2009.07.06

写楽 幻の肉筆画 その二

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浮世絵で一番夢中になるのは風景画と美人画。今回最も見たかったのは写楽の肉筆ではなく、チラシに載っている歌麿の絵。上の‘風流六玉川’と‘歌撰恋之部 深く忍恋’。7点ある歌麿のなかで、この2点がとびっきりすばらしい。

‘風流六玉川’は6枚続きのワイド画面。画像は右の2つで、山城と近江の玉川。山城では綺麗な着物を着た3人の女が川のなかに入っているが、ほかは画面手前に人物を配し、その後ろを玉川が一つの川として左右に折れ曲がりながら、右下に向かって流れていく構図になっている。

水流の描き方が実に巧みで、ゆったり流れるところと山城のように水面が揺れ複雑な流れになっているところを描き分けている。目が点になるのが女の白い足が水中で透けてみえるところ。そして、たくし上げる着物の裾の曲がる部分が水面に呼応して立体的なフォルムになっているところもサプライズ。歌麿はこういうところの描写が天才的に上手い!

大首絵美人画‘深く忍恋’は東博蔵(拙ブログ07/12/23)に比べると倍くらい摺りの状態がいい。ベストといわれるギメ美蔵と遜色ない摺りとお墨付きのものが目の前にあるのだから、これ以上の幸せはない。息を呑んで見た。

菊川英山の美人画もチラシで気になってしょうがなかった。真ん中は‘風流夕涼三美人’。これまで見た英山のなかでは一番かもしれない。左に描かれた立ち姿の女の着物の柄は中央、右の座っている女のものより格段に目を引く。うすピンクの地に映える斜めの観世水文がとても洒落た感じなので、女が引き立つ。

2年前、太田記念美でみたギメ美にある英山の絵でも心拍数があがったが、とにかく英山の描く女の肌や顔はロシアの女性のように白い。欧米のコレクターが英山を集めたくなる気持ちがよくわかる。隣にある‘松坂屋店前美人画’にもグッと惹きこまれた。

歌麿や英山のこうした6枚あるいは3枚続きのワイド画面に200%KOされたが、ほかにもいいのがあった。はじめてお目にかかった歌川豊国の‘新吉原桜之景色’、一度みたことのある‘やつし妹背山’と‘両国花火之図’。いずれも摺りのいい横長画だから見ごたえがある。

春信は下の‘見立菊慈童’、‘母と子と猫’、‘唐子と布袋’の3点。菊を背景にして、すっと立つ少女に見惚れていた。‘唐子と布袋’はユーモラスな絵。水浴びをする布袋は見たことがない。可笑しいのが桶のなかの水。どうして海面みたいに大きく波立っているの?

江戸東博は毎年、いい浮世絵展を開催してくれる。06年のボストン美肉筆浮世絵展、07年の北斎展、08年のボストン美蔵の名品展、そして今年のマノスコレクション。流石、北斎が生まれたところにある博物館である。来年もまたワクワクするような里帰り展を期待したい。

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2009.07.05

江戸東博の写楽 幻の肉筆画 その一

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ここ数年、海外の美術館が所蔵する浮世絵を展示する里帰り展が目を楽しませてくれる。江戸東博で昨日からはじまった‘写楽 幻の肉筆画’(7/4~9/6)もその例にもれず、大きな満足がえられた。1回では書ききれないので、2日続けることにした。

出品作126点のほとんどは浮世絵だが、狩野派絵師の屏風、図帖が6点ある。展覧会の目玉のひとつはタイトルそのままの東洲斎写楽の肉筆画。といっても、写楽の絵というと、‘三代目大谷鬼次の奴江戸兵衛’(拙ブログ06/11/17)とか‘市川鰕蔵の竹村定之進’(08/7/14)のような役者大首絵をすぐイメージするから、素人浮世絵ファンには‘写楽に肉筆画があったっけ?!’というのが率直な反応ではなかろうか。

ところが、写楽の肉筆画があったのである!どこに?日本ではなく、ギリシャ!でもギリシャ本土ではなく、イオニア海に浮かぶコルフ島にあるアジア美術館。この話が1年くらい前、新聞紙上に載ったときはコルフ島がどこにあるか見当がつかなかった。地図で確認すると結構大きな島である。

