など傑作が揃っている。どの絵にも目鼻立ちの整ったドールのような女性が登場する。
デルヴォーは誰もが知るマザーコンプレックス。夢の世界にでてくる女性はデルヴォーが35歳のとき死別した母親を
象徴しているという。人工的でひややかな感じのする女性であるが、豊満な裸体
をじっとみてると心がざわざわしてくる。女性ばかりみないで画面全体をみてみる
と、どこか醒めてる感じ。デキリコの形而上絵画の雰囲気がある。
ギリシャ神話の物語を題材にした右の“ピグマリオン”を興味深くみた。この絵は
ピグマリオンの話をひねっている。真ん中に立ってるのはヴィーナスの姿をした
母親。その前にあるのはデルヴォーをモデルとした大理石の彫刻。ヴィーナスは
彫刻に命を与えている。
本来のピグマリオン物語はこうなってる。彫刻家のピグマリオンは女性嫌いで
長らく独身を守っていたが、象牙で作った女性の彫像が素晴らしい出来栄えだっ
たので、その像に恋をしてしまう。なんとかこの恋を実らせんとピグマリオンは
ヴィーナスに自分の妻として、象牙の乙女のような女性を与えて下さいと懇願
する。心優しいヴィーナスはピグマリオンの願いを聞き入れて、彫像に命を吹
き込んでやる。彫像が生身の乙女に変わったのをみてピグマリオンは大喜び。
とてもいい話し。
デルヴォーの絵では登場人物の性が転換している。女性版ピグマリオンをシュ
ルレアリスム的に解釈すると、所有欲の強い母親の支配に耐え忍ぶデルヴォー
ということになる。
デルヴォーは50歳のとき、20年まえ母親から反対されて別れた恋人と偶然
会い、新しい人生をスタートさせる。この絵を通じて人間デルヴォーを見たような
気がする。
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