前田青邨の能役者絵
日本橋高島屋で開かれていた“岡倉天心と日本美術院展”で思はぬ名品に出会った。チラシには無かった前田青邨の“出を待つ”である。
代表作の大半を鑑賞し、この絵が最後に残っていた。個人の所蔵のためか、なかなかでてこない。が、なんとここに出品されていた。こういう時ほど嬉しいことは無い。天にも昇るような気持ち。30分くらいこの絵の前にいた。
白獅子の装束に身を包む能役者が舞台に出る前の緊張した瞬間を
描いている。演者は椅子に浅く腰掛けて、精神を統一しているところ。出番前
の張り詰めた空気が伝わってくる。二曲の屏風絵。色数は香色をベース
に白、獅子面の口の赤と少なく、色調は抑制気味。日本画でこういう配色は
あまり見たことがない。これから演じられる幽玄な能の世界を感じさせる
色面構成、構図である。
前田青邨のまとまった展覧会があまりないので、東博や大倉集古館、山種など
にまめに通ってこの画家の名画に接してきた。最近では東近美で開催された
琳派展に“風神・雷神”、“水辺春暖”が出展されていた。“水辺春暖”の華やかな
画風が気に入っている。また、東博の平常展でも“神輿振”、“唐獅子”をみた。
青邨の画技はとびぬけて高かったそうだ。この高い技術と近代的な感覚、斬新な
画面構成により、“洞窟の頼朝”、“知盛幻生”、“大物浦”など一連の歴史画、
武者絵の傑作を生み出してきた。青邨の絵をみるたびにこの画家の大きさ
を感じる。“出を待つ”は一緒にでてた“お水取り”と共に心に深く残る
絵となった。
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