この美術館にあったギリシャの外交官マノスが1900年代初めに集めた浮世絵のなかから、写楽の肉筆扇面画‘四代目松本幸四郎の加古川本蔵と松本米三郎の小浪’(上の画像)を見つけたのは学習院大教授の小林忠氏。浮世絵研究の大御所で千葉市美の館長でもある。小林氏はこれの発見により日本にあるもう一枚の扇面画、‘老人図’(三重県津市の石水博物館)も写楽の肉筆画に間違いないという。

現在、写楽が誰であるか?については内田千鶴子氏の立派な研究成果などにより、阿波藩の能役者、斎藤十郎兵衛であることがわかっており、これが定説になっている。以前紹介した内田氏の本、‘写楽を追え’(07/2/21)にこのことが詳しく書かれている。で、写楽=斎藤十郎兵衛説にもとづいて、写楽の絵の流れを整理してみた。

・寛政6年5月(1794) 写楽(33歳)役者大首絵28枚でデビュー
・寛政7年1月(1795) 役者絵、相撲絵を発表し、その後浮世絵界から姿を消す
・寛政7年5月(1795) 肉筆扇面画‘加古川本蔵と小浪’を描く
・寛政9年5月(1797) 蔦屋重三郎、47歳で亡くなる
・寛政12年(1800)  写楽(39歳)肉筆扇面画‘老人図’を描く

さて、目の前の扇面画である。描かれているのは寛政7年1月に演じられた仮名手本忠臣蔵の場面。右は眉間のしわが特徴の松本幸四郎が演じる加古川本蔵で、左が父の後をついていく小浪。本蔵の裃の衣紋線には墨と金泥がみえる。そして、刀の鍔、柄の部分にも鮮やかな金泥が使われている。色で魅せられるのが本蔵の黄色の着物の下に見えるうす青。神経質そうな顔をしているのに、身につけているものは洒落た色で彩られている。

わずか10ヶ月で浮世絵界から姿を消した写楽が実は寛政12年まで、いやもっと先まで?(斎藤十郎兵衛は58歳で亡くなる)、写楽愛好家の求めに応じて肉筆画を描いていた!こういう新たな事実がわかると、専門家でなくてもまた別の絵柄の扇面画がでてこないかと期待したくなる。長生きしなくては。

真ん中の屏風は狩野山楽の‘牧馬図’。これは六曲一双の左隻のほうで画面いっぱいに馬は沢山描かれている。これまで馬の絵は‘絵馬’とか‘随身庭騎絵巻’(大倉集古館、06/6/19)とか‘厩図屏風’(東博)は見たことはあるが、このように大勢の裸馬が疾走するところや後ろ足で立ったり、体を思いっきりひねったりしている姿はみたことがない。今年は山楽と妙に相性がいい。妙心寺展や大覚寺で名画と対面したからいい気分でいたら、さらに幸せプラスα。ギリシャからこんな傑作が里帰りしてくれた。ミューズに感謝!

初期版画で夢中になってみたのが奥村政信の‘遊君’シリーズ4点。下は‘鉄拐仙人’。みればわかるようにこれは普通の鉄拐仙人の絵ではない。吉原の遊女が鉄拐になっている。鉄拐仙人は魂を遠くに飛ばす術をもっている。それで遊女の口からでた息の先に禿が、この子は‘今いる男はもうすぐ帰るから、早く来てね、旦那!’と書かれた文を届けにいくのであろう。

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2009.07.03

エジプト旅行の思い出

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横浜では‘海のエジプト展’(6/27~9/23)、そして東京都美では‘トリノ・エジプト展’(8/1~10/4)。ともに歴史的に価値のある古代エジプトの像や宝飾品などが展示されるので、足を運びたくなる。こういう遺跡もの展覧会のときは子供をもつ親は時間とお金のやりくりが大変。展示された大きな石像は子供たちの胸のなかに強烈に刻み込まれ、エジプトに行ってみようという夢が芽生えるにちがいない。

