美術で‘最高の瞬間‘! 渓斎英泉 風景画の名手
‘木曾街道六捨九次之内 野尻’(1835~36年 千葉市美)
‘木曾街道六捨九次之内 鴻巣’(1835~36年 千葉市美)
浮世絵に魅せられることが長くなってくると、すでにインプットされている
有名な絵師だけでなく最初はよく知らなかったがだんだん関心が深まってい
く絵師もでてくる。広重や国芳より8歳年上の渓斎英泉(1791~
1848)もそのひとり。つきあいのはじまりはかなり退廃的な雰囲気が強
い美人画。あまり深入りする絵でもないなと思っていたら、そのうち、こ
の絵師は風景画がなかなかい上手いことがわかってきた。
みた瞬間思わずのけぞったのが‘木曽街道六捨九次之内 野尻’。この中山道を
主題にした街道シリーズは英泉の絵によって天保6年(1835)頃から刊
行されたが、何らかの理由で24図ができあがったところで広重にバトンタ
ッチされた。‘野尻’は川の下流から仰ぎみるように描かれているので川が滝の
ように感じになっている。このフォルムが生み出す迫力に圧倒される。
そして、川にかかる橋は橋脚のない反橋。みるたびに英泉の画面構成力にう
なってしまう。
‘鴻巣’に足がとまるのはジグザクと奥に伸びる道を行きかう旅人たちを斜めの
線に立たせる構図。さらに人物と呼応するように折れ曲がる木々をリズミ
カルに並べているので画面全体にスピード感が生まれており、ひと目で街道
らしい光景に映る。旅好きには気持ちのいい絵だろう。‘日光山名所之内
裏見ヶ滝’は風景画というより風俗画のイメージが強い。突き出た岩の上から
ド迫力で落下する滝を上では滝の裏から楽しむ人たちがおり、滝つぼの横か
らもこの奇観を二人の男がおしゃべりしながらみている。
英泉の画力の高さをみせつけるのが‘雪中山水図’。ぱっとみると文人画の山水
画をみているよう。これには200%参った。こんな風景画を描いていたの
か!三枚続きのワイド画面を使って描いた‘東都両国橋夕涼図’はじつに楽しい
絵。川面は花火をみて宴会に興じる人たちを乗せた舟でいっぱい。こんなに
浮かれてみたい。
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