その七 プッサン展



メトロポリタンでの鑑賞時間が予定より2時間延びた理由の一つはまったく想定外の“プッサン展”と遭遇したから。パリのグラン・パレで見た“クールベ展”はここへ巡回中であることは知っていたが、ルーヴルで重点鑑賞画家にしていたプッサン(1594~1665)の回顧展を楽しめるとは夢にも思わなかった。
パリ、ロンドンでかなりの数のプッサン作品と対面し、ググッとこの画家にのめりこんでいたから、わくわくしながら企画展示屋へむかった。会期は2/12~5/11で、油彩44点、素描50点の94点が出品されている。会場の入り口のところにルーヴルでみる予定だった“自画像”があったので、質の高い作品が集まっていることを直感した。はたして、ルーヴル、ロンドンナショナルギャラリー、プラドなどブランド美術館からやってきた名画が沢山あった。
上はメトロポリタンの所蔵で必見リストの二重丸作品、“日の出を探し求める盲目のオリオン”。ギシシャ神話はライフワークにしているので、この絵に描かれた巨人オリオンと対面するのを楽しみにしていた。“これがあのオリオンか!”という感じ。見上げるような巨人である。肩にのっかっているのは道案内人のケダリオン。オリオンの足元に立っているのはウルカヌス。
一体オリオンはどこへ行こうとしているのか?見えない目を治すため、これから太陽の光を浴びにオケアノスの果てまでいくのである。両端の大きな木の間にみえるむくむく雲に肘をついてオリオンを眺めているのは月の女神ディアナ。この神話的風景画には寓意的な内容が表現されており、月の女神ディアナは雨を降らせる自然の力を表すものとして描き込まれている。
真ん中は最晩年に描かれた“四季”のひとつ“夏(ルツとボアズ)”。ルーヴルには“秋(約束の地の葡萄)”と“冬(大洪水)”しか展示してなかったので、残念な思いをしていたが、この“夏”と“春(地上の楽園)”は嬉しいことにここまで追っかけて来てくれた。
“夏”に描かれているのは旧約聖書にでてくるルツの物語。夏の刈り入れ作業のなか、畑の持ち主ボアズがひざまずいているルツを褒めている場面である。夫を亡くしたルツは貧しい生活にもよく耐えを姑につくしたから、姑の親族で裕福だったボアズはルツに対し親切にし、やがて妻にしてしまう。
プッサンの風景画は水平と垂直をうまく調和させた幾何学的構図に特徴がある。作業をしている人たちを水平に並べ、列をなすように配置しているから、視線がだんだんと空間の奥へむかっていく。そして、遠景に描かれた山や宮殿風の建物の上にはどの絵でも量感のある雲がたちこめており、明るい青の空は雲間からみえるといった感じ。
下の絵は“フォキオンの遺骨を拾う寡婦”(リバプール、ウォーカーアートギャラリー)。これは初期の英雄風景画の傑作である。フォキオンは古代アテナイ民主制最末期の軍人、弁論家。衆愚政治に反対の立場をとったが、ソクラテス同様民衆に誤解され、最後は毒をあおいだ。
この絵で目を奪われるのは構図。あまりにすばらしいので言葉を失った。左右の木の間に斜行する小道が描かれているため、遠景の神殿と三角形のフォルムをした山まで視線はなめらかに導かれていく。ロンドン、パリ(拙ブログ3/31)、ワシントン、そしてNYでプッサンの作品を73点もみることができた。こんな嬉しいことはない。ミューズに感謝々。
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