巨大なピラミッドとスフィンクスは小さい頃からいつかこの目で見るぞと思っていたが、実現したのは12年前。楽しい思い出が9。10でないのは出来ることなら避けたかった下痢に一回やられたため。ツアー参加者のなかには結構これに悩まされた人がいた。

添乗員さんから水の悪さを注意されているから、絶対現地の水は飲んでないのだが、歯磨きや食事のときに食べたサラダなどで下痢するのである。エジプトへ行った人に聞いてみると、腹がぐるぐるした人が多いので、これはある程度覚悟していたほうがいい。現在もだぶん同じ状況ではないかと思う。

さて、お楽しみの名所観光、サプライズベスト3は、
★ツタンカーメン王の黄金のマスク(上の画像)
★アブ・シンベル大神殿(真ん中)
★カルナック・アメン大神殿(下)

日本でも公開されたとこがある‘ツタンカーメンのマスク’はカイロにあるエジプト考古学博物館に展示されている。あまりに有名なこの黄金のマスクは常時多くの人に囲まれている。眉毛と眼のふち、そして頭巾(ネメス)の横の小さな帯を彩る青と黄金のコントラストが目に強く焼きついている。

ギザの3大ピラミッドとスフィンクス(拙ブログ1/2)は本や映像でかなり見ているので、フォルム的にはそう刺激はない。が、その大きさには声が出ないくらい圧倒される。と同時に、この巨大なピラミッドをどうやってつくったの?と驚愕する。

デカいことではアブ・シンベル大神殿もすごい。正面のラムセス2世の4つの巨大な座像に口あんぐり。高さ20mもあるこの像の前に立ったことは一生の思い出である。

もう一つのサプライズはルクソール東岸にあるカルナック大神殿。神殿のハイライトは高さ23mの中央柱12本を中心に全部で132本の柱が並ぶ大列柱室。天に向かってそびえたつ太い柱の間をぐるぐるまわっているとアドレナリンがどばっと出てくる。

アガサ・クリスティの映画「ナイル殺人事件」にこの列柱室がでてくるが、上からパピルスのつぼみの柱頭が落ちてくるのではないかと勝手に妄想した。この列柱の先にはハトシェプスト女王のオベリスク(07/6/29)がある。

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2009.07.02

開国博Y150を食ってしまう海のエジプト展!

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横浜美から海のほうへ向かって10分くらい行ったところにあるパシフィコ横浜で6/27からはじまった‘海のエジプト展’(9/23まで)を見てきた。もともと関心が高かったのだが、朝日新聞の販売店が定期的に行っているチケットプレゼント(2300円×2枚)に応募したところ、幸運にも大当たり。応募者が多いチケットが当たると素直に嬉しい。

会場は地下鉄みなとみらい駅のすぐ近くにあるので、東京方面からだと渋谷で東横線の特急に乗るとアクセスがスムーズ。JRの桜木町で下車する人はそこから、動く歩道、クィーンズスクエアをどんどん進んでいくと15分くらいで会場に着く。

入場券売り場近くの自販機の後ろがコインロッカーになっているが、美術館とは違い300円は戻ってこない。これから混雑してくるとこれだけの数ではとても足りないので、これは利用できないと思っていたほうがいいかもしれない。

中に入ると、海底で発見された巨大な王の像、金のアクセサリーやコイン、壺、食器など(約490点)を鑑賞し、解説のビデオ映像をみたり、上手にディスプレイされたイラストパネルを読んだりと全部見終わるのに最低2時間はかかる。その間、重いバッグを持って歩くのはキツイ。

感想を書く前に会場を案内し注意事項を述べているのは、この展覧会は大勢の人が訪れ混雑必至と思われるから。夏休みに入ると子供たちや学生、親子連れがどっと押し寄せることは間違いない。じっくり見たい方は早めの出動を。

一般の美術館と比べると広い会場なので展示品のレイアウトがゆったりして、導線の流れがいい。発掘品はコインのように小さなものや大きな像があるので、単眼鏡があると便利。ひょっとして必要かもと思い持っていたら、すごく役立った。

上はヘラクレイオンから発見された‘プトレマイオス朝の王妃の巨像’(左)、‘ファラオの巨像’(中)、‘豊穣神ハピの巨像’(右)。高さ5mの3体が一緒に並んでいる姿は圧巻!一度訪問したエジプトの神殿の門の前にいるような気分になった。現地でもこれだけ大きな像はそれほど沢山は見なかった。これと同じくらい大きなものがもうひとつある。見てのお楽しみ!

