岡田温司著「マグダラのマリア」
最近出版された“マグダラのマリア”という本を読んだ。著者は美術史家の岡田温司氏(中公新書、05年1月)。
この本を読むと、この聖女マグダラがこれまで絵画、文学、映画の題材として数多くとり上げられ、作品づくりの霊感源となってきたかがよくわかる。マグダラのマリアには堕落した女というイメージと同時に肉体美をそなえた官能的な女性というイメージがある。また、悔い改めた苦行者として信者の模範となるマグダラのマリアも強く残っている。
著者はこんなイメージでみられるマグダラのマリアがいつ頃、どういう背景により
人々にPRされていったかを聖書に書かれた内容、さらにカソリックの
歴史をひもときコンパクトにまとめている。美術好きの人は画家が描いたマグダラ
のマリアが沢山でてくるので、信者で無い限りあまりなじみのない宗教の話
がさほど苦にならず、理解できるのではないだろうか。
これまで観たマグダラのマリアの絵で印象深いのはティティアーノが描いた
“悔悛のマグダラ”とカラヴァッジョの同名の絵。ティティアーノはほぼ同じ絵を3枚
制作している。これらはフィレンツェのピティ宮、エルミタージュ美術館、
ナポリのカポディモンテ美術館にある。ピティ宮にある絵は胸がそのまま
描かれているが、後の2枚はヴェールで隠されている。目に涙をためたマリア
の姿は実に美しい。時間があればずっとこの絵の前にいたくなる。
カラヴァッジョの絵を岡崎市でみたときは、こんななまめかしい絵が17世紀
の初頭によく描けたもんだと唖然とした。天才カラヴァッジョの凄さをみせつけ
られた感じだ。
まだお目にかかってない作品で関心があるのが、ドナテッロの
彫刻“マグダラのマリア”。この作品を図録でみると男の苦行者にみえる。が、
よくみると女性。長い髪が膝の下まで伸びている。
右のフレスコ画はアッシジにあるジョット作の“天使たちの対話”。長い金髪の
聖女マグダラが描かれている。長い苦行をしたマリアであるが、
ドナテッロの痩せ細った、険しい表情をしたマグダラとは対照的に気品がある。
岡田氏の本書は新書でボリュームは無いが、マグダラ物語はバロックから
象徴派のロップス、ラフェロ前派のロセッティ、映画“マレーナ”までつながっている。
岡田氏はカラヴァッジョ鑑の編者だけあって現代芸術の知識も深く、論点には
説得力がある。情報量の多い良書である。
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コメント
岡田温司著の新刊本、先日書店でちらりと見ました。けど、購入には至っていません・・・おっしゃるようにマリア信仰のカトリックでのPRぶり、そのためのメディアとしての絵画の役割が見られて興味深いですね。
カラヴァッジョのマグダラのマリアの法悦、私も岡崎で観ましたがもっとも印象に残っている作品です。
投稿: 桂田 | 2005.02.02 22:17
to 桂田さん
著者の力点は副題にあるエロスとアガペーの聖女のことを書いたⅣ章
にあるとおもいます。ベルリーニの“聖女テレジアの法悦”の謎が
ひとつ解けました。先行例はグイド・レーニの描いたマグダラのマリアです。
いままでレーニの絵を意識してみたことは無かったのですが、
あのベルニーニの“法悦”に影響を与えた画家となれば今後は軽々に
扱えません。これが一番の収穫でした。
投稿: いづつや | 2005.02.02 23:21