法月綸太郎著「生首に聞いてみろ」
法月綸太郎(のりづきりんたろう)の最新ミステリー本“生首に聞いてみろ”(角川書店 04年9月)を読んだ。この作家の名前は知っていたが、著作を読むのははじめて。10年ぶりにこの長編ミステリーを書いたそうだ。ミステリー小説では人気が高く、04年度のNo.1に選ばれている。
ミステリー狂いというほどではないが、殺人もの、刑事ものは好きで、高橋克彦の写楽殺人事件などのシリーズ、ゴッホ殺人事件とか佐藤雅美の啓順純情旅、縮尻鏡三郎などは新作が出るたびに読んでいる。最近読んだなかでは話題のダン・ブラウンのダヴィンチ・コード、天使と悪魔が面白かった。
生首に聞いてみろはどうか、ネタばらしをしてはまだ読んでいない人に申し訳ないので、詳しくはふれないが、大変面白い。書名からするとおどろおどろしい、あるいはホラー小説のイメージがあるが、そうでもない。
殺人ものの特徴である読み手に犯人さがしの推理をあれこれさせるのは
このミステリーにかぎったことではないが、この部分が
少し長いかなという気がする。最後の章でからくりがわかる。このからくりは
ミステリー通の読者には簡単かもしれないが、普通の人にはちょっと思いつか
ない。だから、読み終わると仲々よくできたプロットだなと感心する。
内容については美術の好きな人には知識が増える。生きた現実の姿をそのまま
石膏でかためて人間を表現したジョージ・シーガルの技法に刺激をうけた日本人
彫刻家のつくった作品にある謎がこめられ、人が殺される。そして、殺された
女性の首が切断される。。。。
右の作品は彫刻家チェッリーニの“メドゥーサの首を掲げるペルセウス”。
昔はフィレンツェのシニョーリア広場の彫刻廊にあった。このメドゥーサの首
についても、この本のなかで美術評論家がうんちくを披露してくれる。
そして、メドゥーサに見られたものは石になってしまうという話では、
その怖い目をめぐる芸術論をひとくさり述べる。このあたりは
殺人事件とあまり関係ない無駄話のようにもみえるが、日本人彫刻家
が作った遺作に刻みこまれた思いと係わってくるので気合をいれて
読まなくてはいけない。でも、ここの書き方はあまり上手ない。
わからなくても気にしないほうがよい。
合点がいかない点をひとつ。この日本人彫刻家が昔の殺人
に加わった動機にはかなり無理がある。これを除けば、本書は
キャッチコピーにあるように傑作かも知れない。
最後に、この本のことを教えて頂いたJuneさんに感謝申し上げたい。
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コメント
いづつやさん、こんばんは。
ブログの「生首に聞いてみろ」の題とチェリーニの画像がぴったりですね!いつもながら、いづつやさんの画像選択のセンスの良さを楽しませていただいております。
さて、ご紹介した手前、面白いとおっしゃっていただき、ほっとしております(^^ゞ。おっしゃっる通り、ミステリーの謎解きとともに、美術好きとして勉強することも多かった作品です。確かに、動機に若干無理があるようにも思えますが、ロス・マクドナルド風のさむけを狙った演出のようにも感じられました。
ストーリー構成の捌き方は、作者に、ぜひ、いづつやさんの文章を参考にして欲しいなぁ、と思いましたです(^_-)-☆
投稿: June | 2005.01.14 01:54
to Juneさん
法月さんは金田一ものなど日本のおどろおどろしいミステリー
より海外のミステリーを多く読んでたらしいですね。読者をただ驚かす
だけのトリックは使わないとも言ってます。このあたりは本書でも覗えますね。
ロス・マクドナルドの作品をさがしてみます。興味がわいてきましたので。
ミステリーの本、色々教えて頂き有難うございます。
投稿: いづつや | 2005.01.14 20:08