同じくヘラクレイオンの海底に眠っていた真ん中の‘ウジャト形ビーズ’を興味深く見た。ウジャトは‘ホルス神の目’のことで、健康とか完全な目や健康な目を意味する。人々はこのビーズをお守りとして首飾りにつけたりした。

これをみてクリムトの‘アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像’(拙ブログ6/28)にみられる衣装の模様を連想した。目の模様は前からエジプトのパピルスに書かれたこのウジャトを借用したとみていたが、渦巻きも古代エジプトに霊感を得たことがわかった。これは収穫!

スフィンクスは何体もあるが、首が残っているのはアレクサンドリアからでてきた2体のみ。下はクレオパトラの父、プトレマイオス12世のスフィンクス。頭にかぶっているネメス頭巾とその端正な顔つきに目が釘付けになる。こんな魅力的なスフィンクスはみたことがない。

そして、絶世の美女クレオパトラの横顔が刻まれた貨幣(青銅)をじっくりみた。これがクレオパトラの実像?最後のコーナーで、古代エジプトゆかりの香料や花の香りを体験できるようになっている。気を引いたのは没薬、乳香、いい体験だった。

仕上げにみる大画面のヴァーチャル体験シアター(15分)はとても楽しくてわかりやすい。プトレマイオス朝やアレクサンドリアについての知識が増え、また美しい像にも遭遇した。予想をはるかに上回るすばらしい展覧会だった。

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2009.07.01

09年後半 展覧会プレビュー

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美術館の展覧会スケジュールは年度単位で発表されることが多く、年初の時点では次年度の計画をHPに載せてない美術館もいくつかある。だから、4~6月の情報が集めにくかった。これに比べると後半の展覧会情報は豊富。今ある情報をもとに出かける可能性の高い展覧会をとりまとめてみた。

★西洋美術
7/3~9/23    ゴーギャン展              東近美
7/4~8/30    メキシコ20世紀絵画展       世田谷美
7/14~10/12  黄金の都 シカン           国立科学博
7/29~8/31   ビュフェとアナベルー愛と美の軌跡展   横浜そごう
8/1~10/4    トリノ・エジプト展            東京都美
9/5~10/18   パウル・クレー展            横須賀美
9/12~11/29  ベルギー近代絵画のあゆみ     損保ジャパン美
9/12~11/29  オルセー美展 パリのアールヌーヴォー     世田谷美

9/16~10/12  クリムト・シーレ、ウィーン世紀末展  日本橋高島屋
9/19~12/13  古代ローマ帝国の遺産        国立西洋美
9/25~12/14  THE ハプスブルク           国立新美
9/26~11/29  エミール・ガレ展            茨城県陶芸館
10/3~10/25  古代カルタゴとローマ展        大丸東京
11/10~12/23 ロートレック展              Bunkamura
12/11~3月    束芋展                  横浜美

★日本美術
7/4~9/6     写楽 幻の肉筆画           江戸東博
7/4~8/16    芸大美コレクション展          東芸大美
7/11~8/23   小林かいち展              ニューオータニ美
7/11~9/6    道教の美術 TAOISM ART     三井記念美
7/14~9/6    染付展                  東博
7/14~9/6    伊勢神宮と神々の美術        東博
7/18~8/30   百鬼夜行絵巻展            国立歴博
7/25~9/6    シアトル美日本・東洋美術名品展  サントリー美

8/25~9/6    十二代三和休雪展          日本橋三越
9/5~10/12   英一蝶展                板橋区美
9/19~1/11   聖地チベット展             上野の森美
9/19~11/23  高橋誠一郎浮世絵コレクション展    三井記念美
10/1~11/29  速水御舟展              山種美
10/6~11/29  皇室の名宝展             東博
10/7~11/8   国宝那智瀧図と自然の造形     根津美
10/10~12/23 古伊万里展              東京都庭園美

10/24~12/20 水墨画展                静嘉堂文庫
10/24~12/20 冷泉家 王朝の和歌守展      東京都美
10/24~11/29 伝えゆく典籍の至宝展        五島美
11/28~1/11  鏑木清方展              サントリー美
12/1~1/24   村山槐多展              松濤美
12/5~1/31   東山魁夷展              山種美
12/5~2/7    柴田是真展              三井記念美

(ご参考)
・西洋美術で期待の展覧会は国立美の‘THE ハプスブルク’。03年に訪問したブダペスト国立西洋美で感激したラファエロの‘若い男の肖像’とグレコの‘受胎告知’がチラシに載っているのでびっくりした。さらにベラスケスの‘食卓の貧しい貴族’もやってくる。これにウィーン美術史美の王女マルガリータがあるのだからなんとも豪華な内容。

・7/4からはじまる‘メキシコ20世紀絵画’に出品されるフリーダ・カーロの絵を見るのがすごく楽しみ。いつか彼女の絵をみたいと思っていたが、やっと実現する。 また、お気に入りの束芋の回顧展も待ち遠しい。

・日本美術の目玉は何といっても東博の‘皇室の名宝展’。10年前同様、お宝が沢山公開されるはず。追っかけ作品が全部入っていることを今から念じている。 
・浮世絵は江戸東博と三井記念美の高橋コレクションがとても楽しみ。また、長らく待っていた‘英一蝶展’に対する期待も高い。画集に載っている代表作がどのくらい登場するか。

・この秋、NEW山種美(10/1)、根津美(10/7)が開館する。どんな展示空間になるのだろうか、興味津々。

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2009.06.30

MoMAのバッラ・ボッチョーニと再会したい!

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ニューヨーク近代美術館(MoMA)はこれまで2回訪問した。前回は93年とだいぶ前のことだから、谷口吉生の設計により04年増改築されたNEW MoMAはまだお目にかかってない。昨年のアメリカ美術館めぐりがいいチャンスだったのだが、日程のめぐりあわせが悪く休館。来年こそは久しぶりのグッゲンハイム、ホイットニー美とあわせて足を運ぼうと思っている。

MoMAでは作品の展示の仕方が変わったから、一体どんなものが常時みれるのか見当がつかない。手元にある館の図録に載っている作品で不運にも見れなかったものをまずリカバリーして、次にお気に入りの絵とまた会うというのがベストシナリオ。再会したい絵は沢山あるが、そのなかに未来派も当然入っている。

★バッラの‘街灯’(上の画像)
★ボッチョーニの‘サッカー選手のダイナミズム’(真ん中)
★ボッチョーニの彫刻‘空間における単一連続体’(下)

‘街灯’(1909)ははじめて見たバッラ(1871~1958)の絵だから、印象深い。現地でも見たが、日本にも2回やってきた。93年に上野の森美であったMoMA展と04年の森美の‘モダンってなに?’。MoMAの所蔵品は過去に結構公開されているから、NYに行かなくてもピカソやマティスなどの近代絵画や抽象絵画、そして現代アートの名品は楽しんでいる。

数限りない赤や青、黄色のV字の記号で表現された街灯の光はいろいろなことを連想させる。線香花火がパチパチ音を立てて燃えてるところとか、光に引かれて集まってくる蛾の群れ、核爆発のときにでる閃光とか光速に近いスピードで正面衝突させられた陽子から生まれる巨大なエネルギーなど々。未来派というとこの絵がすぐイメージされる。

ボッチョーニ(1882~1916)の‘サッカー選手’(1913)も01年上野の森美に展示された(3回あったMoMA展の最後)。これはわかりにくい絵。未来派の絵に精通している専門家でないと、画面からサッカー選手はとらえられない。真ん中で円運動をしているように見える京都のお土産、‘生八橋’みたいな抽象的な形態の重なりが選手の動きを表現しているのだろうか。その選手たちのダイナミックな動きにまわりからスポットライトを当て讃えている。バッラの絵同様、一度見たら忘れることはない。

ボッチョーニがつくった彫刻はこれとローマの国立近代美にあった半分具象的な人物像しか見たことがない。黄金の光が眩しい‘連続体’(1913)には大変魅せられており、抽象彫刻ではこれとブランクーシの作品にぞっこん惚れている。

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2009.06.29

西洋画・日本画比較シリーズ!バッラvs平治物語絵巻・加山又造

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西洋画でも日本画でも、ときどきびっくりするような描写に出合うことがある。今日はその絵を軸にして、意外な類似性をお見せしたい。

★バッラの‘綱でひかれた犬のダイナミズム’:バッファロー、オルブライト=ノックス美(上)
★平治物語絵巻(信西巻):静嘉堂文庫(真ん中)
★加山又造の‘駆ける’:個人(下)

未来派の絵が好きで、3年前ローマの国立近代美にあったバッラ(1891~1958)やボッチョーニ(1882~1916)らの作品をむさぼるようにして見た(拙ブログ06/5/27)。バッラの犬の絵(1912)はまだ本物をみてなく、図版で眺めているだけなのだが、とても惹かれている。

画面には犬だけでなく、上にドレスを着た女性の下半身もみえ、犬と女性の足の動きが連続写真のように描かれている。疾走する馬の運動を分解写真でみせられると、その躍動感がより強く伝わってくるように、この犬も女性もかなりのスピードで前に進んでいることがうかがえる。

問題の絵は真ん中。これは3つある‘平治物語絵巻’の‘信西巻’(重文)。国宝のものが東博にあり、ボストン美にもある(06/2/2008/8/8)。もともとは15巻の長編大作で、13世紀後半に制作されたと考えられている。まだ見てなかった‘信西巻’が静嘉堂文庫で展示されたのは4年前。

美術本に載っている長刀に掛けられた信西の首が見れると思って、足どりも軽く入館した。ところが、展示してあったのはお目当ての場面ではなく、真ん中の公家の牛車のところ。巻き替えがあるとは予想もしてなかった。当てが外れたと溜息まじりでみていたら、目の前にすごい描写があった。

ぱっと見るとこれはあまりおもしろくない場面。牛車が休憩している。だが、手前右の牛車をよくみてもらいたい。牛が猛然と右のほうへ進もうとしているのである。牛車が動いていることは大きな車輪の内側に描かれた3つの黒い輪をみるとわかる(クリックした拡大図でどうぞ)。絵師はここで牛車が走り出すところまでの動きを異時同図法の手法で描いているのである。

車輪が勢いよく回転する様をスポークの黒い輪で表すのをみて、すぐバッラの犬の足を連想した。未来派の画家たちが表現しようとしたスピード感が日本の絵巻のなかでこんな風に描かれていたとは!これには200%参った。

わが愛する加山又造(1927~2004)は若いころ相当未来派にのめり込んだようで、馬の走る姿を連続的に重ねたフォルムで表現した‘駆ける’(1955、部分)は日本のバッラを思わせる。

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2009.06.28

クリムトの黄金様式に魅せられて!

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朝、日曜美術館で特集していた‘クリムト’を興味深く見た。寝坊して頭の15分をみなかったから、今なぜクリムト(1862~1918)の黄金様式を取り上げるのかわからずじまい。今年はオーストリアイヤーで、秋には日本橋高島屋で‘クリムト・シーレ、ウィーン世紀末展’(9/16~10/12)があるから、これを企画したのだろうか?

クリムトの代表作の多くに黄金がふんだんに使われている。黄金の兜がきらりと光る‘パラス・アテナ’(拙ブログ05/7/12)、平べったい黄金の衣装が装飾性に満ち溢れている‘接吻’(6/8)、そして次の3つ。

★アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像Ⅰ:NY、ノイエ・ギャラリー(上の画像)
★ユーディットⅠ:ベルヴェデーレ美(真ん中)
★ベートーベン・フリーズ:分離派館(下)

もとは‘接吻’とともにベルヴェデーレ美の目玉だった‘アデーレ’(1907)は06年、美術品史上最高額の156億円という値がつき、現在ノイエ・ギャラリーの所蔵となっている。今となっては03年ウィーンを訪問したとき、これを鑑賞できたので胸をなでおろしている。もし、どこかへ貸し出し中だったら悔いを残すところだった。

ところで、ノイエ・ギャラリーは誰でも入れる画廊?また、訪ねればクリムトの絵をいつでもみられるのだろうか?もしそうであれば来年のNY再訪の際、出かけてみたいのだが。事前に調べてみようと思う。

アデーレの背景や着ているドレスは目のような模様や渦巻きや四角の文様が繰り返され平面的に構成されている。装飾性を高めるとどうしてもフラットになる。でも、この絵を浮いた気分でみてないのは、この女性の目の大きな顔や手が写実的に描かれ、ちゃんと肖像画になっているから。

番組のなかで、オーストリア応用美術博物館の学芸員が日本の金屏風がクリムトの黄金様式に与えた影響とか、光琳の‘紅白梅図屏風’と‘アデーレ’や‘ダナエ’(06/11/5)の類似性を具体的に指摘していた。‘紅白梅図’(05/3/6)の真ん中に描かれている独特の曲線をもった‘光琳波’が確かにアデーレのドレスの膨らんだフォルム、またダナエの体の一部を隠している茶褐色の布と似ている!この関連性ははじめて聞いたが、なかなかおもしろい。

美術史家、馬渕明子氏が日本の着物や工芸に使われた文様がクリムトの作品のなかにいくつもでてくることをわかりやす例をあげて解説していた。これは15年前、東武美(今は無い)で開催された‘ウィーンのジャポニスム展’で一度理解していたから、すっと頭の中に入った。どうでもいいことだが、昔よく日曜美術館にゲスト出演されていた馬渕氏もだいぶお年をめされた感じ。が、相変わらず品のいい方である。

‘ユーディット’(1901)はわざとぼかして描いてある顔ばかりに目がいくが、見逃してならないのは右下にちらっと見えるホロフェルネスの首。貞淑なユーディットがクリムトの黄金様式にかかると、このように官能的なファム・ファタール(宿命の女)に変容する。

‘ベートーベン・フリーズ’(1902)はコの字型の最後の場面で、‘第9’の第4楽章を表す‘幸福への憧れ’が描かれている。耳をすますと館内のどこからともなく‘歓喜の歌’の大合唱が聴こえてくる。

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2009.06.27

酔いしれるルネ・ラリック展!

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魅惑的なジュエリーやガラス工芸を数多く創作したルネ・ラリックの回顧展(6/24~
9/7、国立新美)を楽しんだ。作品数は400点とラリックの代表作をかなり集めてきているから、大きな満足が得られた。そのなかで見たくてしょうがなかったのがリスボンにあるグルベンキアン美術館が所蔵する‘ティアラ・雄鶏の頭’(上の画像)。

この展覧会の情報に接したとき、ラリック作品のコレクションで有名なあのグルベンキアン美のお宝が入っていることがわかり、胸が高鳴った。この美術館は数年前、NHKで放映された‘世界の美術館’で紹介され、‘グロテスクな装飾の精華’や‘エナメルの鱗をまとった9匹の蛇’といったすばらしい胸元飾りが目に焼き付いている。

これは流石に出さないだろうが、同じくらい惹きつけられるティアラを日本で見られたのは本当に幸せなこと。ジュエリーのコーナーにあるものでは、この‘雄鶏の頭’とオルセー美から出品されたハットピン‘ケシ’が大きさ、装飾性、細工の緻密さの点で群をぬいていい。

ラリックのモティーフで気に入っているのがトンボ。ペンダント、指輪など4点あり、真ん中はペンダント‘四匹のトンボ’。透明感のある羽根がトンボ捕りに夢中になって遊んだ子供の頃を思い出させてくれた。宝飾品は小さいものが多いから見過ごしやすいが、女性だと顔の形、昆虫だと表面の質感などその精緻なつくり込みにおもわず惹きこまれる。そして、女の顔がケシやスミレ、木の枝、水流に変容するところはシュールで夢幻的なイメージが漂う。

ガラス工芸は箱根のラリック美術館で目が慣れているから、ゆったりした気分で見て回った。美しい裸婦像に心がふわっとなる‘三足鉢・セイレン’(拙ブログ05/3/29)や‘花瓶・ナディカ’&‘バッカスの巫女’、量感のあるダリア、雀のフォルムを釘付けになってみた。

今回の収穫は1925年のアールデコ博覧会(パリ)に出品された野外噴水塔‘フランスの水源’。全部で16種類、128体あった河川と泉を象徴する女神像のうち12体が飾られている。これは圧巻!下はそのなかの4点。こういうタイプのガラスの立像は東京都庭園美の玄関にあるものしか見たことがないので、すごく新鮮だった。大半が日本のコレクターが所蔵しているもの。あらためて日本にはガレやラリックの作品を熱心に集めている人が多くいることがわかった。これほど美しいのだから、目の色が変わるのは無理もない。

この先の展示はカーマスコット、置物、テーブルセット、香水瓶、装飾パネル、テーブルセンターピースなど。その中に‘常夜灯・二羽に孔雀’(05/5/5)があった。再会した北澤美の‘センターピース・二人の騎士’に嬉しくなると同時にセットで並べてある初見の‘三羽に孔雀’も息を呑んで見た。

ラリックはこれで一休みできるが、秋に世田谷美で‘オルセー美展 パリのアールヌーヴォー’(9/12~11/29)があるから、そこでもラリックの名品がみれるかもしれない。期待したい。

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2009.06.26

西洋画・日本画比較シリーズ! マンテーニャ vs 広重・国芳

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ここ数年の浮世絵鑑賞で目に力を入れているのは広重と歌麿。東博の浮世絵平常展示を見るのをルーティンにしているのは二人のまだ見ていない絵と遭遇するため。

歌麿の追っかけ作品(残り10点くらい)がすこしずつ姿を現してくれるのに対し、長らく待っている広重の‘東都名所’とか‘江戸名所’シリーズの展示はスローテンポ。ということは絵そのものが無いのかもしれない。

だから、最近TASCHENの‘広重’で目にした‘東都名所’の‘かすみがせき’、‘霞が関夕景’、‘両国花火’、‘新吉原五丁町弥生花盛全図’のような鑑賞欲をそそるものをここに求めても無駄なような気がしてきた。もう5年も通っているのだから、もし所蔵しているのであれば、1回くらいは展示されているはず。頭を切り替える時期かも。

今回の似ている西洋画と日本画はマーテーニャと広重・国芳。最初に頭の中にあったのは広重と国芳の絵で、これにコラボしたのが昨年ルーヴルで会ったマンテーニャ。
★マンテーニャの‘キリストの磔刑’(上の画像)
★広重の‘名所江戸百景・湯島天神社’(真ん中)
★国芳の‘東都名所・かすみが関’(下)

4年前、太田記念美で待望の‘名所江戸百景’と対面した。この美術館が所蔵するものが日本では最も摺りの状態がいいから、夢中になって見た。そして、絵の中に同じような場面がでてくることに気づいた。広重は人々が石段や坂を登ってくるとことを正面、あるいは斜め横から描いているのである。

例えば、‘湯島天神社’では画面中央に下から石段を登ってくる二人の男がみえる。なにげない描き方であるが、これで画面に立体感が生まれている。坂を上がってくるところをアップでとらえたのが‘愛宕山’、ほかにも‘上野寛永寺’、‘王子稲荷社’、‘日暮里諏訪の谷’、‘かすみが関’で同じような光景がみられる。傾斜のきつい坂を人々がふうふういいながら登ってくる様子を実にリアル描いているのが国芳の‘かすみが関’。この絵をみるたびに国芳はたいした絵師だなと思う。


マンテーニャが描いた‘キリストの磔刑’は拙ブログ08/2/26でアップしたとき、広重との類似性についてふれた。手前真ん中に男の上半身と頭がみえる。ここはキリストが磔になっているところより低くなっている。そして、キリストの十字架の後ろに目をやると、遠くから坂を登ってきている兵士がみえる(クリックした拡大画面がよりわかりやすい)。

マンテーニャは短縮法を使って向こうから登ってくる坂道、平な磔刑場、そしてこちら側が下っていることを表現している。ルネサンス期に体の一部を画面からはみださしたり、空間を正面から見て高低差があるように描く画家はマンテーニャのほかにはいない。この画面構成は広重や国芳のそれとしっかり響き合っている。

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